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◻︎香織の話⑵


数日後。


「これ、家庭訪問の希望日に丸をつけておいたから、先生に提出してね」

「うん、お父さんは?帰ってくる?」

「大丈夫よ、ちゃんとお仕事を断って帰ってくるから」

「やった!あっ!」

「ほらほら、はしゃぐから、もうっ」


散らかったテーブルの上のものを端っこに寄せて、シリアルに牛乳の朝ごはんを出していた。

よろこんで立ち上がった智之が、スプーンを落としてシリアルと牛乳がカーペットにこぼれた。


「ほら、もう時間よ、学校に行かないと」

「ん、うん、わかった」



___はぁ…今日はここを片付けてからじゃないと、できないな。


モデルとしての仕事は少ない。

お給料は主婦のアルバイトくらいだ。

それでも、私は私のブランドを上げたくて、プライベートをブログに書いて披露している。

幸せ自慢(?)というやつだ。

主に手料理の写真をアップして、いいねを獲得しようと画策する。

あとは、買った洋服をコーディネートして、オシャレ度をアピールしている。

ただの主婦上がりのモデルなので、高級なブランドよりは巷に溢れているファストファッションでも許されるところが助かる。


___まずここを片付けないと、写真なんて撮れやしないな。


寝起きで重い体をよっこらしょと立ち上げる。


___あー、よっこらしょなんて言っちゃったよ。



ゴミを袋に詰めて、溜まった洗濯物を片っ端から洗濯機に放り込んだ。

テーブルの上はすぐになんとかなるけど、問題はその背景になる壁や、食器棚だ。

高価な食器はいらないけど、とにかくスッキリさせないと視覚的に邪魔になる。


いつも背景として使う位置は、キッチリと片付けた。

シンクの周りもなるべくモノが出ていないように、棚に全部しまいこんだ。


「これでよし!あとはブログ写真用のご飯の材料を買いに行かないと。メニューは…」


カタンとポストに何かが入る音がした。

町内会の会報が、回覧板でまわされてきていた。

定期で行われる集まりの案内もある。


「これ、私が行かなきゃいけないの?もう、なんで次から次に用事があるのよ!こっちは忙しいのに!」


1人きりの部屋でつぶやいた。


ぴこん🎶

《香織、今から行ってもいい?》


聡からだった。

今から?

時計は午後1時をさしていた。


〈少しの時間ならいいけど〉


と送信したとたん、玄関のチャイムが鳴った。

まさかと思ってドアを開けたら、そこに寺内聡がいた。


「えーっ、来てたの?」

「だってさ、会いたくなったんだもん」


そう言うなり、強く抱きしめられてキスをされる。


「ちょっと待ってよ、こんなとこで何するの?」

「こんなとこだからいいんじゃないの?日常の中の非日常って感じでさ、ほら…」


くるりと後ろ向きにされ、スカートをたくし上げられて、下着の中へ手が入れられる。

後ろから私の首筋に這わせられる舌と、咥えさせられる聡の左手指。

レースのゴムをくぐった聡の右手は、窮屈な場所で私の中をまさぐり始めた。



理性ではわかっている、こんなところでこんな人とこんなことをするなんて、倫理に反する。

けれど、その背徳感がまたカラダの感度を上げていくようで…。

始まりは強引にされたのに、途中からは私の方が強く求めていた。

どのあたりからか記憶にないけど、理性というものが吹っ飛んでいたらしい。


汗と吐息が、この昼間の明るい玄関にたちこめる。

腿を伝うトロリとした感触に、我にかえった。


「すごいね、香織。こっちがもっていかれそうになったよ、主導権は握ってたはずなのに」

「…知らないわよ、こんなとこでするなんてどうかしてるわよ」


すっかり没頭していたことは棚に上げて、聡を責める。

服をととのえ、濡らしたタオルを持ってきた。


「もうすぐ子どもが帰ってくる時間なの、帰ってくれる?」

「つれないなぁ。まぁ、そこがいいんだけどね、ベタベタされなくてさ。それにしても、女ってすごいね」


ベルトをしめながら聡が感心するように言った。


「なにが?」

「30させごろ、40しごろって言うんだろ?女は40を越すとさ、自分から強く求めるようになるらしいよ、30だと男の方から求められるみたいだけどね」

「ごめんね、40過ぎた女で。30の方がいいならもう来ないで」

「怒った?俺は30でも40でも香織がいいんだけどな」

「わかった、でも、ほんとにもう帰って」

「じゃあ、また来るよ」


ドアを開ける。


「え?鍵、してなかったの?」

「その方が燃えるだろ?」


___もしも誰か…たとえば智之が帰ってきてたらどうなっていただろう?


ゾッとした。


「帰って!!」


聡を押し出して鍵を閉めた。


___わかってる、自分が悪いのは。こんなことしてちゃいけない…


いっときの情事に我を忘れてしまうほどのめり込んだことを、ひどく後悔した。

そして、自分が嫌いになった。


___なにしてるんだろ?私。



ふらふらとリビングへ戻った時、バッグの中のスマホが着信を告げた。


[大澤小学校]

それは、智之が通う小学校からだった。

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