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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「じゃあ瞳子ちゃん。取り敢えず頭から1回通してみてくれる?」


録音ブースの中の瞳子は、聞こえてきた吾郎の声に「分かりました」と答えて姿勢を正す。


1月の下旬、内海不動産のモデルルームで流す紹介映像のナレーションを録音する為、アートプラネッツの4人は瞳子を連れて貸しスタジオに来ていた。


映像を見ながら、瞳子は台本のセリフを丁寧にマイクに向かって語りかける。


「ひゃー!ほんとに綺麗な声だな、アリシアって。ヒーリング効果があるよ。癒やされるー」


聞こえてくる瞳子の声に、透は両手を広げて目を閉じる。


「あはは!何やってんだよ、透。森林浴か?」


洋平が笑う横で、吾郎は真剣にヘッドホンに耳を傾けていた。


「うん!瞳子ちゃん、1発OKだよ。念の為、雰囲気を変えてもうワンテイクお願い出来る?」


「はい、分かりました。今度はもう少し明るい口調で早めにしゃべってみます」


「いいね、頼むよ」


瞳子のナレーションのクオリティの高さに、四人は大満足で録音を終える。


「あっという間に終わったな。仕事が出来るねー、瞳子ちゃん」


「じゃあさ!パーッと打ち上げに行こうよ!」


「透、まだ昼の3時だぞ」


「いいってことよ!」


「何がだよ?」


洋平が透にそう言った時、スマートフォンがポケットの中で震えた。


「お、泉だ。ちょっとごめん」


断ってからスタジオの片隅で電話に出る。


「もしもし泉?どうした…えっ?!」


大きな声で驚く洋平に、皆も何事かと注目する。


「それって、もうすぐ産まれそうってこと?」


今度は皆が、えっ?!と驚く。


「分かった、すぐに行くからな!泉」


急いで通話を終える洋平を、皆は一斉に取り囲む。


「洋平さん、赤ちゃんが産まれそうなの?泉さんは?大丈夫?」


瞳子が心配そうに尋ねる。


「大丈夫だよ。今日は健診の日で、病院に行ってるんだ。予定日をだいぶ過ぎたから、これから陣痛促進剤を使ってお産になるらしい」


「そうなんですね!今、病院なら良かった。でも泉さん、一人でがんばってるんですね」


大河も瞳子の隣に並んで声をかける。


「とにかく洋平も、早く泉さんの所に行け」


「ああ、ありがとう」


バタバタと出て行く洋平を、皆で見送る。


「がんばれよー!」


「安産を祈ってるからなー!」


洋平は背中を向けたまま手を挙げて応え、走り去って行った。


「ああ、どうか無事に産まれますように…」


思わず両手を組んで祈るように呟く瞳子の肩を、大河は優しく抱き寄せる。


「大丈夫だよ、きっと。みんなで無事を祈って、嬉しい報告を待とう」


「はい」


その後は皆ソワソワして仕事にならず、居ても立ってもいられずにオフィスで時計とにらめっこする。


夕食はデリバリーを頼み、仕事終わりの亜由美もオフィスに駆けつけた。


時計の針が21時を過ぎた時…。


ピコン!とグループメッセージの通知音が一斉に鳴った。


「洋平からだ!20時12分、元気な男の子が産まれました!母子ともに無事です、だって!」


透がいち早く読み上げると、やったー!と全員で喜びの声を上げた。


「良かったー、泉さんも赤ちゃんも無事で」


「うんうん、ほんとに」


瞳子は亜由美と手を取り合って涙ぐむ。


「あ、赤ちゃんの写真だ。可愛いー!」


「え?見せて、透さん」


亜由美が透からスマートフォンを受け取り、瞳子と一緒に覗き込んだ。


小さな可愛い赤ちゃんを胸に抱いた泉と、その泉の肩を抱く洋平が写っている。


「ひゃー!なんて可愛いの。天使よ、天使」


「小さいおててにぷくぷくのほっぺ!やーん、ラブリー!」


瞳子と亜由美は、興奮して思わず抱き合う。


「泉さんも洋平さんも、すっかりママとパパの顔ね」


「うんうん。あー、早くベビーちゃんに会いたい!」


ひとしきり盛り上がったあと、二人にお祝いのメッセージを送る。


大河達はアートプラネッツのグループに、そして瞳子と亜由美は『マダムプラネッツ』と名づけた泉と3人のグループに、それぞれ『おめでとう!』のメッセージを送った。




「はあー、可愛いな。いつまででも見ていられる」


マンションに帰ってからも、瞳子はソファに座り、何度も泉と洋平の赤ちゃんの写真を眺めては、うっとりしていた。


「こんなに小さくて可愛い命がこの世に存在するなんて。まさに生命の神秘!そしてママって偉大!」


興奮冷めやらぬ瞳子を、大河は微笑んで見守る。


「赤ちゃん、目元が洋平さんにそっくりですね。口元は泉さんに似てるかな?とにかく本当に可愛い!」


堪え切れずに大河は苦笑いする。


「目がハートになってる瞳子も、とびきり可愛いよ」


「やだ!赤ちゃんに敵う訳ないでしょ?真っさらで汚れのない神聖な命なんだもの」


「瞳子だって、清らかで純真無垢だよ」


そう言ってみるが、瞳子の耳には届いていないらしい。


頬に手をやって、何度も可愛いと繰り返している。


「どんな男の子になるのかなー?洋平さんと泉さんの血を引いてるから、絶対に知的でスマートよね?楽しみだなー」


やれやれと大河は肩をすくめる。


「瞳子、よそのうちの赤ちゃんでそんなに盛り上がるなら、自分の赤ちゃんの時はどうなっちゃうんだ?」


すると瞳子は、えっ?!と真顔に戻った。


「私の、赤ちゃん?」


「そうだよ。俺の赤ちゃんでもあるけど」


「大河さんと、私の、赤ちゃん?」


「うん」


大河が頷くと、瞳子はみるみるうちに頬を赤らめてうつむく。


「赤ちゃん、いつか来てくれるかな?」


「ああ、来てくれるよ。可愛い瞳子ママのところに」


「え、そんな…。大河さんとの赤ちゃんだから、大河さんにも似てるわよね?」


「どうだろう?女の子なら、瞳子に似てとびきりの美人だろうな」


「男の子なら、大河さんみたいに、むむっ!て顔で産まれてくるのかな?」


は?と大河は声を上ずらせる。


「何?その、むむっ!て」


「ほら、大河さんの得意顔みたいに、眉間にしわを寄せて、むむっ!てしながら産まれてくるの」


「ちょっと、瞳子?俺の印象どうなってんだ?」


「だから、むむっ!て」


「むむっ!は、もういいっつーの!」


「あはは!その顔がまさにそうよ」


「なんだとー?」


ガバッと瞳子に覆いかぶさると、瞳子は「きゃー!」と声を上げて身を避ける。


「捕まえた!」


大河は瞳子を腕の中に閉じ込めると、そのままソファに押し倒した。


唇が触れそうになるくらいの距離で、二人は互いに見つめ合う。


「瞳子…」


綺麗な瞳で真っ直ぐに見つめてくる瞳子に、大河の胸は切なく傷んだ。


「大河さん…」


名前を囁かれたが最後、大河は一気に瞳子の唇を熱く奪う。


可愛くて、愛おしくて、幸せ過ぎて切なくなる。


大河はありったけの想いをぶつけるように、瞳子を強く抱きしめ、何度も何度も口づけていた。

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