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あまりにも切ない
大泣きした翌朝。
みことは、少し腫れた目で目を覚ました。
「……おはよ」
掠れた声でそう言うと、隣のすちはすぐに微笑んだ。
「おはよう」
昨夜の出来事が、ゆっくりと蘇る。
泣いたこと。
本音をぶつけたこと。
離れないと言われたこと。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
「……俺、ひどい顔してる?」
「まあね」
すちはくすっと笑って、ティッシュを差し出した。
「でも、ちゃんと泣けてよかった」
みことは、少し照れたように目を伏せた。
「……恥ずかしい」
朝食を食べながら、二人はゆっくり話をした。
これからの生活のこと。
通院の頻度。
服薬管理。
家の中の安全対策。
外出時の付き添い。
現実的な話ばかりなのに、不思議と空気は穏やかだった。
「スマホに、連絡先と住所、登録し直そうか」
「うん」
「財布にも、メモ入れとこう」
「……迷子対策みたいだね」
みことは冗談めかして笑ったけれど、その目は真剣だった。
「ちゃんと、戻ってこられるようにしないと」
すちは頷いた。
「戻ってこられる場所は、俺が守るからね」
二人で、部屋の整理をした。
薬の置き場所を固定する。
メモボードを壁に貼る。
一日の予定を書き込めるホワイトボードを設置する。
「……なんか、病院みたい」
みことは少し苦笑する。
「少しでも安心できるようにね」
「うん……ありがと」
“できなくなる自分”を受け入れる作業は、少しだけ胸が痛んだ。
それでも、一人じゃない。
それが、救いだった。
ソファに並んで座りながら、テレビを眺めていたとき。
みことが、ふと、すちの腕にそっと触れた。
「……すち」
「ん?」
「俺さ」
少し迷ってから、言葉を選ぶ。
「昨日、あんなに泣いたの、初めてだと思う」
「そうだね…」
「……でも、ちょっと楽になった」
すちは、みことの指を握り返す。
「溜め込まないで」
「泣きたくなったら、俺の前で泣いて」
「強がらなくていいから」
みことは、小さく笑った。
「……努力する」
ベッドに入る前、みことは日記を開いた。
今日の出来事を書く。
「すちと、これからの話をした。
少し怖いけど、一緒に生きるって決めた。
今日は、ちゃんと泣けた。」
そして、最後の一文。
――「すちのことが大好き。」
ペンを置いて、静かに目を閉じる。
(忘れても、また書けばいい)
(忘れても、また教えてもらえばいい)
少しずつ、そんなふうに思えるようになってきていた。
一方、すちは、みことの寝顔を見ながら考えていた。
(みことは、これからもっとできないことが増える)
(きっと、もっと泣く日も来る)
(それでも)
手をそっと握る。
(一緒に、歳を重ねたい)