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井野匠
さくらぶ
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私が、旦那に「怨料理(おんりょうり)」を作り始めてから一ヶ月以上が過ぎていた。
「怨料理」は、結果が出るまでに時間が掛かるので、本当はE(エチニラ)やP(パキシル)を食事に混ぜれば、料理を別に作る手間も省けて、直ぐに結果が出るのだが、犯罪なので露見した場合のリスクが高すぎる。
自分はどうなっても構わないが、莉子が犯罪者の子供と蔑まれるのは、何としてでも避けねばならない。
だから、時間が掛かったとしても合法的な手段を選んだのだ。
しかし、結果は意外なほど早くあらわれた。
今夜も、家族が寝静まったリビングで、私のハビーデスチャンネルへの書き込みが始まる。
ハンドルネーム:勇気リンリン
「ウチの旦那が、怨料理を食べ始めてから一ヶ月以上が経過した。
旦那は、体重が七キロも増えたと嘆いているが、どこか嬉しそうだ。
お腹いっぱい食べられることが幸せなのだろう。
考えてみれば、娘が生まれてから食卓にはカロリーの高い食事や、肉類を並べなくなった。
旦那の好物だった白米も五穀米に変えたし、油っこい揚げ物や炒め物もやめて、ヘルシーな蒸し料理を増やしたのだ。
それは、私の妊娠が判明した四年前から今も続いている。
アルコールもやめてもらったし、農薬や添加物にも気を使うようになった。
若干、行き過ぎのきらいはあるが、それもこれも、子供の健康を考えれば当たり前のことなのだ。
旦那にとっては、久しぶりに味わう好物だったのだろう。
あの日から、旦那の機嫌は良くなった。
しかし、そうなると私には新たな悩みが湧き上がってくる。
今まで身勝手だった旦那が、急に優しい旦那に早変わりしたのだ。
旦那専用の怨料理を用意しているので、食い尽くし癖がなくなったのは勿論だが、子供の世話や家事の手伝いまでしてくれるようになった。
しかも、休日になると「莉子の面倒は僕が見るから、気晴らしに遊びに出かけたら」とまで言ってくれる。
何だか、自分だけが悪事に手を染めているみたいで罪悪感に苛まれた。
それに、旦那が積極的に家事や家族サービスをするようになって、娘との関係性も良くなってきた。
それ自体は悪いことではないのだが、今まで、旦那を怖がってあまり近寄らなかった娘が、夕食の時、旦那の怨料理を欲しがるようになったのだ。
心の中では、「止めて!それは毒だから食べないで!」と叫んでいるが、口に出しては言えない。
これは大人の食べ物だからと、言い聞かせるのだが、最近では怨料理の味を覚えたのか、自分のおかずもパパと同じ物にして欲しいと言い始めた。
こんな感じなので、今までは娘の分まで食べていた旦那が、今は、自分のおかずを娘に分け与えている。
何だか、自分達が普通の家族に戻ったみたいだ。
それに、先日の日曜日は旦那と娘が、ファーストフード店のハンバーガーを食べたと聞いて卒倒しそうになった。
子供には、健康的な食事を摂ってもらいたいと思っているのに、子供は、それを望んでいない。
何が正しいのか、分からなくてなってきた…
書き込みをこう結ぶと、早速、いつものメンバーからコメントが入ってくる。
ハンドルネーム:怨みつら美
「ハビーデスチャンネルって、旦那の愚痴を言い合う場所ですよ。
何だか、勇気リンリンさんの自慢話を聞いているみたいで気分が悪いです」
ハンドルネーム:勇気リンリン
「自慢話をしているつもりはありません。
でも、そう感じたのならゴメンなさい…」
ハンドルネーム:韓流好き子
「旦那に騙されちゃダメですよ。
DVもアルコール依存症も、一時的に良くなることがあるんです。
でも、それは波みたいな物で、今は引いているだけで、いずれ必ず打ち寄せて来ます。
だから、手を抜かずに怨料理を続けてくださいね。
それに、怨料理を止めれば元の食い尽くし旦那に逆戻りですよ。
応援しています」
ハンドルネーム:勇気リンリン
「おっしゃる通りですね。
アドバイスありがとうございます。
私も、旦那が消えてなくなるまで、迷いを振り払って頑張るつもりです」
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