ガスパル含め6人が退席したあと、レイル様は律儀に見送りに行ったため僕を含め3人が部屋に残った。
ウェルたち使用人もいるのだが、黙って見守っている。
……その間は僕たちは席についたまま特に会話がなかった。
気まずいのだ。何を話せば良いのか分からないというのもあるが、現状の雰囲気が原因だろう。
二人は笑いを堪えているのだ。ここでレイル様がいれば話が回るのだが,お互いを知らなすぎて困っている。
ウェルに助けを求めようとしたのだが、目を逸らされてしまう。
はぁ、とため息をついていると笑いが落ち着いたであろう二人が席を立ち僕の近くに歩み寄ってきた。
僕は一番最初に浮かんだ疑問をぶつける。
「茶番……だったんですか」
「ぶ……ぶはははは!今の時代にこんなやついるなんてなあ!お前最高!」
「ええ。私もレイルさんから話を聞いて半信半疑だったんですが、まさか本当とは」
二人の反応から今回の一件がわざと起こしたことだと判明した。
分からないことだらけだが、二人は僕のことを事前に知っていたことだけは確かだった。
二人の反応から一体レイル様に何を言われたのやら……まぁ、いいことは言われてないことは確かだけど。
そう思いつつ、そのことを聞こうとしたのだが、扉の外からレイル様の声が聞こえた。
『まさかこんなにも上手くいくとは思わなかった』
足音が二つ。どうやら見送りは終わったらしい。後少しでこちらにくるようだ。
僕は少し耳を澄ませる。
『アレン様は私の動き違和感を持ったご様子でした』
『まさかセバスの動きを見抜いたと?』
『いえ、そこまでは……ですが案内をしている道中、視線は足に集中しておりました。……ソブール公爵が一目置くだけあるかと』
『色々と黒い噂しかないから警戒していたが、こんなことなら早く声をかけるべきだったな』
『それでは今回のような差し替えができなかったのでは?』
『それもそうだな。過程はどうあれ想定以上の成果が出るとは。アレンは底がしれない。ああ……本当にいい拾い物をしたよ』
『左様ですか』
「ん?急に黙ってどうしたんだ?」
「いや、なんでもありませんよ。少し考え事をしただけです」
……なんか物騒な会話聞こえてきたんだけど。思わずそちらに過集中したせいで黙り込んでしまった。
なのですぐに当たり障りのない返答をした。
それにしても差し替え……良い拾い物……僕の底がしれない?
一体どういうことだ?
「……何を考察していたんですか?」
するとクルーガーから突然の質問。
いや、別に考察していたわけじゃないけど、急に黙るのもおかしいだろう。
ここは不自然にならない返答をする。
「いや、大事にならなければいいと思いまして」
なんせこのお茶会をぶち壊した原因は僕だ。
もともと良い雰囲気でなかった。
空気を悪くしたのはガスパル、その対象がクルーガー。
ガスパルの態度にイラついたギルメッシュが対立する。
ここでレイル様が仲介すれば収束していたが、ここで僕がかき乱し最終的にお茶会は中断。
多分ガスパルの矛先もクルーガーではなく僕に向かったはず。
……やってしまった。
今冷静になったが、後先考えていなかった。
「それは無理だと思いますよ?わかっててやったのでは?」
「あれだけ派手にやったんだからな」
だが、現実は二人が教えてくれる。
……そういえばなぜ僕はこの二人と平然と話をしているのだろう?
そういえばクルーガーはガスパルに悪口を言われた時怒っていたような……でも、今は平然としているのは気になる。
聞こうとするのだが……。
「待たせてすまなかったね」
その絶妙なタイミングでレイル様が入ってきた。
後ろからはセバスさんがついてきている。
「ほう、もう親睦を深めているのか?」
入ってきて話している姿を見てレイル様はそう言ったのだが、僕はすぐに返答した。
「まだ自己紹介すらしてませんよ」
だから、僕はまずはお互い紹介をしたいとレイル様には訴えた。
前の会話でクルーガーの家についてはわかったけど、ギルメッシュの位については分からなかった。
これでは僕だけ仲間はずれじゃないか。
「そうだったな。……必要ないかと思うが改めて紹介させてもらおうか。アレン殿、こちら私の友人モーウルフ子爵家嫡男、クルーガー。こちらはガイアス辺境伯次男、ギルメッシュ。クルーガー、ギルメッシュ、パーティで知り合ったユベール伯爵家嫡男アレン殿だ」
レイル様は僕たちを紹介してくれた。
そのタイミングで名乗る。
「紹介に預かりました。僕はユベール伯爵家嫡男アレンと申します」
「ああ、よろしくな。俺はギルメッシュこんな形だが父は辺境伯。お前のことはレイルから聞いている。……堅苦しいのはやめにしようぜ。そういうのは苦手なんでな。敬語と敬称は不要でいい」
「私はクルーガー。よろしくお願いします。レイルさんから切れ者と聞いていましたが、想像以上でした。先ほどの策略お見事でしたよ」
ギルメッシュ、クルーガーと握手した。
フレンドリー接してきたギルメッシュ。少し怖い印象があったが、意外に気さくらしい。
クルーガーは真面目そうな印象があるが、温厚な雰囲気。
……いや、そんなことよりも今二人すごく気になること言ったんだけど。
「……レイル様から何を聞いたか気になるんだけど」
自己紹介を聞いていて気になるフレーズがあったので聞き返す。
レイル様は二人に一体何を吹き込んだんだか。
「俺は相当な変わり者だが、侮れないと聞いた」
「……変わり者というのは百歩譲っていいとして、なんだよ侮れないって。過大評価しすぎだよ」
「いや、あながち間違ってないですよ。先ほどのガスパルは実際に言い負かされた上、足元掬われてましたからねぇ」
ギルメッシュは僕の返答に答えた。
僕の疑問にクルーガーが答えてくれた。
まぁ、そう言われるとその通りだが、本当にできたのはたまたまなんだが。
このままだと勘違いされ過大評価される。
それは前世でのこと。最近忘れていたが、僕が目指すはリスクを取らない生き方。
もう今更だけど無闇に過大評価されるわけにはいかないわけで。
「あれは運が良かっただけだよ。レイル様も変なことを吹き込むのはやめてください」
「……まさか自覚がないのか?」
……真顔で返さないでくださいレイル様。
流石の僕も分かります。
相当やらかしている自覚くらいありますよ。
自分でも自覚していることをいつまでも話したくないと思った。
この話題は嫌になったので話を切り替えることにする。
「この話はもうやめましょうか。自分で言ってて虚しくなりますから……それよりも今日のこと……お話しいただけますよね?」
少し無理やり話題を変える。
そのことを咎める人らおらず、僕の出した話題に皆少し真面目な顔をした
目的が明らかになっていない仕組まれたであろうお茶会の意味。
今の態度を見る限りレイル様、クルーガー、ギルメッシュの3人は始めからグルで仕組んでいた。
「そうだな。だが、その前に席に座ろうか。話は少し長くなる、お茶を飲みながら話そうか」
レイル様の提案でお茶会が開催された。
厄介ごとに巻き込まれる予感しかしない。
だが、少なくとも一つわかることは皆は僕を歓迎してくれているようだ。