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<揺らぐ本心と固まる決意>
2024/06/27
「…ふぅ。こんな所でしょ。」
灰色の埃が舞う。ランタンの橙色の火が揺れる。
そんな部屋で、私は荷物をまとめていた。
固有魔法を使って風を操り、紐を結んだり、荷物をダンボールの中に詰めたり。引越しする時にすることを私はやっていた。
「アドラの部屋か…何年ぶりだろ?」
私は元々アドラ寮だった。けれど3年の時に神覚者になるのと一緒に学校とお別れしたから、アドラ寮の部屋に居たのはもう1、2年も前のこと。
「……レイン、ちゃんと学校で上手くやれてるのかなぁ…」
丁度私が神覚者になった次の年位に、レインが神覚者になり最年少の神覚者として名を響かせた。
学業と両立する、ということがどれだけ大変かなんて誰でもわかること。
しかもただの寮生ではなく、監督生だ。
アドラの全てを背負うと言ってしまったら責任が重いが、少なくともアドラ寮の顔であることは間違いない。私もそれを痛感した1人だし。
うさぎ好きという可愛い一面もあるとはいえ、それが全校生徒の共通認識という訳でもない。
いや、うさぎ柄の物が落ちていたら、真っ先にレインに行くほどではあるが。
「まぁそれも含めて潜入調査なんだろうけど。」
ウォールバーグさんがこの捜査を私に任せた理由。それは多分、マッシュ君のことを探るだけじゃなくて、レインがちゃんとやっているかどうかも確かめたいんだと思う。表情が硬いことと神覚者レベルの強さがあることが災いして、私以上にフレンドリーに話せて、尚且つレインと同じぐらいの強さを誇る適任者が居ないんだろう。
マックス・ランドというとても優しい友人がいることは前に風の噂で聞いたが、あのレインだったらその友人すら失っていそうなのが怖い。
「…」
私が卒業するまでの高等部で過ごした3年間は、歴代と比べれば比較的平和だったはず。 が、今はどうだろうか。
オルカはまだいいのだ。あそこは研究一筋だから、喧嘩などしそうにない。
アドラは喧嘩は売らないが売られた喧嘩は買う、みたいなイメージだからオルカまでは行かないが平和っちゃ平和。
問題はレアンだ。平和だったとはいえ、それは学校全体の平均値のようなもの。
レアン単体だけで見るなら、学校の中では一番治安が悪かった。1体1で級硬貨を賭けるという名目なのに、複数人で一方的にコテンパンにしたり…それで何度私の部屋に生徒が来たか。
ただ、これはあくまでも数年前の話。今はめちゃくちゃ平和かもしれない。
「…いや、レアンがめちゃめちゃ平和だったらそれはそれで怖いな……」
自分のネタに、自分の乾いた笑顔をうかべる。
傍から見ればあたおかだろうが、今はそうでもしないと気が紛れなかった。
「……オルカ…」
先程、オルカは一番平和的だと言った。
でもそれは、ある意味での平和だ。
「…いや、でも…あの子は二年生だし、会わないはず。仮に会ったとしても、言葉を交わさなかったら大丈夫…」
独り言が多いな、とは自分でも思う。
でもそんなのは別に今始まったことじゃない。
私がここに閉じ込められてから、ずっとだから。
_そして、この数日後。この私の甘すぎる考えは、すぐに破壊されることとなる。