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「昨日、淳子さん何を言ってきたの?」
「また来てほしいって、誘われたさ。勿論きっぱりと断ったよ。
するとあの日のことを君に話すと脅してきたんだ。
相当、金に困っているんだろう。
何としてでも金を引っ張りたいという欲丸出しなのが透けて見えるからね。
凄まじい執着心だよ、あれって。彼女ははっきり言って、異常だと思う」
匠平の話を聞きながら圭子は俯いて泣いていた。
そして『辛過ぎる』と言ったきり、だまって彼の話を聞いた。
「誓って言える。
最初から最後まで、そして今も、俺は微塵も彼女に対して下心を
持ったことはない。
いきなり予想もしていなかったところをマッサージされて身体が暴走しただけ。
だけど、現実に君に嫌な想いをさせているのは事実だし、油断して結局は
彼女と身体の関係を持ってしまったのは、君に対して自分が悪いと思ってる。
だけど、許してほしい。
これからも子供と3人仲良く暮らしたいんだ。俺が愛しているのは圭子だけ。
浮気をしたわけじゃないけど、今後浮気のことを含め、同じようなことを
しでかして女性関係で君に不安を感じさせないよう努力する」
俺は精一杯圭子に自分の気持ちを伝えた。
「あなたの言うこと、信じる。
こんな酷い仕打ちをした淳子さんのことが憎いわ。とっても。許せない……」
「圭子、引っ越さないか」
「引っ越し?
そうだね。駅近でお店もたくさんあって、住みやすい今の住まいからどこかへ
引っ越すのは辛いけど、確かに考えてみる余地はあるわね。残念だけど……」
初めは淳子に誘われたにせよ、気持ちはともかく、もしかすると最後のさいご夫も
彼女との性交に喜びを感じたという可能性があったかもしれないと、危惧せずには
いられず、夫が自分に向けて反省や今後の心持ちを話している間も
なかなか気持ちが付いていかず、圭子の頭の中はグチャグチャだった。
だが、最後に放った夫の一言が、圭子には意外でうれしいものだった。
夫が家族のためにと大枚をはたいて買った素敵な城を出て
行こうとまで言ってくれたのだ。
それは、この先今日聞いた話を忘れることができるのか、元のように夫と
向き合えるのか、それらは未知数だが、この先、夫の匠平との暮らしを
やり直してみようという気持ちにさせてくれる大きな一因になったことは
確かだ。
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