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#ファンタジー
成瀬りん
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瞬時に展開した回復の光がレイブの体を包み込み、虚脱していた全身に生気が漲り、青黒かった顔色にも赤みが差す。
本能的とでも表現すれば良いのか、幼少期からの鍛錬の賜物だろう、力を取り戻した直後だと言うのに、レイブは跳ね起きると同時に巨大なタロースに向かって構えを取り、そして口を開く。
「ロコロラレララリララリラ、ランロルロリラ」
呂律が回っていない、だけでなく、その表情も普段とは違いエヘラエヘラとした軽薄で下卑た物と変じ、足元も覚束ないのかふらふらとさせたままである。
口元から滴った涎が地面に垂れ落ちると同時にレイブは声を上げて笑う。
「けけけけ、エヒャラエヒャラ♪ けけけけー!」
これはアレだ。
ここまでの流れから類推するに、酸欠に因る酩酊状態、所謂ラリっているのだと思われる。
ペトラが施した『回復』の効果で肉体的な治療は済んでいる筈だが、既に脳内に生じた全能感には抗えない、そう言う事だろう。
相変わらずへらへらしながらのレイブは、ギレスラの手を借りてペトラの背に跨ると、二、三度意味不明の雄叫びを上げた後、背にもたれる様に突っ伏して、一転しくしくと涙を流し始めるのであった。
傍目には大変楽しそうに見える状態だが、酸欠を伴うガスや揮発性の液体を吸引する事は非常に危険な行為だ。
時には社会生活に致命的な後遺症状を引き起こす事もあるのだ。
本観察をご覧になっている諸兄には肝に銘じて細心の注意をお願いしたい。
特にDIY的に塗装なんかを楽しむ場合には、こまめな換気と適度な休憩を取る事を声を大にしてお願いしたい。
『おい…… 本当にこの若者がコイン所持者、なのか?』
『ギギギギ』
呆然と発せられたタロースの声に、答えるテューポーンは何故かいつも以上に胸を張り反らしている。
『そ、そうか…… まあ、誰が相手であってもこちらのする事は変わらんが…… 生き返ったのならば石化するまでも無いしな…… ゴホンッ、えー、いずれ、我が姫かその若者か、はたまたルキフェル若しくはバアルの後裔か、誰かが勝ち残り魔界への扉を潜るのだろう…… その時再び相見える事になる! その折は古き契約通り、このタロース自らが修行をつける事を約束しよう! 今は去れ『百頭の魔』テューポーンよ! えと、お大事に、な?』
『ギギギ』
『お! 出て行って良いんだな? 良し、ペトラ行くぞ』
『あ、えっと、お邪魔しました』
「おあーっ! あっあっあっあっ、エヒャラエヒャラー♪」
『ほらレイブ、良いから少し眠ってろよ』
『うん、うるさいから寝ててね』
『ギ? ギギギ?』
ペトラの背に揺られながら泣き笑いを繰り返しているレイブの背を擦り続けるギレスラと、その頭上で後ろ向きになりながらこちらに手を振っているテューポーン。
東に向けてしずしずと遠ざかる一行を見送る赤い金属の巨人、タロースの無表情な顔には、どこか憐れみに似た色が浮かんでいる様に見えたのである。
コメント
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あら、いつの間にか第1223話なんですね。ずっと追いかけてきた読者として、この話は特に好きだなって思いました。 回復した直後のレイブがあんなにラリってるギャップに思わず声出ました。「けけけけ」の擬音とへらへら笑いが脳内で再生されて…。でもギレスラが背中を擦り続けてる描写とか、ペトラの「うるさいから寝ててね」の冷めた優しさとか、三人の関係性が自然と伝わってきてじんわりしました。 タロースの「お大事に」も絶妙な温度感で、シリアスに傾きすぎないバランスが好きです。