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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第4話 〚理想の配置〛(担任)
後期が始まった。
担任は、職員室の自分の席で、
一枚の座席表と向き合っていた。
「さて……後期だし、席替えするか」
正直に言えば、
半分は気分転換、
もう半分は――観察だ。
(最近、空気が変わってきてる)
特に、あの二人。
白雪澪と、橘海翔。
一緒にいる時間が多いとか、
仲がいいとか、
そういうレベルじゃない。
“お互いをちゃんと気にしている”
それが、見ていて分かる。
(……いいなぁ、青春)
担任は小さくため息をついた。
自分の中学生時代を思い出しても、
こんなに真っ直ぐな関係はなかった。
だからこそ――
ちょっとだけ、贔屓したくなる。
「配置は……もう決めてあるんだけどね」
ペン先で、
一番後ろ、窓側を指す。
そこには、最初から名前を書いていた。
白雪 澪。
集中できる場所。
周りが見渡せる場所。
そして、何かあったときに、逃げ場がある場所。
(……ここが、一番いい)
その隣。
橘 海翔。
迷いはなかった。
「澪の隣に、海翔くん」
この二人は、
離す理由が見当たらない。
むしろ、
近くにいた方が安定する。
前の席には――
橘の親友、相馬玲央。
「海翔くんの前が、玲央くん」
後ろから声をかけられる距離。
何かあったとき、すぐに気づける位置。
さらに。
澪の前に、えま。
えまの前に、しおり。
玲央の前に、みさと。
(……よし)
仲のいい子たちが、
自然に固まる。
でも、固まりすぎない。
逃げ場も、視線も、全部計算済み。
担任は、ペンを置いて満足そうに頷いた。
「6班は……もう決まりだね」
青春ど真ん中の班。
本人たちは気づいていないだろうけど、
この配置は、
“守る輪”にもなっている。
残りのクラスメイトたちも、
全員分、丁寧に席を決めていく。
相性。
性格。
トラブルの起きにくさ。
全部考えた。
「……完璧」
そう呟いて、
担任は小さく笑った。
黒板に座席表を貼ったとき、
教室が一瞬、ざわつく。
「え、後ろ!?」
「窓側いいな〜」
「6班、強くない?」
そんな声を聞きながら、
担任は教卓から様子を見ていた。
澪が、自分の席を見て少し驚く。
海翔が、その隣を見て、ほんの少し笑う。
玲央は前の席で振り返って、
軽く手を上げた。
(……いい)
この空気。
担任の胸が、
じんわりあたたかくなる。
(青春って、こういうことだよね)
でも。
同時に、
どこかで思う。
(……何かあったら、
一番最初に気づくのは、大人だ)
だから、
見ている。
静かに。
ちゃんと。
この配置は、
憧れだけじゃない。
“守るため”の配置でもあるのだから。
担任は、
教室を見渡しながら、
心の中でそう言った。