人間の血を集めるにしても、町の人間を数人攫った程度じゃ足りないのはメモを見れば明らかだった。
だから俺とレウは国から少し離れた、みどりのおかげで手に入れた西の国の片隅に存在する村に訪れていた。
「らっだぁ、大丈夫なんだよね…?」
「大丈夫だって。俺が片っ端から行動不能にさせるから、レウは行動不能になったやつをそれでブッ刺して」
レウが背負っているゴツいタンクを指さすと、タンクに繋がれた太い針を手にしたレウさんが顔を引き攣らせた。
きっと「コレ刺さったら痛いだろうな」なんて刺し殺される人間の事を考えて同情しているのだろう。
「行くよ…」
「!!っ、まって…!!」
草陰から飛び出そうとした俺のマフラーを鷲掴みにして引っ張ったから、自分の喉からは「ぐえぇっ」なんていうカエルの鳴き声みたいな情けない声が出た。
軽く咳き込みながら振り返ると、レウが信じられないものを見るかのように目を見開きながらある一点を指さしていた。
「ぁ、あれって……」
痩せた体に小さな背。
小さく項垂れた体がずるずると引きずられて、今にも連れていかれそうになっていた。
記憶している彼とは違って随分幼いけど、俺が見間違えるわけがなかった。
後ろで何か言っているレウを無視して一直線に走っていく。
「なんだおまっ…へぶっ!?」
疑問を持たれたらすぐに殴り倒してようやく辿り着いた。
気を失っているのか、ピクリとも動かない。
「…み、どり……みどり!!」
「ン……ゥ?…ダレ?」
「……ぇ」
生まれ変わっても、きっと覚えてくれているんだって何の理由もなく考えていた。
みどりは、俺達の事を覚えていなかった。
なんだかふわふわした気分のままやるべき事を終えて、ボーッと野花を眺めていたみどりを連れて館まで帰る。
「ほんで……どうするよ」
風呂に入れたり、綺麗な服を着せたり。
そうこうしているうちにコンちゃんは薬を作り終えたし、みどりの生まれ変わりは疲れたのか床で寝てしまった。
「よっこいしょ……どうするも何も、俺は飲むよ。この子がみどりだったとしても、みどりじゃなかったとしても…ね」
「はいはい、愛が重いことで」
「んふふ」
きょーさんの目の前のテーブルの上には小瓶が人数分並べられている。
中身は透明で、匂いもしない。
コレを飲めば…みどりと一緒にいられる。
置いていくとか、置いてかれるとか、そんな悲しい事を言わずに済む。
「ただ……みどりの生まれ変わりが記憶を持っていないとは思わなかったな…何でだろうね、生まれ変わりってだけでみどりそのものってわけじゃないのに」
同じような事をコンちゃんに言った時は「早く来てくれたのは愛かもね」なんてキザな事を言っていたっけな。
みどりの生まれ変わりである男の子の頭を撫でながら、誰に向かって言うわけでもなく呟くと目の前がゆったりと重くなっていく感覚に囚われた。
「みどりだったら覚えてくれるんじゃないかって……変な話だよね」
「らっだぁ」
「ねぇ、きょーさん」
俺を見たきょーさんは少し面食らった様子で「何や」と返した。
「それ」
不老長寿の薬。
不特定多数の血が入っている時点でヤバいっていうか…汚ねぇもんだとは思ってたけど、コンちゃんによれば菌やウィルスが一つも無いのだとビビっていた。
「飲む前にさ、やりたい事あるんだよね」
「…おまえ」
「お茶淹れたけど飲む?……どうかした?」
目を見開いたきょーさんにレウがきょとんとした視線を向ける。
「俺、みどりが死んだ事まだ許してないよ」
まぁ、元から許す気なんて微塵もないけど。
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コメント
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うわぁ!!もしかして次回は復讐回だったり…?🫣めちゃめちゃ早い更新に感謝です😭🙏💓