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白銀の床と透明なガラスのテーブルが眩しい、SWAPSAKENの最上層に位置するサンルーム。
そこには、純白のドレスを纏ったアクチュアリティ女王が催す、優雅で非日常的なお茶会(ティーパーティー)の席が設けられていた。
「ふふ、ようこそ。我が箱庭を修復してくださる尊き『道具』と、その愛らしいお連れ様」
女王が微笑みながら指先を鳴らすと、白銀の給仕用ゴーレムたちが静かに現れ、テーブルの上に最高級のホールケーキと、湯気を立てる完璧な温度の紅茶をセッティングしていく。
だが、その食卓を囲む二人の様子は、あまりにも異質かつ悲惨だった。
テーブルの右側には、無表情のまま微動だにしなテラモン。
白いフードの陰から覗く茶色い巻き毛を揺らし、白黒の重厚な鎧を纏った彼は、目の前に運ばれてきた極上のベリーケーキを冷ややかに見つめるだけだった。
「……個体の生命維持における、経口分子摂取の必要性を認めない」
感情を奪われ、自動追撃機械と化したテラモンは、低く無機質な音声合成のような声で吐き捨てた。
そして、目の前にある銀のナイフとフォークを手にとると――カチャン、カチャンと完璧な精度とミリ単位の角度で、テーブルの端に寸分の狂いもなく「一直線」に並べ始めた。
ナイフの刃先はテーブルのシーム(縫い目)と寸分違わず平行。フォークの先端は完璧な直角。
狂気的なまでに規則正しいその整列行為は、食事を楽しむためではなく、食卓という空間すらも「完璧な秩序」で侵食しようとする無感情な強迫観念そのものだった。
一方、テーブルの左側では――。
「ひぃっ……! 殺される……ッ! ケーキ食わなかったら『マナー違反』で斬られるし、食ってもテラモンに背後から首を飛ばされる……ッ!!」
黒地に緑のローブを纏った最凶キラー(笑)こと1x1x1x1が、膝をガタガタと激しく震わせ、涙目になりながらプルプルとフォークを握りしめていた。
テラモンの無感情な圧迫感と、アクチュアリティ女王の微笑みの裏にある絶対的な威圧感。
挟み撃ちにあった1x1x1x1の精神状態はすでに限界突破していた。
「あ、味なんて分かんねぇよぉ……っ! 美味しいです女王様……ッ!」
1x1x1x1は恐怖を紛らわせるため、泣きそうになりながらホールケーキを口へ押し込んだ。
弱体化した胃袋にドカ食いは効いたが、止まれば即死するという本能的恐怖から、フォークを休めることができない。
「まあ、たくさん召し上がること。とても健気で愛らしいわね。……そうだわ、そちらの紅茶には、こちらの特別な果実を絞ると一層香りが引き立ちますのよ」
女王が指し示したのは、白銀の皿に盛られた、ツヤツヤと輝くフレッシュなライムだった。
1x1x1x1は半泣きになりながらライムを手に取ると、震える指先でギューッと力任せに絞り、温かい紅茶のカップへとその果汁を大量に注ぎ込んだ。
シュワッ……
柑橘特有の、甘酸っぱく爽やかなライムの香りが、湯気とともにふわりと立ち上り、殺伐としたお茶会の空間いっぱいに広がっていく。
その瞬間だった。
ピクッ。
完璧なマナーでナイフとフォークをミリ単位で整列させていたテラモンの手が、不自然に止まった。
白いフードの陰。
目元を覆う深い暗闇の奥で、光を失っていたはずの瞳が一瞬だけ、まるで壊れた回路が放電するかのように小さく点滅したのだ。
#Vanity
ゆ♨️
1,633
#azure
ゆ♨️
133
#1x1x1x1
ゆ♨️
476
99
「……ッ?」
テラモンは無感情な顔のまま、ゆっくりと首を横へと傾けた。
その鼻腔をくすぐったのは、かつて神として秩序を統べていた頃……己の半身である1x1x1x1とまだ「ひとつ」の存在であり、共に青空の下でくだらない時間を過ごしていた時に漂っていた、懐かしい果実の香り。
感情が消去されたはずのテラモンの胸の奥深くで、未知のエラーログがチリッと音を立てて熱を帯びる。
「……ログの検索に失敗。……未定義の臭気成分を検知」
機械的な低音で呟きながら、テラモンはゆっくりと、ライムの香りを全身に纏って紅茶をすする1x1x1x1の方へと顔を向けた。
「な、なんだよ……! 俺の飲み方が汚いってのかよ! 斬るなら一言言えよな!?」
恐怖で悲鳴を上げる1x1x1x1。
だが、テラモンの金色の剣は抜かれなかった。
ただ、白いフードの陰から、じっとそのライムの香りを追うように、かつての半身を見つめ続けている。
「ふふ……あらあら」
アクチュアリティ女王は、紅茶のカップを傾けながら、その光景に目を細めた。
「完璧だった鉄の機械に、ほんの少しの『不純物』が混ざり始めたようですわね。……スペクター様が仰っていた通り、このお茶会、思いのほか素晴らしい『余興』になりそうですわ」
感情を失ったはずの殺戮マシーンの胸底に芽生えた、小さな破調。
白銀の優雅なお茶会に、崩れかけた二人の運命の糸が、ほんの少しだけ絡み合い始めていた。