テラーノベル
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◆後日談◆
【憧れのスローライフはあなたと】
かつて描いた憧れのスローライフとは違う。
だけどそれよりずっと幸せで、愛で満たされる日々。
ゲームの世界のキャラに憑依した俺は、紆余曲折あり、愛する人と出会い幸せを見つけた。
その愛する人であるオランジュと二人、田舎暮らしをしながらのんびりと幸せな日々を送っていた。
「けっこう元気そうですね。血色も良くて健康そうで良かったです。心配していたんですよ」
俺の作ったスープをバクバクと食べながら、頬を膨らませて喋っているのは、かつての従者だったアルモだ。
神父であるオランジュと、世話人の俺は教会で働いている。
いつものように用事を済ませてから一旦帰宅すると、家の前で行き倒れている人を見つけた。
よく知った後ろ姿を見て、それがアルモだと分かった俺は急いで起こしてから、家の中に運び入れて様子を見た。
村医者を呼びに行こうかとしたところで、気がついたアルモが一言、お腹が空いたと言ったのだった。
「人を心配している場合じゃないだろう。五日間もほぼ飲まず食わずなんて……」
辺境ど田舎村まで来る途中、乗ってきた馬車が故障するという災難に見舞われたアルモは、歩きでここまで来ることを選んだ。
途中には村もなくて、結局、雨水を飲みながらやっと辿り着いたというから、驚いてしまった。
「手紙で教えていただきましたけど、本当に新婚さんみたいですね。良い人と出会えて良かったですね」
アルモは、そう言って家の中を見回した。
当初殺風景だった部屋は、今では様々な家具が置かれて、すっかり生活感に溢れている。
仲良く並んだ二人分のカップを見て、アルモがニヤニヤと笑うので、恥ずかしくなった俺は顔を下に向けた。
「……帝国からの手紙は読まれたんですよね。どうして、帰って来られないんですか?」
「まさか……俺に会いに来たのは、それを確認するためか?」
「まーそれもありますけど、色々と……ヴィーヴル家のことも直接お話ししたかったんです」
月の初め頃、帝国から一通の手紙が届いた。
俺の元婚約者であり、この帝国の皇太子である、フィエルテとゲームの主人公だったジョリ妃の間に王子が生まれたのだ。
国家の慶弔時には限定的に恩赦が実施される。
その恩赦の対象に俺が選ばれたとの通知だった。
なんでも、ジョリ妃のたっての希望らしく、かつての罪をお許しいただけるそうだ。
ということで、俺が主人公に行った数々の嫌がらせによって、帝国から永久追放になったはずだったが、それがなかったことになってしまった。
さすがお優しい主人公様の考えそうなことだが、帝国から離れて田舎でスローライフは、俺が望んだことなので、わざわざ殺伐とした帝都に帰りたいなんて微塵も思っていなかった。
「帰るわけないだろう。こっちでの生活に馴染んだし、恋人はこの村の神父だ。今まで通り、ここで暮らしていくよ」
「はぁ……やっぱり、そうですか。実はヴィーヴル家は今大変なんです。ジアン様が大旦那様から引き継いだ事業をことごとくダメにしてしまったんです。どうも口車に乗せられやすいみたいで、悪い連中と付き合って次々と負債が増えていって、あれほど強固に築いていた資産が湯水のように消えていって……」
ジアンは俺の目から見ても、腹黒くて嫌なヤツだったが、どうやら落ちるところまで落ちたらしい。
廃嫡された身としては、どうでもいいことなのだが、療養中の前公爵やテンペランスの母にあたる人は悪い人達ではなかったので、そこまで影響が出るのかと思うとどうも良心が痛んだ。
「大旦那様は病床で、テンペランス様が帰ってくることを願うと仰っています。ヴィーヴル家はテンペランス様に任せたいとまで……」
俺の従者だったアルモは、今は前公爵に付いて身の回りの世話をしている。
家督争いなんて関わりたくないので、俺はぶるぶると震えてしまった。
「やっ……やめてー。俺、実子じゃないし! それならむしろ親戚筋から選んでくれよ」
「もちろんその線も考えていますけど、……僕もテンペランス様に帰ってきていただきたいです。それで、直接そのお願いにと……。神父様には帝国への異動願いを出してもらってとかはダメでしょうか?」
「それは……俺達、ここの暮らしが気に入ってるからさ。やっぱり帰るのは無理だよ」
「そうですか……残念です」
アルモはガックリと肩を落として項垂れた。
その様子を見て、胸が苦しくなったが、ダメなものはダメだ。
やっと手に入れた安息の地なのだ。
わざわざ元に戻りたくはない。
きっとオランジュもそう思ってくれているはずだ。
ちゃんと話したことはなかったが、なぜオランジュがこの村に派遣されたのか、そろそろそれを聞いてみようと思っていた。
「そうだ、せっかく来たんですから、愛しの神父様に会わせてください。今は、どちらに?」
「昨日から買い物に行ってる。ここから近くの町まで遠いからさ。でも、そろそろ帰るはずだよ」
「どんな方なんですか? テンペランス様がそんなに惚れ込むなんて、カッコいい方なんでしょうね」
「そっ……それは、そうだよ。カッコいいし……可愛いし……ちょっと無愛想だけど、優しい」
オランジュの話題が出たからか、つい夢中になって語ってしまった。
アルモがまたニヤニヤしながら見てきたので、ハッと気がついた俺は顔から火が出そうになって手で覆った。
「カッコよくて可愛い人ですかぁー、楽しみだなぁ」
三杯目の皿を空にしたアルモが背伸びをしながら、お腹に手を当てたところで、外からガタンとかバキッと派手な音が聞こえてきた。
「おー、噂をすればだ」
オランジュは物の扱いが雑なところがあって、外に置いてある椅子やテーブルをすぐに壊してしまう。
そんな音が聞こえてきたので、また勢いよく椅子に座って壊したなと思い、様子を見ようとドアに手をかけた。
すると、物が壊れるような音と、人が呻くような声と鈍い音が聞こえてきて、さすがにおかしいと思った俺は急いでドアを開けた。
飛び込んできた光景に、一瞬見間違えかと目を疑った。
人が飛んできて玄関横の壁にぶち当たったので、俺は声にならない声を上げた。
「……ったく、ここにきて総攻撃とは。追い詰められたからって、なんて人数送り込んだんだよ」
少し離れたところから、どうやら飛んできた人を殴り飛ばしたと思わしき人物がブツブツ言いながら立っていたが、その人物と思い切り目が合ってしまった。
「え……!? やばっ……」
金髪の長い髪に人形みたいな緑の瞳の、まるで森に住むエルフのような綺麗な男の人だったが、俺を見て驚いたように、目と口がぱっくりと大きく開いた。
「あの……どちら様で……」
「たっ、隊長!! マズイです! 奥様が!!」
男が振り返った先を見ると、人が山のように積み重なっていて、その天辺に見覚えのあり過ぎる後ろ姿があった。
まるでおもちゃを投げ捨てるように、掴んでいた人間をぽいっと地面に放り投げて、鬼神のような男がこちらに体を向けた。
俺の後ろから外を覗き込んだのか、アルモがヒィっと怯えた声を上げたのが聞こえた。
「う……うそ、オランジュ……」
頬に血を拭ったようなあとをつけて、野獣のような鋭い目をしていたのは俺の恋人で、暴力とは無縁の神父であるはずのオランジュだった。
「ラン……、この時間は教会にいるはず……じゃ」
「来客があって、予定を変えたんだ。さて、いったいどういう事なのか……説明してくれる?」
ありえない光景だったが、どこか覚悟ができていたというか、オランジュについて何かあるだろうとは分かっていた。
思っていた以上に、冷静に事態を眺めて低い声が出てきた。
そんな俺より、焦っているのはオランジュの方だった。
さっきまで鋭い目をしていたのに、今は棘が抜けたように、ふにゃりとした泣きそうな顔をしていた。
とりあえず、人の山の上にいつまでもいてもらっては困るので、後のことは金髪の人がどうにかすると言ってくれたので、家に入ってもらって話し合うことになった。
「なるほど……ジアンか……、考えられない話じゃないな。あの執念深い男を甘く見ていたよ」
この村に来ることになったところから、オランジュの話を一通り聞いた俺は、腕を組んでため息をついた。
「うんうん、ジアン様の考えそうなことですね。何しろ、テンペランス様を昔から目の敵にしていましたから」
なぜか話し合いにはアルモも参加しているので、シュンとした顔のオランジュは、アルモのことをチラリと見た。
「ああ、申し遅れました。ヴィーヴル家の使用人でアルモと申します。以前はテンペランス様の侍従をしておりました。今は前公爵の大旦那様の邸で働いております」
「恩赦のことで、父から戻ってきて欲しいと話があって、アルモはそれを伝えにここまで来てくれたんだ。それで、さっきの金髪の彼は? 隊長って呼んでいたから、オランジュの部下の方かな?」
オランジュは大きな体を小さくして、気まずそうにそうだと返してきた。
色々混乱していたが、オランジュはまるで叱られている子供のように見えて、こんな時なのに可愛く思えてしまった。
「テンペランス様が仰っていた通り、カッコいいじゃないですか! 元国家の秘密部隊を率いていた男! 襲い掛かる魔の手から秘密裏に恋人を守り続けていた! いやぁ感動的!」
怯えているかと思いきや、一人興奮して机を叩いた男がいた。
どうやら少年らしい好奇心の方が勝ってしまったらしい。
「あのねぇ、アルモ……」
そんな単純な話ではない。
オランジュから聞かされた彼の身の上話は、驚くべき内容だった。
オランジュは皇帝の隠し子、認められていない皇子で、帝国の暗殺部隊の一員として、長年影で活躍してきたということだった。
そんな危険な人物だったなんて、これでは俺が思い描いてきた田舎でのんびりスローライフは、どこにいたってデンジャラスライフになってしまう。
深く息を吐いた俺を見て、オランジュはびくりと肩を揺らした。
隊長と呼ばれていたからには、部隊ではそれなりの位置にいて、恐れられていたに違いない。
そんな男が、緊張した様子の神妙な顔つきで、汗を流して俺の言葉を待っていた。
分かっている。
もう俺の望んだスローライフとは違うものになってしまった。
けれど、それは俺自身が求めたものだ。
オランジュと生きること。
それがどんな道であっても、一緒に進むと決めたのだ。
「とりあえず、皇宮に戻って、フィエルテと血みどろの後継者争いとか、それだけはやめてくれよ」
「ああ……もちろん、そんなことは絶対にない」
「じゃ、いいよ。分かった」
「ラン……? わ、分かったと言うのは……」
「前に言っただろう。オランジュが側にいてくれるなら、それだけでいいって……。ちょっと想像と違いすぎて、驚いてるけどさ。ずっと話したくても話せなくて辛かったんだろう? 大丈夫だよ。オランジュの過去も今も、全部俺は受け入れるから」
「テンペランス………」
オランジュは目を潤ませて唇を震わせていた。
出会った時から無表情が標準装備されたような顔だったのに、いつの間にか表情が現れて、今は泣きそうな顔まで見せてくれた。
全部俺のおかげかな、なんて勝手に思って嬉しくなってしまった。
泣きそうなオランジュに向かってニコッと笑って見せると、すぐ隣に座っていたオランジュはガタンと椅子を倒して立ち上がり、俺に抱きついてきた。
「話すのが遅くなってすまない」
「ううん、話してくれてありがとう」
オランジュは自分の過去を告白することで、俺を失うかもしれないと恐れていたようだ。
まだ少し震えている体を、大丈夫だと言って、俺も背中に手を回してぎゅっと抱きしめた。
「愛してる……今すぐ、抱きたい」
耳元でセクシーに囁かれたら、心臓が揺れて体が一気に熱くなった。
トロけそうな熱に身を任せそうになったところで、あのぅーという申し訳なさそうな声が聞こえてきた。
「僕、今日宿がなくて、泊まらせていただきたいんですが……」
存在が頭から抜けていたが、アルモがお茶をすすりながら、気まずそうに笑っていた。
「ごっ、ごめん! アルモがいたのすっかり忘れて……目の前で……」
「悪いなアルモ、夜はうるさくなると思うが、我慢してくれ」
「ばっ……何言ってるんだよ。アルモ、一階の奥の部屋を使って。大丈夫、うるさくなんてしないから」
長旅で疲れているアルモの睡眠を妨害するなんてできないし、アノ声を聞かれたら恥ずかしくて顔を見れなくなってしまう。
口を尖らせているオランジュに、今日はダメだと目で合図をした。
「ジアンが大量に人を雇って、うちを襲おうとしたのは追い詰められている証拠だね。ここまで来たら黙ってはいられない。父に全部報告しよう。家督を譲ってはいるけど、父の影響力はまだ変わらないから、正しい判断をしてくれるはずだ」
「ええ、本宅に戻ればおそらく指示した証拠になるものが残っていると思います。それを持って僕の方からも、大旦那様にお伝えします」
オランジュの方も色々あって大変そうだが、ヴィーヴル家のゴタゴタも決着がついていないので困ったところだった。
アルモとこの後のことについて打ち合わせて、最近体調が良くなってきたという父に全てを任せることにした。
コメント
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みぅです🥀 後日談、じっくり読ませてもらいました。 オランジュの過去が明かされて、無表情な人が涙見せるところ、めっちゃぐっときました…。 “全部受け入れる”って言えるランの強さ、かっこよかったです。 アルモがニヤニヤしながらも純粋に興味津々なのも可愛くて、ほっこりしました。 田舎スローライフのはずがデンジャラスになりそうな予感…それでも一緒にいるって決めた二人、尊いです。 続きも楽しみにしてます🌙