テラーノベル
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俺が彼に好意を抱いたのは事務所で初めて会ったその瞬間だった。
俺はその時まだ研究生で、ガチガチに緊張していた。彼はその時既にグループのメンバーとして活動していて、年齢で言えば2歳上、事務所で入った歴でいうとはるかに先輩だった。
その日は研究生として事務所が運営しているYouTube動画のMCに抜擢してもらい、そのゲストがmilkだった。
動画の撮影前、控室まで挨拶に行かせてもらい、その時がメンバーとの、仁ちゃんとの初対面だった。
扉を開けて一番初めに目が合ったのが仁ちゃんで、「本当にこんなに目が大きい人いるんだ」と思うくらい大きくてウルウルした瞳と、ぽてっとした唇、真っ白な肌、艶のある漆黒の髪。
そのすべてに目が奪われてしまって、一瞬で恋に落ちた。
柔「はじめまして。山中柔太郎です。よろしくお願いします」
急激に上がった心拍数を必死に誤魔化しながら絞り出した声は震えていて、「うわ…だっせぇ。先輩には元気に挨拶しないといけないのに…」と自分自身に腹が立つ。
仁『はじめまして。吉田仁人です。こちらこそよろしくお願いします』
低すぎず高すぎない落ち着いた声色。その中に芯の強さが感じられた。
少しだけ上げられた口角とその近くにちょこんとある笑窪。
俺よりもちょっと低い身長。たまたま視界に入った丸みのある手。
ーかわいいー
年上で先輩、しかも男の人に抱く感情としては間違っていたのかもはしれないけど、冗談抜きで可愛かった。
そんな出会いを経て、しばらくして俺はmilkに加入させてもらえることになった。
既存のグループに途中から加入することは、プレッシャーが大きかった。正直加入してから辛いことも多かった。
心が折れてしまいそうになることもあった。
それでも頑張ってこれたのはメンバーたちの支えと、俺の気持ちが落ちてる時、さりげなく横に来て『お前はそれでいいんだよ』『大丈夫。俺やメンバーがお前のことも舜太のことも守るから』『柔太郎がいてくれてよかった』と言葉で、行動で、励ましてくれた俺たちの頼れるリーダーのおかげだった。
そんなのさ、もっと好きになるじゃん。
メロすぎるじゃん。
好きという思いを抱えながら仁ちゃんと過ごす時間が増えるにつれて気付いたことがある。
それは【仁ちゃんは勇ちゃんが好きなんじゃないか】ということである。
俺が仁ちゃんを見ているときに、仁ちゃんは勇ちゃんを見つめているし、勇ちゃんが「仁人、かわいい」って言うたびに『キモイって!』とうざそうにあしらいながらも耳も顔も赤くしているし、視線は基本的にずっと勇ちゃんを追っている。
まぁ、俺から見ても勇ちゃんは男らしいし、真面目で優しくて、でも少年みたいなところもあって、それであの顔と体格。
「そりゃあ性別なんて関係なしに惚れちゃうよね」と思う。
俺も馬鹿じゃないから仁ちゃんと思いが通じ合う日が来るだなんて思わなかったし、「仁ちゃんが勇ちゃんを好きなら、俺は自分の気持ちは一生伝えなくていい」とさえ思っていた。
だって俺が気持ちを伝えてしまったら、優しい仁ちゃんはきっと俺のことを『メンバーだから』『男同士だから』という理由で振るのと同時に、勇ちゃんへの気持ちにも蓋をしてしまいそうだったから。
勇ちゃんに恋している仁ちゃんも可愛くて好きだったから、仁ちゃんを困らせてしまいたくはなかった。
でも、だんだんと勇ちゃんを見つめている仁ちゃんが苦しそうに見えてしまうようになった。
以前のように勇ちゃんから「かわいい」と言われれば、赤くなるのは変わらないが、そのあと泣きそうな、苦しそうな顔をすることが増えた。
そんな仁ちゃんを見るたびに思っていた。
ー俺にしたらいのにー
ー俺だったらそんな悲しそうな顔はさせないのにー
それでもその思いを伝えなかったのは、仁ちゃんには本当に好きな人と幸せになってほしかったから。
いつか勇ちゃんと気持ちが通じ合うかもしれないから。
仁ちゃんが勇ちゃんに向ける『好き』という気持ちを諦めようとしていないから。
そばにいるのに、支えてあげたいのに、「その役目は俺じゃない」と自分自身に言い聞かせる毎日がただただ過ぎていった。
今日はメンバーと事務所でYouTubeの動画撮影。既に2本撮り終わって今は休憩時間。
俺と仁ちゃんは隣に座り、向い側に太ちゃん、勇ちゃん、舜太が座っている。
目の前の3人の中学生のような会話を聞いていると、隣から深いため息のような声が聞こえる。
仁『っ…、ふぅ…。』
盗み見るとあと少しで泣いてしまいそうな仁ちゃんがいて、放ってはおけなかった。
仁ちゃんのイヤフォンを取り、飲み物を買いに行くという適当な理由をつけて外に連れ出すことにして。
太ちゃんと舜太に飲み物がいるかなどを聞いていると、勇ちゃんが仁ちゃんの腕を掴んでいるのが視界に入った。
すぐにそこへ向かい、仁ちゃんの両肩を掴んで勇ちゃんから仁ちゃんを離す。
勇ちゃんは悪くないのに「仁ちゃんを泣かすなら、触らないで」と思ってしまった。
そのまま控室を抜け出して、人気のない一室に仁ちゃんと入る。
柔「メンバーだし言いにくいのかもしれないけど。俺は仁ちゃんの勇ちゃんへの気持ちは悪いことじゃないと思うよ」
本心からそう告げる。仁ちゃんの想い人が俺じゃないのは正直辛いけど。仁ちゃんの勇ちゃんへの「好き」の気持ちは決して悪いことではない。
仁ちゃんが安心できるように複雑な気持ちを抑えて笑みを浮かべる。
すると、仁ちゃんがぽつぽつと話し始めた。
仁『…あいつのことが好きなのに、そばにいるのに、苦しくてしょうがない』
仁『可愛いって言われるたびに心臓が跳ねるのに、嬉しくてしょうがないのに、あいつの言う「かわいい」には家族愛的な好きの気持ちしかなくて。俺の好きが叶うはずないってことぐらいわかってるのに、どうしようもなくて』
わかるよ。しんどいよね。
好きなのに、そばにいるのに。
俺もそう思ってる。
仁ちゃんのことが好きなのに、仁ちゃんは勇ちゃんが好きで。
叶わないとわかってるのに思い続けるのはしんどいね、仁ちゃん。
憔悴しきった様子で話し続ける仁ちゃんを見て、仁ちゃんの勇ちゃんへの思いがどれだけ一途だったのかを思い知らされる。
黙ったまま静かに仁ちゃんの声に耳を傾けていると
仁『…なんであいつのこと、好きになっちゃったんだろう』
そう言って泣き出した。
隣に座り、男性にしては柔らかくて小さい仁ちゃんの手を握る。
柔「仁ちゃん、辛かったね。一人で耐えたんだね。…自分の気持ちを隠すってしんどかったでしょ」
柔「よく頑張りました」
手を握っていないほうの手で、形のいい頭を撫でる。
すると、
仁『…じゅう、』
柔「ん?」
か細い声で俺の名前を呼んで、
仁『俺、ずっと、苦しくてつらかった』
そう苦しそうに告げた彼を無意識に強く抱きしめた。
ー仁ちゃんが幸せなら
ー仁ちゃんが笑っていられるなら
そう思って自分の気持ちに蓋をしてきた。
でも、
ー仁ちゃんを苦しめるなら
ー仁ちゃんを泣かすなら
いくら仁ちゃん自身の気持ちでも許さない。
もう遠慮はしない。
ずるくたっていい。
俺が絶対仁ちゃんを幸せにするから。
だから、
俺を好きなってよ。
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さのじんの関係性解釈一致で切ないしYJに目覚めさせられちゃったし、どうしてくれるんですか笑 一推し作家さんとして今後も楽しみにしています。


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れもん