テラーノベル
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🌹はなみせ🍏
東京のきらびやかなビル街を抜け、少し静かな裏通りへ。大森さんの後ろをついていく私の足は、緊張でふわふわと浮いているみたいだった。
案内されたのは、コンクリート打ちっぱなしの無機質な、でもどこか温かみのあるスタジオ。重い扉が開いた瞬間、そこには「画面の向こう側」だった景色が広がっていた。
整然と並ぶ機材、何本ものマイク、そして——。
「あ……」
思わず入り口で足が止まった。
若井さんと藤澤さん。そして、テキパキと動くたくさんのスタッフさんたち。YouTubeのメイキング動画で何度も見た、あの真剣で、でも楽しそうな「現場」が目の前にある。
大森さんが「おはよー」と声をかけると、一斉に視線がこちらを向いた。
その瞬間、スタジオ内の空気がピタッと止まるのがわかった。スタッフさんの手が止まり、若井さんと藤澤さんの目が点になっている。
制服姿の女子中学生が、大森元貴の後ろに立っているのだから、当然だ。
でも、当の大森さんはそんな視線を気にする様子もなく、「ここ座ってて」と、自分がいつも使っているであろう機材の前の椅子に私を座らせた。
「ちょっと、元貴! その子(その人)だれ!?」
若井さんと藤澤さんの声が綺麗に重なって、スタジオ中に響き渡った。
あまりに突然の大きな声に、心臓が跳ね、耳の奥がキーンと痛む。無意識に身を縮めたその瞬間、ふわりと温かい感触が両耳を包み込んだ。
大森さんが、後ろからそっと私の耳を塞いでくれたのだ。
(えっ……?)
驚いて見上げると、大森さんは至近距離で優しく微笑んでいた。私、感覚過敏のこと、さっきの立ち話で詳しく言ったんだっけ……? でも、彼は私の特性を、まるで最初から知っていたかのように守ってくれた。
そのまま大森さんは、二人やスタッフさんたちに向かって、淡々と言った。
「さっき外で出会って、連れてきた。今日は見学してるから。あ、あと今日は騒ぐなよ」
それだけ言い残すと、彼は何事もなかったかのように自分の準備に戻ってしまった。
残された私は、豪華すぎるメンバーとスタッフさんたちの「はぁ!?」という無言のツッコミに囲まれながら、大森さんの椅子の温もりを感じて震えていた。
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