祐希Side
完全に飲み過ぎた‥電気もつけずベッドの上で
うつ伏せになる 。 久しぶりに感じる頭痛と気だ
るさとセー ブで きなかった自分に嫌気がさす。
水を買ってくると言って出ていった大志はまだ帰っ て来る様子はない。
‥‥アイツには迷惑かけてばかりだな。
思えば、藍と別れた日も大志がいた。アイツは
勘がいい。俺と藍の事も気付いてるんじゃないか
と思う。
“何かあったらいつでも相談しろよ”
それが口癖でもあった。
‥帰ってきたら、胸の内を話そう。
酔っているせいもあるのか、いつもは言えずに
いた話も出来るかもしれない。
‥‥ガチャ。
しばらくして、ドアがゆっくりと開く音がした。
「大志?遅かったね‥ごめん、ちょっと飲みすぎ
て‥。それで、悪いんだけどこのまま俺の話
聞いてくれる?
とりあえず話せるうちに話しておきたくて」
話せる覚悟は出来たが、大志の顔を見る度胸は
なく枕に顔を乗せたまま話を進める。
もう一つの ベッドに腰掛けるのが微かに視界に入る。
「ありがとう。まずさ、一ヶ月前に俺が体育館で
泣い てたの見たろ?あれ‥実はさ藍と会ってたん
だ」
「‥‥‥‥」
「実は‥半年前から藍と付き合ってて、あの日別れを告げて‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥結構なこと話してるんだけど、驚かないんだな、‥まぁ、お前らしいか‥」
「‥‥‥‥」
「黙っててごめん。まだ誰にもバレてはいけない
と思ってたからさ。言えなかった‥‥」
「‥‥‥」
「藍と別れる1週間前に藍に有名なスポンサー
がオファーしてきたのを知ったんだよ。そして、
マネージャーが、今スキャンダルがあったら大変
な事になるから、くれぐれも気をつけるようにっ
て‥そう話してるのが聞こえて‥」
「‥‥‥!!」
「それ聞いた時に俺、怖くなったんだよ。もし俺
と藍が付き合ってるのが世間に知れたら、藍はど
うなるんだろうって。
俺は覚悟が出来てたから大丈夫だと思った。
バレーもどうにかすれば、やっていけるだろうっ
て思ってたから」
「‥‥‥」
大志は一言も話さない。それでも俺は続けた。
「藍はまだこれからの選手だ‥。俺のせいでバレ
ーが出来なくなるかもしれない‥そう思った時に
このまま付き合ってる事は出来ないと思って‥
別れようって言ったんだ。好きな人がいるって
嘘までついて‥。
そうすれば、俺なんかすぐに忘れてくれると
思った‥。こんな最低なヤツって‥文句も
言われる覚悟だった。それだけの事を俺、したか
ら‥‥‥‥。なのに」
一言も俺を責めなかった。
そう、あの日‥藍は驚いた顔をしていたが、何も
言わず ただギュッと唇を噛み締めて、俺を見つめてい た。
大きな瞳には涙の膜が見えたきがした‥。
“‥わかりました”
それだけ言うと、藍は後ろをふりかえり、走り去
ってしまう。
思わず、その腕を掴みたい衝動に駆られたが、
ぐっと我慢した。するしかなかった。
‥俺は追いかけてはいけない‥‥
「‥暫くは放心状態だったけど、バレーの事
もあってなんとかやっていけたんだ。でも、この
合宿で、また藍に会えて‥嬉しいと感じる自分が
いて‥」
「‥‥‥‥」
「‥正直、甲斐といるのは面白くなかった‥俺が言
える立場じゃないのはわかってるけど‥親しげに
話す2人を見るのは辛かった‥お前も気づいてたろ?」
「見ててわかる。甲斐もきっと藍が好きなんだって」
「‥‥‥」
「アイツも顔に出てるもんな‥藍と笑って話す2人
を見たらさ‥なんだか、これでいいのかとも思って‥」
「‥‥‥」
「だけど、それ以上にやっぱり藍を取られたくな
いって思う勝手な自分もいるんだよ‥俺の隣にいて欲し い。俺以外のヤツのところになんか行って欲しく ないって‥自分から別れたのに言えるわけないよ な、こんな身勝手なこと」
「藍が幸せでいてくれたらそれが1番いいことだからさ‥」
「‥俺の幸せをなんで祐希さんが決めるん?」
初めて呟かれた声 は、大志のもの ではなかった。
ハッと頭を持ち上げ隣を見る‥‥‥
「ら‥‥‥藍?な‥‥なんで?」
そこには、大志は居なかった。大きな瞳に涙を
浮かべながら、俺を見つめる藍がそこにはいた。
驚く俺に、スッと水を差し出してくる。
「‥小野寺さんから頼まれました。渡してくるよ
うにって」
あっ‥‥‥。受け取りながらも半信半疑で見つめる。
今の話を全部聞いていたんだよな‥。戸惑
いながら見つめる俺を、涙を浮かべた藍の目が見つめ返していて‥その顔がとても綺麗でこんな時なのに見惚れてしまう。
「祐希さん、嘘やったんですか?好きな人が出来たって」
「‥‥‥」
「俺がバレー出来んようになるから別れたんですか?」
「‥‥‥」
俺は一言も返せなかった‥‥
「祐希さん‥今日ここに来たのは‥あの時の自分の気持ちも伝えたくて来たんです」
「‥‥‥‥」
「祐希さんは、俺の為に別れを選んだんかもしれ
んけど‥俺は辛かった!悲しかった!けど、言え
んやん!
嫌やって。別れたくないなんて。困らせたくない
し嫌われたくなかったから‥。
俺は祐希さんが好きやから‥祐希さんと一緒に
居るんが、俺の幸せなのに‥
それを祐希さんが勝手に決めんといてよ!
‥‥‥俺を一人に‥しないで」
ボロボロ‥‥‥。藍の目から大粒の涙が落ちる。
「藍‥ごめ‥‥泣かないで」
ベッドから降りて、藍を抱きしめる。
「ゆ‥き‥‥さんの‥バカ‥」
涙が止まらない藍の頬を両手で覆い、瞼にキス
をする。
「俺が悪かった。バカな事をした、別れたらいい
なんて、藍の為になるんじゃないかって‥ 傷つけてごめん」
「‥ぐずっ」
「藍がもし俺を許してくれるなら、もう一度付き
合って欲しい。俺はずっと藍が好きだよ。もう一
度俺に藍を守らせて欲しい。誰にも渡したくな
い。俺が一緒に居たいんだ」
「‥約束破らへん?」
「約束する」
「他に好きな人が出来たら? 」
「藍以外に好きになる人なんていないよ」
「皆にバレたら?」
「その時は正直に伝える。バレーも藍が続けて行けるように俺がなんとかするから 」
「祐希さんも一緒にバレー続けんと嫌やからね」
「うん!二人でやっていこう、絶対に!」
そう答えると、藍はクスッと笑っていた。
その笑顔があまりにも眩しすぎて綺麗で、
「愛してる、藍、ずっと‥」
そう繰り返しながら、そっと藍の唇に自身の
唇を合わせる。最初は軽く‥次第に角度を変え
ながら情熱的なモノに‥。
そっと藍の歯の間に舌を入れ込むと、それに
応えるように藍も舌を差し出してきた。
お互いのだ液の音が静かな部屋に微かに響く。
名残惜しそうにどちらからともなく離れると‥
「祐希さん、酒くさい‥」
そう言って笑う藍に、ごめんと呟いて再度キスを送る。
「藍‥‥?部屋に戻るの?」
「それが、小野寺さんが荷物も持って行けって言われて‥」
ほらっと指さされた方を見ると、バッグも持参し
ていたらしい。
「それなら今夜は一緒だね、ねぇ藍?」
「なぁに?」
「シャワーもう済んでる?」
そう耳元で確認すると、耳まで、真っ赤になった。
「‥祐希さんのえっち」
潤んだ瞳が俺を見上げる。その瞳には微かに欲望の色を含んでいた。