テラーノベル
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「……つまらない」
Noliがそう言ったのは、セブンが三日かけて組み上げたコードを見た直後だった。
部屋の空気が一瞬止まる。
セブンはキーボードを叩く手を止めた。
「は?」
「だから、つまらない」
Noliは椅子の上でくるくる回りながら、モニターを指差した。
「効率は完璧」
「処理速度も完璧」
「侵入精度も完璧」
「でも面白くない」
「意味が分からん」
「だって誰も見れないじゃん」
Noliは本気だった。
心底不満そうだった。
「せっかく世界を壊すのにさ」
「裏側だけ壊してどうするの」
「観客がいるんだよ?」
「ショーなんだよ?」
「もっとこう……派手にやろうよ」
セブンは呆れた顔をした。
「お前は本当に目立ちたがりだな」
「当然だろ」
即答。
一切の迷いもない。
Noliは胸を張った。
「主役なんだから」
「誰が」
「僕たちが」
その言葉にセブンは思わず吹き出す。
Noliは不満そうに頬を膨らませた。
「笑うなよ」
「いや、笑うだろ」
「僕は真面目だ」
「それが一番面白い」
Noliは机に突っ伏した。
「はぁ……」
大袈裟なため息。
「セブンのコードは好きだよ」
「でもさ」
顔だけこちらへ向ける。
「もっと美しく壊そうよ」
「美しく?」
「うん」
Noliは笑う。
いつもの危険な笑顔だった。
「どうせ悪役なら、最高に目立たないと」
⸻
その数日後。
二人はとある人気ゲームサーバーへ侵入していた。
数万人規模の大型イベント。
マップ中にプレイヤーが集まり、運営がショーを進行している。
チャット欄は流れ続けていた。
「始まる!」
「楽しみ!」
「やばい人多すぎw」
誰も知らない。
このイベントに別の演出家がいることを。
Noliはワクワクした様子でモニターを見ていた。
「それで?」
「今回は何するの?」
「お前が文句言ったからな」
セブンが答える。
「少し派手にしてやった」
「え?」
Noliが首を傾げる。
その瞬間。
セブンがエンターキーを押した。
世界が変わる。
イベント会場の空が突然赤く染まった。
プレイヤー達がざわつく。
「なに?」
「イベント?」
「演出変わった?」
次の瞬間。
夜空いっぱいに巨大な影が現れた。
誰もが空を見上げる。
そして。
息を呑んだ。
そこに浮かんでいたのは――
Noliのアイコンだった。
巨大。
異様。
マップ全体を覆い尽くすほど巨大なNoliの顔。
しかも不気味な笑顔付き。
チャットが爆発する。
「!?!?!?!?」
「なんだこれwwww」
「怖すぎる!!」
「誰だよこいつ!!」
「空見ろ空!!!!」
「助けてwwwww」
「運営!?!?」
サーバー全体がパニックになる。
そして。
隣で。
完全に固まっている男がいた。
「……」
Noliである。
「……」
数秒。
沈黙。
それから。
「ッッッッ!!」
机を叩いて立ち上がった。
「これだよ!!」
絶叫だった。
「これ!!」
「これだよセブン!!」
Noliは勢いよくセブンに抱きついた。
椅子ごと転びそうになる。
「おい!」
「見ろ!!」
Noliは興奮で顔を真っ赤にしている。
「全員見てる!!」
「みんな空を見てる!!」
「僕を見てる!!」
「そういうことだよ!!」
笑いが止まらない。
チャット欄は今も大混乱だった。
巨大なNoliの顔が空に浮かび続けている。
プレイヤー達は逃げ回り。
スクリーンショットを撮り。
悲鳴を上げている。
Noliは幸せそうだった。
心底。
幸せそうだった。
「最高だ……」
うっとりと呟く。
「芸術だよこれは」
「ただの嫌がらせだろ」
「違う」
即答。
「観客がいて」
「舞台があって」
「主役がいる」
「完璧なショーだ」
セブンは呆れたように笑った。
だが。
悪くなかった。
隣で狂ったみたいに喜んでいるNoliを見るのは。
Noliはしばらく空に浮かぶ自分の顔を眺めていたが、不意に振り返る。
そしてセブンのパーカーを掴んだ。
「セブン」
「なんだ」
「君は天才だ」
「知ってる」
「調子乗るな」
Noliは笑った。
それから衝動的にセブンの頬へキスを落とす。
ちゅっ、と軽い音。
一瞬だった。
「ご褒美」
「おい」
「最高の演出家への賛辞」
「二度とやるな」
「考えておく」
全然考えていない顔だった。
その後もNoliは上機嫌のまま、
「次は空一面に僕たちの名前を書こう」
「却下」
「巨大な笑い声を流すのは?」
「却下」
「僕の顔を百個に増やす」
「絶対却下」
そんなやり取りを続けながら、
二人は崩壊寸前のサーバーを眺めていた。
まるで最前列の特等席で、
自分たちだけの舞台を観劇するように。
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