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――――匠平視点 ――――
妻に小泉淳子とのことを告白した日から1か月後、あのようなことがあったからと
いって、二人の間が今のままでいいはずはなく、意を決して夜に閨事を誘って
みようと、入浴を済ませ子供を寝かしつけてからの妻の様子見をしたあと、俺は先に
寝室へと向かった。
そして照明の灯りの度合いを落とし、妻が部屋に入ってくるのをドア越しに
待った。
驚かせては元も子もないので、妻が部屋に入って来たタイミグでさっと近付ける
範疇で待つ。恋人時代のように緊張が走る。
少し距離を取った位置から彼女に声を掛ける。
「圭子……」俺の呼びかけに視線を向けた彼女の肩に手を掛ける。
途端に困惑した彼女の表情が見てとれた。
その次に見えた光景で心を抉られる。
何と、圭子は片手で口元を抑え部屋から飛び出して行ったのだ。
圭子が向かった先は洗面所だった。
この時、圭子自身が一番驚くようなことが起きていたのだ。
なんと、圭子を襲ったもの、それは吐き気だった。
圭子が自身を落ち着かせて寝室に戻った時、匠平はベッドに腰掛け俯いていた。
次に顔を上げ圭子の顔を見上げた匠平の瞳には困惑の色が浮かんでいた。
「ごめんなさい……私」
部屋に戻って来た涙目の妻から謝罪される。
「俺のこと、まだ怒ってる? 許せない?」
俺の問いかけに妻は大きくかぶりを振る。
「そんなことない」
彼女の否定する言葉は、びっくりするくらい大きくて主張の強さを伴う
声のトーンだった。
「まだ、悲しいっていう気持ちは残ってるけど、許さないとかっていうのはないし、
あなたを嫌ったりもしてない。嫌いになれたらどんなに楽か。
好きだから苦しいの。でも、今はまだ無理みたい。
あなたのことを受け入れたいと思ってるのは、ほんと。
あなたからいつ誘われるだろうって、ドキドキして待ってたのよ?
私も早く元のようになりたいってずっとあの日から思ってる。
でも……ごめんなさい、今は駄目みたい」
「分かった。そんなに謝らないで。謝らなきゃいけないのは俺の方なんだし。
今夜のところは寝よう。おやすみ」
俺はいつものようにベッドの左側に潜り込む。
「おやすみなさい」
そして妻も続いて俺の隣に潜り込んだ。