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朝。それは一日の始まり。
カーテンの隙間から差し込んでくる太陽の光が俺たちを起こそうと毎朝、奮闘している。
正直、起きたくはなかった。
しかし、このままでは話が一向に進まないため、仕方なく起きると、俺が今置かれている状況を確認した。
ミノリ(吸血鬼)は俺の腹の上にうつ伏せで眠っている。
どうしてこう、いつもいつも俺には無防備なのだろうか?
もしかして、俺って男として見られていないんじゃ。
ん? でも最近、俺以外の男には興味がないとか言ってたような……。
うーん、まあ、とりあえず起こすか。俺はミノリの頬を少しつねった。すると。
「んー、痛いわよ、ナオトー」
ミノリはそんな寝言を言った。どうやら夢の中でも俺が出てきているらしい。どんな内容か少し気になったがもう一度、起こすことにした。
「なあ、ミノリ、もう朝だぞ。いい加減起きてくれ」
「……スゥ……スゥ……」
「おーい、起きろ」
「……スゥ……スゥ……スゥ……」
はぁ、ダメだ。まったく起きる気配がない。
俺が起こすのを諦めかけた時、前にもこんなことがあったような気がした。
そう、あれは確かマナミ(茶髪ショートの獣人)とシオリ(白髪ロングの獣人)がうちにやって来た時のことだ。
ミノリ(吸血鬼)が急にフリーズして……えっと、俺はそのあと、なんて言ったかな?
少し自分の記憶を巻き戻してみると、ミノリは自分以外の誰かに俺を独り占めされるのが嫌いだということが分かった。
どうやら『ダークネスパラダイス』に行くと(二回しか行っていない)記憶が少し思い出しにくくなるようだ。
参ったな……。俺はサナエ(その場所の主)にまた来ると約束してしまったから、これからもサナエのところに行かなきゃいけないんだよな……。
まあ、あれだ。俺はサナエのところに行く前に日記か何かにそこに行く前の出来事を記録しないといけないわけだ。
厄介なやつの名付け親になってしまったな……。
でも、そのおかげでミノリを起こす方法を思いつくことができたから、良しとしよう。
俺はそれを実行するためにミノリの耳元に顔を近づけると。
「ミノリー、早く起きないと例の変身能力を持ったスライムが俺を独り占めするって言ってるぞー」
そう囁いた。
するとミノリは目を覚ました。その直後、俺を抱きしめながら。
「それだけは絶対にダメええええええええええ!!」
目に少し涙を浮かべた状態でそう言った。まったく、こいつはいったい俺のどこに惚れたんだろうな。
でもまあ、こんなに愛されるのは悪くない。俺は心の中でそんなことを考えながら、ミノリを優しく抱きしめた。
「ミノリ、俺はずっとお前のそばにいるぞ。だから、安心しろ」
「ぐすっ……ほ、ほんとに?」
「ああ、本当だ。だからみんなを起こしてきてくれないか?」
「うん、分かった。でも……」
「でも?」
「必要な時はあたしたちを頼ってね? 約束よ」
「ああ、分かった。その時が来たらよろしく頼むぞ」
「うん……それじゃあ、みんなを起こしてくるね」
「ああ、頼んだぞ」
そんなやりとりが終わるとミノリはみんなを起こしに行った。
ミノリは普段、強がっているが、本当は心配性だということが分かった。
俺はそんなミノリ(吸血鬼)の後ろ姿を見ながら、本人に聞こえないように。
「ありがとな、ミノリ」
感謝の言葉を送った。
その後、俺は朝食の準備に取り掛かった。スズメたちの会話に耳を傾けながら、今日の朝ごはんは『目玉焼き』をメインにしようと決めた。
____小さなちゃぶ台の周りに五人が座って朝食を食べるなんてことは一生ないと思っていたが、そんなことはなかった。
現にこうして朝食を共にする家族ができたからだ。だが、そろそろ例の変身能力を持ったスライムに名前を付けなければならない。
しかし、スライムの名前か……。これまた難しいな。今までは、動物に近いモンスターだったから良かったものの、スライムとなるとそうはいかない。
そもそもスライムとは、ド○アーガの塔……は例外だが、ド○クエなどでお馴染みのザコモンスターである。
スライムには……大抵、笑顔で攻撃してくる、なんとなく弱そうな雰囲気が漂っている、メタル系のスライムは回避率が高い代わりにヒットポイントが少なすぎるなどの特徴がある。
まあ、要するにスライムは、ほとんどのゲームでザコモンスター扱いされているということだ。
そう考えると俺の目の前にいるこのスライムも世間から見ればザコモンスター扱いされているということになる。
スライムもスライムで大変なんだなと思った時、俺は心の声の一部を口走ってしまった。
「ああ、この世界はどうしてこんなにも理不尽なんだろう……」
そんなことをみんなの前で言ってしまったせいで。
「あんた、何か辛いことでもあったの?」
「ナ、ナオトさん。辛いことがあるなら、その……相談に乗りますよ?」
「ナオ兄、無茶しちゃダメだよ?」
「ナオトさん、悩みがあるなら、ちゃんと誰かに話すべきですよ」
全員が俺の身に何かあったのではないかと心配してくれた。
俺はもうこの子たちにとって、なくてはならない存在になってしまったのだと実感した瞬間だった。
それとほぼ同時に五人目(一応、サナエが四人目だったから)の名前を考えようと決意した。
その後、俺は感謝の気持ちとそのことをみんなに伝えることにした。
「みんなありがとな。おかげでこの子の名前をお前たちの時みたいに、責任を持って付けられるよ」
「そう……。なら、せいぜいこの子にピッタリな名前を付けてあげなさい」
「おう! 任せとけ! でもミノリにはいつも助けられてばっかりだから、俺も何かしてやりたいな」
「ナオト、その必要はないわよ」
「ん? どういうことだ?」
「ここにいる全員がその必要はないって思ってるからよ」
俺にはミノリ(吸血鬼)の言っていることがよく分からなかったが、これだけは理解できた。
それはとりあえず、この子の名前を付けてあげないといけないということだった。
それじゃあ、そろそろこの子の名前を考えるとしよう。
俺はここ最近、モンスターチルドレンと正体不明の何か(サナエのこと)に名前を付けた。最初はミノリ。次にマナミ(茶髪ショートの獣人)とシオリ(白髪ロングの獣人)。
それから『ダークネスパラダイス』に今もいると思われる存在『サナエ』。
俺が付けた名前を全員が気に入ってくれたので、俺はこういう仕事をした方がいいんじゃないか? と、つい考えてしまう。
今回、それが五回目となるため、それを記念して『天下五剣』の名前でも付けてあげようかと思ったがそれはやめた。
なぜなら、その子が一生呼ばれる名前をそんな思いつきで決めてはいけないと思ったからである。
そこで俺は〈目の前のこの子はスライムである〉という概念を今この瞬間だけ、捨てることにした。
そうしないとその概念に縛られてしまい、いい名前を思い付くことができないからだ。
____しかし、俺はその子にピッタリな名前をすぐに思い付いてしまった。
「今からお前の名前はスライムじゃない。これからは……『ツキネ』だ」
「ツキネ……ですか。どういう字なんですか?」
「月に音と書いて、『ツキネ』だ」
「そっかー。それが今からわたしの名前かー」
「気に入ったか?」
「はい! とっても!」
「そうか、それは良かった。じゃあ、これからよろしくな。ツキネ」
「はい! こちらこそよろしくお願いします! ナオトお兄さんっ!」
「お前、急に雰囲気が変わったな」
「そりゃあ、今が一番幸せですからね」
「そ、そうなのか? うーん、でも、呼び方を少し変えてくれないか? なんか恥ずかしいから」
「そうですか? じゃあ、兄さんって呼びますね」
「ああ、それで頼む」
「ところで兄さん」
「なんだ?」
「兄さんがミノリさんたちを放置していたせいで、部屋の隅で拗ねてますよ?」
「……え?」
俺はツキネ(変身型スライム)とずっと話していたため、ミノリたちを放置したままだということをすっかり忘れていた。
どうやら、今日の残りの時間は三人の相手をしないといけないようだ。
そうしないと、明日からの仲間集めがスムーズにいかなくなる可能性が少なからずある。
だから、あと三日で最後の一人を見つけて、その子の名前を付けなければならない。
まあ、あと三日もあるからきっとなんとかなる。え? フラグが立ったって? いや、そんなことは、ない……と思う。
でも、これからのことはその時になってからでないと分からないから、その時になってから考えよう。