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プライベート用のファイルには、定期的にあるホテルを<平日の昼間に長時間>利用しているように思える明細や、明らかに女性用のジュエリー等を購入する高級店での明細が並んでいた。金額も高額なものが多く、美晴には病院代がもったいないと言って治療費を出し渋る夫は、別の女に何万円、時には何十万円もするアクセサリーやバッグを買い与えているような明細だった。それが月に何度もある。
親の代から続く松本会計事務所で働いている幹雄は、平日の昼間に好き放題遊んでいたのだ。更に定期的な飲み会へ行っていたと思われる時間は、いかがわしい店に出入りしている証拠がカードの明細に並んでいる。
真面目に仕事をしているとばかり思っていたが、とんでもない男だった。
平日に自由に遊べるのなら、夜は普通に帰って来て当然だ。なにも疑わしいことをする必要がないのだ。
さも仕事をしてきたように振舞い、偉そうにふんぞりかえって夕食に難癖を付けて気分次第で美晴をおもちゃにする――そんな暮らしを幹雄はずっと続けていたのだ。
(こんなのっ……絶対に許せない!!!!)
激しい怒りを覚えた。美晴はその明細を全て自分のスマートフォンで撮影をした上に、復讐アプリが用意してくれたクラウドにデータをアップロードして保存をかけた。アプリからの助言で、スマートフォンなどの機器を相手がわざと壊してしまったり、都合が悪いとスマートフォンごと取り上げてしまうことがあるらしい。証拠隠滅をされることを避けるための処置だ。二重にデータを保存するのは鉄則だとアプリに教えられた。
しかしカードの明細だけでは彼が浮気や不貞を働いているという証拠にならない。弁の立つ幹雄のことだ。他人にカードを貸してやった、と言い逃れるに違いない。もっと決定的な証拠を手に入れたい。できれば愛人と密会をしているような衝撃的な映像でもあれば――
資料をもとに戻し、他になにか証拠になるものはないかと幹雄の部屋を漁った。もう罪悪感は消え去っていた。こんなひどい男に今まで自分の人生を台無しにされていたのかと思うと、許せない気持ちでいっぱいになった。
机の引き出しにはめぼしいものは入っていなかったので、今度はクローゼットを開けた。ここは美晴にさえ触らせない彼の領域。もっともっと秘密があるに違いない。
ひとつひとつ丁寧にチェックをすると、棚の上の見えにくい場所になにやら箱のようなものがあるのを見つけた。折り畳みの踏み台があるのでそれを使って箱を取った。結構大きめの箱であった。
中を開けてみると、おしゃぶりが数個、数枚のスタイ(よだれかけ)や赤ちゃんにまつわるグッズが入っていた。
(なにこれっ……!!)
明らかに新生児用に購入したものではなく、使い古されている。念のためこちらもスマートフォンで撮影しておいた。よだれかけには名前に『みきお』と書いてあるので彼のものでまちがいないだろう。
(気持ち悪っ……もしかして、これを使って女性とお楽しみをしていたの? 私、おしゃぶりを使うような人に今まで散々いいように使われてきたんだ……!!)
激しい怒りがわいた。絶対にこの用具を利用している姿を撮影し、世間に公表してやろうと決めた。彼のとっておきの秘密を暴くのだ。しかし今のままでは力がない。もっと力を付けて証拠をそろえ、彼から慰謝料をたくさんもらって離婚したい。
この事実をもっと早くに知っていれば、と悔やんでも悔やみきれない。もっと早くクズ夫と離婚することができたし、せっかくお腹に来てくれた待望のわが子を失わずにすんだ。全ては己の無知・未熟さが招いた結果だ。
でも、こんなに非道な男だとは知らなかったから。
知っていれば結婚もしなかったし、仕えたりもしなかった。