こんなはずじゃなかった。
嫌いなヤツを殺す時に折角だからと付け加えた、ちょっとした遊びのつもりだった。
「ち、ちがう…私は、こんなつもりじゃ」
「みどりが死んだんだ、戦場で殺された。お前がふっかけた、くだらない戦争の所為で」
冷たい声音が無感情に淡々と流れていく。
地面に突き立てられた数々の武器が服を巻き込んでいるから身動きも取れない。
「みどりは俺たちの事を覚えてないんだ。ようやく見つけられて安堵したのに…また絶望を味わうことになった。お前の所為だ」
「ヒィィイッ!!」
目の前にすらりと片刃の切先が伸びる。後少しでも前に押し出せば、自分の額に突き刺さって死んでしまうだろう。
「あ、あいつが悪いんだ!!私はっ、わたしは何も悪くな_ぎゃっ…」
「目を潰して、足を切って、内臓を捻り出して、それから喰ッテヤル。みどりが苦しんだ分、お前も苦しんで死ねよ?楽に死ねると思うな」
死刑宣告にも似たそれは、少し前までの自分の余裕さを怒鳴りたくなるほど恐ろしかった。
時は遡り、数刻前。
国王たる私へ直接物申したい事があると聞いて、心優しき王である私は邪悪で下劣な化け物どもの謁見を許可した。
『王にご挨拶申し上げます』
そう言って笑うあの青鬼の瞳が森の魔女の私を嘲るような視線と重なって、私は酷く恐怖を覚えたのだ。
亡き魔女の仇を討ちにやってきたのかもしれない。
そう考えると、もうそうなのだとしか考えられず、人知れず謁見の間の兵達を百人近くに増員するほどだった。
『…して、申したい事とは何だ?謁見の申請までしたのだ。余程の事であろう?』
『魔女は…みどりは自ら俺達に会いに来てくれました。もはやこの場に留まる理由もないでしょう』
青鬼は酷く凪いだ瞳で私の姿を捉えた。
『……貴方を、殺しにきました』
私は、最後の最後で判断を誤ってしまったのだとその時になって初めて気がついた。
いや、もしかすると、魔女を殺したその瞬間から私の死は決まっていたのやもしれない。
「……ぁ…ゔ…」
自分の呻き声しか聞こえない冷たい部屋に、重い扉を開ける音が響いた。
「ンショ……ラダオクン…!」
「みどり…!もう、ちゃんと帰るって言ったのに。来たらダメだって言ったでしょ…?」
「館に変な人来て逃げてきちゃったぁ〜!あ、もちろん全員動けなくしたから。家が荒らされることはないから、安心して」
「まぁ…コンちゃんが言うなら……」
忌々しい声が聞こえて霞んだ瞳を向けると、若草を思わせる優しい色が映る。
「…ンフフッ、アリガトウ」
そう言ったのは、魔女の生まれ変わりを叱りながらも笑っている青鬼に向けたものか。
はたまた先代国王の呪縛から解き放った俺へ向けた、皮肉めいた言葉だったか。
「…」
今となってはもう、こんな事を考える事すら無駄なのだろう。
国王暗殺が終わる、数刻前。
ー ー ー ー ー
「じゃあ、俺達は行ってくるから」
「みっどぉは任せてよ」
「イッテラッシャイ」
らだおくんはきょーさんとレウさんを連れてお出かけ。
嫌いなヤツをブチブチにしてくるらしいけど、俺みたいなのを拾ってくれるくらい優しいのに、そんならだおくんを怒らせるなんて…いったい何をしたんだか。
「それじゃあみどりくん、何するー?」
「アソブ!!」
「それじゃあ俺がみっどぉのためにゲームを持ってきてあげようじゃないか」
そう言って意気揚々と二階に向かったコンちゃんを待っている間は、何となく手持ち無沙汰で…
「ンン?小瓶」
不老長寿、魔女の秘薬。
それが四つ。体のパーツが欠けた彼ら。
コレヲ飲マセタラ駄目ダ…!!
自分の魔女として部分が告げる言葉に従って、手元の小瓶を手にコソコソと自分の部屋に入る。
「コノ辺ニ……アッタ…!」
魔女は死ぬと生まれ変わる。
その時間差は不明。
早い時もあれば、遅い時もある。
「中身…コレニ入レ替エレバ」
記憶は引き継げない。
思い出は残らない。
…それでも、魔女としての意思は残る。
魔女として生きた経験は引き継いでいける。
「…ヨシ」
「みっどぉ、手伝ってぇ〜!」
「!……ウン…!」
急いで中身を入れ替えた小瓶をポケットに隠してコンちゃんを手伝う。
小瓶はコンちゃんが見ていないうちにコッソリ元の場所に戻しておいた。
「じゃあ遊ぼうか〜!」
「ン!」
…みんなが不老長寿になりたい理由って何だろう。
もしそれが、俺のような不老長寿の誰かの為なら…少しだけ、ほんとちょっとだけ。
その人が羨ましいかもしれない。
コメント
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えぇー!この先どうなってしまうのやら...てか一日に2個はさすがに神すぎました👏😭💓 ほんとお話が面白いです!ゆっーくり頑張ってください!