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【fk】
佐久間を帰した後、食事を取る気にはなれなくて、申し訳ないけどお店の人に謝って俺も家路につくことにした。
忙しいから仕方ないですよ、と快く了承してくれたことに罪悪感で胸が痛む。
本来ならこの感情は佐久間に対して抱かないといけないものだけど、俺の言葉に簡単にぐらついてしまう可愛い佐久間に心は浮ついていた。
照を好きになれたら本当の意味で幸せになれるのに、別れてからもその目はずっと俺を追っていた。
散々傷付けられたのに、俺を求めてしまう可哀想な佐久間。
俺だって本当は傷付けたいわけじゃなかった。
佐久間は知らない俺の嗜虐性。
好きと思えば思うほど、大事にしたいのと同じくらい俺に狂っている姿を見たいと思ってしまう。
自分でも受け入れがたい感情。
1番知られたくない俺の汚い部分。
話してしまえばきっと佐久間は受け入れてくれただろう。
それでも、佐久間には純粋で綺麗なものだけを与えたかったから、この衝動は他で発散するしかなかった。
佐久間の言う浮気。
世間一般的には浮気なんだろうけど、俺にとっては佐久間を俺から守るためのただの捌け口だった。
正直、恋愛なんて心さえ通じ合っていればいいと思ってる。
心がお互いを想い合っているなら、他には何もいらない。
そう思って気付かれないように上手くやっていたつもりだったけど、ある日佐久間にバレてしまった。
その時の佐久間の傷付いた顔と、捨てないでと縋ってくる姿に、俺が必死にかけていたブレーキが壊れた。
佐久間に直接向けることのできない衝動を他で発散することで、佐久間が俺に溺れている姿を見れる。
傷付けないようにと始めた行為が、いつの間にか佐久間を傷付けるための行為に変わってしまった。
全部なにもかも俺が悪い。
醜い感情を抑えられず、それを満たす方法も間違えた。
こんなことを続けて、いつまでも佐久間が耐えられるわけがないことも分かっていた。
これ以上傷付けたくないから、早く俺のことを嫌いになってくれとまで思っていたのに。
別れても、年月が経っても、俺に向ける視線には熱がこもっていて、叶わない想いに苦しむ佐久間に俺の心は満たされていった。
わざわざ傷付ける必要もなく、心だけがお互いを向いている。
これは、俺が求めていた理想の形だった。
照が佐久間のことをずっと好きだったのは知っていたし、照のまっすぐな愛情が少しずつ佐久間の心を溶かしていく様子も感じていた。
佐久間が照を選んでくれたことが本当に嬉しい。
叶わない恋をしている佐久間の傷を癒すために、佐久間の隣に照がいてほしいとずっと思っていた。
俺に想いを寄せる佐久間と、幸せな時間を過ごす佐久間を、両方近くで見られるなんて願ってもない状況。
俺も照も佐久間のことをずっと見ていたから、あいつの僅かな感情の機微を嫌でも感じとってしまう。
佐久間の視線が俺に向いていることに照が気付いていないわけがない。
それを分かっていて隣にいることを選んだ照も相当狂ってる。
幸せになってね、と佐久間に伝えた言葉。
純粋すぎるあいつにはどのように響いただろうか。
半分は本音だけど、あれは、幸せを感じれば感じるほど俺に対する罪悪感を募らせるための呪いの言葉のつもりだった。
佐久間はなにも悪くないのに、それだけのことできっと簡単に囚われる。
1番可哀想なのは俺でも照でもなく、どちらも選ぶことができない佐久間自身。
心も体も時間も全て欲しがる欲張りな佐久間。
確かにそれを与えられるのは照しかいないかもしれない。
俺は佐久間の望む幸せをあげることはできないから、隣は譲る。
でも、心だけは俺のもの。
相手が照でもそれは譲れない。
いつもより多めにつけた香水に照ならきっと気付いてくれる。
俺達2人が自ら望んだ、歪だけど完成された俺達の関係。
佐久間は何も知らなくていい。
何も気付かないまま、流されるまま、俺に対する恋心と、照のくれる幸せにずっと囚われててね。