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爆弾発言に巻き込まれたあとはもう記憶が曖昧だ。確か、流石に大事すぎて他の客やキャストを巻き込む訳にはいかないということで店長がおれとケイを裏に連れて行った、はず。
そこからも大変だった。有名大物ホストのケイ様は、おれへありとあらゆる愛の言葉を語り続けた。数日前におれがビラ配りをしている時に見かけて一目惚れした、ホストクラブへ出勤したがおれの事で頭がいっぱいだった、本来はご法度だと理解しつつもどうしても想いを伝えたくて今日やってきた。概要だけ掻い摘んで、こう。要所要所の愛の言葉は省略する。
……そう。確かに彼が口にした言葉は紛れもない愛の言葉だったのだ。彼は本気だった。はじめは一目惚れだったらしいが、見た目ではなくおれの雰囲気に惚れたらしい。喋ってみて更に愛が増したと。この仕事をしてきて、色恋だのなんだのといったトラブルも数多く見てきたし巻き込まれもした。今回だって、本人が自覚している通りに「ご法度なので」と一蹴してしまっても良かった。
でも、悔しいが、こんなチャラいホストなんかに心を揺さぶられてしまった。おれのためにこんなに必死になってくれた人間なんてはじめてだったし、愛しさで涙を流す様もはじめて見た。その涙だおれへ向けられているというのもはじめての体験だった。傍から見れば泣き落としにまんまと引っかかったチョロいやつだろう、おれは。
それでもはじめてだったんだ。ひとに愛して貰えたのが。
おれが愛だと感じただけで、本当はただの口八丁に乗せられただけで、すぐ捨てられるかもしれない。今までもそうだった。__今までもそうだったからこそ、今までとは違う、このホストを信じてみたいと思ってしまった。
「おれはあなたのことを知らないから、想いに応えきれないと思う。それでもいい?」と問うた。
そうしたら、「俺の想いにサキくんが応えようと思ってくれた。良いも何も、それがもう奇跡みたいなものだよ」と彼は感涙にむせんだ。
そうやって、ケイとサキ、あいつとおれ、佳依と佐久の不誠実で不健全で、不器用な関係が始まった。
いかんせんおれとあいつの関係はややこしすぎて、説明のしようがない。
翌日、住所を教えてもいないのにおれの家に彼が訪れたりしたのは、また今度。
でも、やっぱり、あの時おれが感じた愛は紛れもない本物の愛だった。
こうやって荷造りをしている今も、あの時の自分の選択が正しかったと、そう感じている。