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#ご本人様には関係ありません
何であいつのことなんか好きになってしまったんだろう。
報われない恋なんてしなければよかった。
こんなに苦しいんだってわかっていたら、俺はあいつに恋心なんてくれてやらなかった。
あいつを思って何回泣いたんだろう。
『もう好きじゃない』
そう自分に言い聞かせようとするのに、それができなくて。
あいつに近い場所にいるのに、触れられる距離にいるのに。
そばにいたら苦しくなるくせに、離れるのは嫌で。
そんな矛盾している思いをこれ以上自分ひとりで抱えるのは正直しんどかった。
柔太郎に手を引かれながらしばらく歩き進め、事務所の奥にある人気のない部屋の前で柔太郎の足が止まった。
柔「ここなら誰も来ないと思うし、ちょっと休んでこ。今日はYouTubeの動画撮影だけだし、もう2本は撮ったからしばらく休んで平気でしょ」
扉を開けて中に入ると、6畳ほどのスペースに少し古びたソファが向かい合うように置かれ、その間にはテーブルがある。
ソファに座るように促され、おずおずと座ると俺の向かい側に柔太郎も腰かけた。
仁『…じゅう、ありがとう』
あいつと離れられたことで少し気持ちも落ち着き、素直にそう告げる。
正直あのままあそこにいるのはしんどかった。
柔「別にいいよ。俺もちょうど静かなとこでちょっと休みたかったし」
ブリーチをして少し傷んだ髪をかき上げながら、さらっとそう言ってのけるこいつは本当に優しい奴だ。
仁『…ありがとね』
ぼそっと聞こえるか聞こえないかくらいの声で再度感謝を伝えると、チラッとこっちに視線をよこして、そして下を向いて「ふぅ…」っと深く息を吐くと、今度はしっかりと俺を見つめてきた。
その目にはいろいろな感情がのっているような気もしたが、今の俺にはその感情がどういったものかなんて想像もできなかった。
柔「…仁ちゃんが最近元気ないのは勇ちゃんのこと?」
息が止まるかと思った。
こいつは自分の中で確信がもてないことに関しては直球で聞いてくることはほとんどない。
つまり、こいつの中で俺が元気がない理由が勇斗への気持ちにあることに少なからず確信をもっているのだろう。
仁『…なんで』
どうにか誤魔化す術はないかと質問に質問で返す。
柔「誤魔化さなくてもいいよ。俺以外聞いてないし、俺が口固いのは仁ちゃんもよく知ってると思うけど?」
柔太郎の目が、言葉が、俺の逃げ道を塞ぐ。
柔「まぁ、メンバーだし言いにくいのかもしれないけど。俺は仁ちゃんの勇ちゃんへの気持ちは悪いことじゃないと思うよ」
俺を見る目を少しだけ和らげて、どこか切なそうに笑う柔太郎。
そんな柔太郎を見て『こいつなら話してもいいのかもしれない』と思えた。
仁『…あいつのことが好きなのに、そばにいるのに、苦しくてしょうがない』
初めて誰かに伝えたあいつへの恋心。
仁『可愛いって言われるたびに心臓が跳ねるのに、嬉しくてしょうがないのに、あいつの言う「かわいい」には家族愛的な好きの気持ちしかなくて。俺の好きが叶うはずないってことぐらいわかってるのに、どうしようもなくて』
本当は誰かにあいつへの思いを聞いてもらいたかったのかもしれない。
取り留めのない俺の話を、柔太郎はただ静かに聞いてくれていた。
仁『…なんであいつのこと、好きになっちゃったんだろう』
その言葉を口にした途端、一度は引っ込んだ涙が今度は溢れ出して止まらなくなった。
あいつへの長きに渡る不毛な恋心はゆっくりと俺を蝕んで、気が付けばどうしようもないくらい好きになって。
最初はあいつが俺にする行動の一つひとつにときめいて、嬉しくて。「かわいい」って、「好き」って言われた日の夜は嬉しすぎて眠れなくて。
いつからだろう。
あいつが言う「かわいい」が、「好き」が、俺があいつに向けている感情とは違うものだと思い知るたびに、苦しくなって。
あいつに会える仕事の日が楽しみであるのと同時に、『俺の気持ちがバレてしまわないだろうか』と怖くなって。
こんなにも好きなのに、もう好きでいるのが苦しくて。
『好きにならなければよかった』
今はただその思いだけでいっぱいで。
堰を切ったように溢れ出た涙を止められない俺の横に柔太郎が座る。
そして細長い指で俺の手を優しく握った。
柔「仁ちゃん、辛かったね。一人で耐えたんだね。…自分の気持ちを隠すってしんどかったでしょ」
柔「よく頑張りました」
微笑みながら、もう片方の手で俺の頭を撫でた。
仁『…じゅう、』
柔「ん?」
仁『俺、ずっと、苦しくてつらかった』
そう俺が告げると、急にぐっと抱き寄せられた。
仁『じゅ、たろう?』
柔「…ごめん、じんちゃん」
仁『え…?』
俺の耳元で謝罪の言葉を伝える柔太郎に戸惑っていると、
柔「ねぇ、仁ちゃん。今から俺は弱っている仁ちゃんをさらに困らせてしまうことを言うけど聞くよね?」
仁『え?…ちょっと待って、ちょっと待て。え?聞くか聞かないかじゃなくて「聞くよね?」って拒否権を与えないのなんてあんま聞かないのよ。え?』
唐突な柔太郎ワールドにさっきまで一切止まらなかった涙も引っ込んでしまった。
柔「聞くことを確定して?」
何故か圧を感じてしまい、恐る恐る頷く。
俺を抱きしめている力を弱めて俺の目をじっと見つめてきた柔太郎に少しだけドキッとした。
柔「仁ちゃん。なんで俺が仁ちゃんが勇ちゃんのこと好きって気付いたと思う?」
仁『いや…わかんないけど、なんで?』
柔「俺が仁ちゃんのこと好きだから」
…?
……っ⁉
仁『ふぇっ⁉』
柔「仁ちゃん。俺がずっと仁ちゃんだけ見てたの知らなかった?」
仁『えっ…?』
柔「俺、結構ガチで仁ちゃんのこと好きっつーか、ずっと仁ちゃんだけ見てたんだけど。知らなかったの?笑」
仁『…っ⁉』
そんなの…そんなの…知りませんでしたけど⁉
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