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「……入った」
セブンが小さく呟く。
モニターの光が二人の顔を照らしていた。
深夜。
誰もいない部屋。
だが画面の向こうには数千人がいた。
巨大な人気ゲームサーバー。
週末のゴールデンタイム。
プレイヤー数は上限近くまで膨れ上がっている。
チャット欄は流れ続け、戦闘や取引や雑談が飛び交っていた。
誰も知らない。
今、自分たちの頭上に落ちようとしているものを。
Noliは椅子の背もたれに逆向きに座り、顎を乗せながらニヤニヤしていた。
「緊張する?」
「別に」
セブンは平然と答える。
だが心臓は少し速かった。
今までにも色々やった。
荒らしも。
侵入も。
実験も。
だが今回は規模が違う。
桁が違う。
数人じゃない。
数十人でもない。
数千人。
サーバーそのものを舞台ごと吹き飛ばす。
そんな経験は初めてだった。
Noliはそんなセブンを見て楽しそうに笑う。
「顔がいいね」
「何が」
「期待してる顔」
「してねえよ」
「してる」
断言だった。
Noliは立ち上がる。
そしてセブンの肩に顎を乗せた。
モニターを覗き込む。
「見てよ」
画面には大勢のプレイヤー。
笑っている者。
遊んでいる者。
仲間と会話している者。
誰も気づいていない。
「観客がいっぱいだ」
Noliが嬉しそうに囁く。
「最高じゃない?」
セブンは返事をしなかった。
だが口元は少し上がっていた。
その表情を見て、Noliは満足そうに笑う。
「行こうか」
静かな声。
「僕たちの初舞台だ」
セブンはマウスを握る。
カーソルを動かす。
実行ボタンの上で止まる。
一秒。
二秒。
三秒。
そして。
クリック。
その瞬間だった。
サーバー内部で異常な負荷が発生する。
権限が書き換わる。
プロセスが暴走する。
警告ログが雪崩のように流れる。
管理者アカウントが反応する頃にはもう遅かった。
画面が一瞬止まる。
そして。
――暗転。
数千人が同時に切断された。
チャット欄が爆発する。
「?????」
「なに!?」
「落ちた!?」
「サーバー死んだwww」
「管理者なにやってんだ!」
「ふざけんな!」
「助けてwwww」
「なんだこれ!!」
悲鳴。
混乱。
怒号。
パニック。
チャットが滝のように流れていく。
セブンは思わず息を呑んだ。
想像以上だった。
たった一つのクリック。
それだけで。
何千人もの時間と遊びと日常が吹き飛んだ。
そして隣を見る。
Noliは――
固まっていた。
目を見開いて。
チャットを見つめて。
数秒。
完全に沈黙した後。
突然。
「っ、ははっ」
笑い始めた。
「ははははは!」
肩を震わせる。
腹を抱える。
息ができなくなるほど。
「見た!?」
「セブン見た!?」
興奮で声が裏返る。
「最高だ!」
「最高じゃないか!!」
Noliは勢いよくセブンの肩を掴む。
顔が近い。
異様なほど近い。
「ほら見ろよ!」
画面を指差す。
「悲鳴だ!」
「怒ってる!」
「混乱してる!」
「みんな何が起きたか分かってない!」
その瞳は狂気的なほど輝いていた。
「最高のオープニングアクトだ」
Noliはうっとりと呟く。
まるで芸術作品を鑑賞するみたいに。
「まだ前座だよ」
「本番ですらない」
「なのにこんなに綺麗だ」
セブンは画面を見る。
チャットはまだ荒れ続けている。
管理者たちが対応に追われている。
プレイヤーたちは状況を理解できず混乱している。
そして。
胸の奥が熱かった。
恐怖ではない。
罪悪感でもない。
もっと危険なもの。
「……面白いな」
気付けばそう呟いていた。
Noliが振り返る。
そして笑う。
嬉しそうに。
本当に嬉しそうに。
「だろ?」
まるで仲間を見つけた子供みたいに。
「君なら分かると思ってた」
Noliはセブンの肩に腕を回した。
距離感なんて最初から存在しない。
「これは始まりだ」
小さく囁く。
「もっと大きな舞台」
「もっと多い観客」
「もっと綺麗な悲鳴」
モニターの青白い光の中。
二人は崩壊したサーバーを見つめる。
誰かにとっては最悪の夜。
けれど。
二人にとっては。
間違いなく、ショーの開幕だった。
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