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よし、と美晴は気合を入れた。早速証拠集めに出よう。復讐アプリの助言通り、ないなら作ればいい。あのクズたちは喜んで美晴をこき下ろすに違いない。ビデオ通話の方が鬼畜な表情が残せるのでちょうどいいと思い、夫に連絡を取ってみた。
今ごろ義理実家でさぞかし甘やかされているに違いない。息子が息子なら、母親も母親だ。人を散々奴隷扱いして、気に入らなかったら罵倒する。よく似た親子だ。
『なんだ』
早速不愉快そうに顔をしかめた夫の顔が映った。通話は録音状態なのを確認し、美晴は謝罪の言葉を口にした。「あの…本当に申しわけありません。無事に帰れましたので、報告をしようと思いまして……」
『はあ? お前の無事とかどうでもいいって! それより感染症が原因で流産ってお前のせいだろう!! どう責任を取るんだよ!?』
「でも、性行為はお医者様に止められたと幹雄さんにはお伝えしました。それなのに無理やり私を抱いたのは幹雄さんの方で……」
『なんだお前っ!! この僕に口答えするのかああああっ?』
予想通り激高しだした。いけいけ。そのままこちらを罵ってくれたらいい絵と音声が録画できる。証拠として残すことができるのだ。
『妊娠したくらいで夜のつとめも果たせないようなクズ嫁をもらって、僕は最悪だよ!!』
すみません、と涙ながらの謝罪をした。今までは誠心誠意謝っていたが本当に馬鹿らしいことをしていたものだ。おしゃぶり男になにを言われても、もう心は傷つかない。しかし憔悴する様子がすっかり板についているものだから、演技でも普段通りに相手には見えていることだろう。
幹雄からガミガミ言われているところに義母も参戦してきた。三十分ほどの説教を喰らい相手が捨て台詞を履いたところで終わった。今の様子は全部証拠に収めた。クラウドへの保存も抜かりなく行った。
これでいい。もっともっと証拠を集めて夫を追い詰めてやるのだ。
幹雄には今まで人を散々踏み台にしてきた罰を与えなければならない。
失ってしまったわが子の分まで、償ってもらうために――
※
数日後。美晴はクラウンホテルへ連絡を入れた。以前美晴が働いていたホテル内のカフェ『ホワイトシェル』で再び雇用してもらうためだ。
相原を調査すること、幹雄と離婚するための資金作り、夜勤を申し出て事務所に残されている留守番電話の録音データを手に入れることが目的だ。下手に事務所の方に電話をして留守番電話の音声メッセージに気が付かれると困るので、カフェ店内の方へ電話をかけた。
『はい、ホワイトシェルでございます』
声の主は相原久次郎だった。柔らかくやや低めの独特な声で、すぐに彼だとわかった。いったいなぜ、この男がアプリのターゲット対象に含まれているのだろうか。気になったが今はそこを追及する時ではない。
「相原さん、お久しぶりです。以前働かせていただいておりました、松本美晴です」
『ああ、松本さんか! 久しぶりだね。元気だった? どうしたの?』
「実は…結婚して落ち着きましたので、もう一度そちらで働きたいと思いまして。HPを見るとスタッフ募集の記事を拝見しましたので、思い切って連絡しました。私を雇っていただけませんか?」
『松本さんなら大歓迎だよ!』相原の声が弾んだので好感触に思えた。『いつから来られる?』
「今日からでも大丈夫です。土日もシフトに入れます」
『そうか、助かるよ。じゃあ一度事務所の方に来てくれるかな? 手続きをしたいから』
「はい、では伺います」
土日が勤務可能という貴重な人員確保が難しい職場のため、店にとって美晴の復帰は喜ばしいものだろう。好感触なのも嬉しい。
ひとまず第一段階クリアだ。