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「はぁ……はぁ……はぁ……や、やべえな。『第二形態』も『第三形態』も通用しないなんて、お前、本当に人間か?」
「人の形をしているけれど、私は確実に人ではない何かよ」
「そう……かよ。ははは、勝てる気がしねえな」
「まだ全身に鎧を纏うことができるはずよね? 早く見せてちょうだい」
「そう焦るなって……俺だって、考えながら戦ってんだ。むやみに突進はしねえよ」
「そう……なら、これで終わりね」
「いーや、終わらせねえ」
「どうして? どうしてあなたは、そこまで傷ついてもまだ立ち上がれるの?」
「『|紫水晶の形態《アメシスト・モード》』になっても、勝てるかどうか怪しいな……」
「質問に答えなさい」
「『|十一月の誕生石の形態《トリプルゴールデン・モード》』でも……無理そうだな」
「質問に答えなさい! 今すぐに!!」
アイは白い壁にめり込み、ぐったりしているナオトの襟首を掴《つか》んでそう言った。
「ああ……そういえば、エメラルドを全身に纏《まと》ったことなかったな。でも、あいつは俺の体を石言葉の力で『安定』させてくれているから、無理……かな……」
「あなた……もう意識が……」
「……いや、まだ手は……ある。あいつなら、きっとやってくれる」
「『|黒影を操る形態《ダークウルフ・モード》』になる気があるのなら、やめておきなさい。今のあなたの体では絶対に……」
「……この世に……絶対なんて……ないんだよ。だから、俺は……諦めない……。この身を犠牲にしてでも、あいつらを守る」
「そんなに死にたいのなら望み通り殺してあげるわ。安心しなさい、一瞬で終わらせるから」
アイの人差し指がナオトの額に触れた。ナオトの体がもうボロボロなのは分かっていた。
だからこそ、彼女は彼を倒すのを拒んだ。最愛の人を殺さなければ、その人を止めることができない。
そんな彼を止めるために彼女は彼と本気で戦った。右半身が人で無くなっても、戦い続けようとする彼を見ていられなかった。
ああ……俺……このまま、終わるのかな? もっといろんなものを見たかったな……。
みんなと……まだ一緒に旅がしたかったけど、俺はもうここで終わり……みたいだ。
じゃあな、ミノリ。お前と出会えたおかげで俺は。
『あんた! 何言ってんのよ! 今からそっちに行くから、待ってなさい!!』
ああ……死に際にミノリの声が聞けるなんて、俺は幸せ者だな……。
『あたしの固有スキルであんたに話しかけてるのが、分からないの! 昨日の大会の時にも使ってたでしょ!』
ミノリの声が聞こえる……すごく気分がいいな。
俺、このまま死んでも構わな……。
『あと少し待ってて! そしたら、あんたを助けられるかもしれないから!!』
ミノリ……最後まで俺を生かそうと……してくれるのか。いいやつだな……お前は。
「さようなら、ナオト。私の愛しい人……」
アイがナオトの顔面めがけて拳を打ち込もうとした、その時……。
「まだ死ぬんじゃないわよ! バカナオトおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ミノリ(吸血鬼)が白い壁をぶち壊して、ナオトとアイの前に現れた。どうやら、二十人を気絶させることに成功したらしい。
ミノリは脇にミカン(オレンジ髪ロングと四枚の翼と先端がドリルになっているシッポが特徴的な天使)を抱えてやってきた。
「死に損ないが! 今さら来ても無駄よ!」
「あんたには世話になったけど、家族を傷つけるような人を尊敬する気はさらさらないわ!」
「そう……なら、ここで死になさい!」
ミノリはアイが攻撃を仕掛けて来る前にミカンを叩き起こすと、耳元で何かを言った。
「行っけえええええええええええええええええ!!」
ミノリはミカンをぶん投げると、親指の先端を噛み、血液製の日本刀を作った。
その後、ミノリはそれでアイの手刀をなんとか受け止めた。
「あなた、一体何をする気なの?」
「あんた、あたしたちを作った張本人なのに、あたしたちのこと何にも知らないのね」
「どういう意味か説明しなさい! これは命令よ!」
「それは言えないけど、今から分かるから言うまでもないわ!」
「この……愚か者があああああああああ!!」
アイは、ミノリの日本刀を左手で握り潰した。その頃、ミカンはナオトのところへ行くと、成功率『一パーセント』の儀式をやり始めた。
「『ワレ、コノモノノ、チカラト、ナルモノナリ。ワレノ、チカラヲ、カテトシ、テキヲ、ウチホロボス、チカラヲ、イマコソ、コノモノ二、アタエル。ワガネガイヲ、キキイレル、ノナラ、ワレヲ、コノモノノ、ニクタイノ、イチブト、セヨ!!』」
ミカンはそう言うと、ナオトの額にキスをしようとした直前に、こう言った。
「『|強制合体《フォースコネクト》』……」
ミカンのプックリといい感じに膨れた唇《くちびる》がナオトの額に触れた瞬間、ナオトの周囲からとてつもなく眩しい金色の光が溢れ出した。
それにより、彼の傷は完治した。彼は誕生石の力ではなく『|黒影を操る狼《ダークウルフ》』の鎧を身に纏《まと》うと、ゆっくりと立ち上がった。
そして、ミカンの額を自分の額に重ねた。
ミカンが微笑みながら、ナオトに抱きつくと、ミカンは金色の光となってナオトの体の中に入っていった。
その直後、ナオトの背中から四枚の黒い翼が出てきた。
それは元々、白い翼だったのだが、いつのまにか黒く染まっていた。次に彼の尾骨から先端がドリルになっているシッポが飛び出した。
____黄緑色の瞳は『エメライオン』の力で暴走しないようにしているという証。
黒い鎧は『|黒影を操る狼《ダークウルフ》』製。四枚の黒い翼と先端がドリルになっているシッポは『ミカン』のもの。
これが『強制合体《フォースコネクト》』の効果。モンスターチルドレンの力を人間に一時的に譲渡するものである。
ミノリ(吸血鬼)とアイ(先生)はいつのまにか攻撃をやめており、ナオトの新しい姿に目を奪われていた。
「モンスターチルドレンと人が一時的にとはいえ、融合できる儀式が成功するなんて……さすがはナオトね」
「当然よ! あたしの……あたしたちのナオトを甘く見ないで!」
二人のそんなやりとりが終わると、ナオトはゆっくりとアイに向かって歩き始めた。
「『|黒影を操る天使の形態《ダークエンジェル・モード》』……といったところかな。まあ、これでまた俺は戦えるわけか」
『ナオトト、ワタシハ、イマ、イッシンドウタイ、ダカラ、コワイモノナンテ、ナイ!!』
「ああ、そうだな。ミカン。俺たちの力……見せてやろうぜ!!」
『ウン!!』
ナオトはアイの前で止まると、ミノリの方を向き、壊れた壁の方を指差した。
ミノリは他のみんなのことを頼むというサインだということを察して、その場から離れた。
「それじゃあ、始めましょうか。私とあなたのどちらが勝っても恨みっこなしの戦いを」
「今の俺はすごく調子がいいから、あっさり負けても泣き喚《わめ》くんじゃねえぞ?」
「ふん、それはどうかしらね」
「ははは、そうだな。それはやってみないと分からないよな」
その直後、両者は育成所が震えるほどの白いオーラと黒いオーラを体の周囲から出し始めた。
「はぁああああああああああああああああああ!!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
黒と白。陰と陽。光と闇。相反するものは決して交わってはいけないものだが、今この場において、そんなことはどうでもよくなっていた。
世界のため、平和のため、人のため、世のため、そんなことなど一切考えていなかった。
ただ、己《おのれ》の力を信じ、相手を倒すことだけを考えていた。
力を限界まで高め、脳のリミッターを外し、血液循環を促進させ、全細胞、全神経に、こう命令した。
【勝つまで、戦い続けるから覚悟しろ】と。