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私達が雨森神社に到着すると、本殿脇の受付から巫女が出て来て、「日向様ですね?」と聞かれたので、旦那が「はい」と頷くと、「こちらです」と祈祷を受ける拝殿まで案内してくれる。
雨森神社から、七五三と結婚五周年を合わせた記念祈祷の招待状が届いた時は、「商売上手な神社だな」と感心はしたが、その招待を受けるつもりはなかった。
時間を掛けて旦那を縊り殺そうと画策している私が、呑気に結婚五周年を祝う気にはなれない。
しかし、その招待状を見た旦那が俄然やる気になったのだ。
「用意が面倒だし、お金も掛かるから…」と消極的な私に対して、「莉子の記念にもなるから」と子供をダシに説得を始める。
そこにタイミング良く、雨森神社の宮司から旦那の携帯に連絡が入ったので、私の感情とは別に参加が決定してしまったのだ。
拝殿に入ると、本格的な七五三の時期よりも早かったからか、祈祷を受けるのは私達だけだった。
最初に案内してくれた巫女から、簡単な説明を受けると、宮司が出てきて修祓(しゅばつ)が始まる。
次に祝詞(のりと)が秦上(そうじょう)され、玉串拝礼が終わると、最後にお神楽が奉納された。
これで全てのプログラムが終了したはずなのだが、案内してくれた巫女が近寄ってくると、「宮司よりお話が有りますので、そのままでお待ちください」と言われて、何だろうと待っていると、いつもの宮司と一緒に濃紺の作務衣を着た男が現れる。
その男は不思議な目をしていた。
細身で背が高く、端正な顔立ちをしているのに、全てを見透かしているような、不思議な視線を投げ掛けてくる。
そのくせ、人の内面を探るような卑しさを感じさせない目だった。
胡床に座る私達の横に巫女が立ち、その前に二人の男が立っているという、一種異様な光景の中で宮司の話が始まった。
「持って回った言い方が苦手なので、単刀直入に申し上げます」という前置きの後に、「奥様から、尋常でない邪気が溢れております」と言われたので、私も旦那も、驚くと同時に強い警戒心を抱いた。
私は、自分の目論見が露見したのかもしれないという警戒心で、旦那は、一般的な霊感商法に対する警戒心だったろう。
しかし宮司は、私達の感情を見抜いたかのように釘を刺してきた。
「こんなことを、いきなり神社の宮司から言われると、霊感商法など、詐欺を警戒されると思いますが、私は、絶対に嘘を言いませんし、何も売り付けたりはしません。
ただ、このままではご家族の身に危険が及ぶレベルなのです」
私は、ハッとして宮司を見詰めた。
旦那も、宮司の言葉と私の反応に驚いた表情を浮かべている。
そして、旦那が恐る恐る口を開いたのだ。
「わ、私達は、どうすれば良いのでしょう?」
すると、大きく頷いた宮司が「ここからは、ご家族の判断になりますが…」と前置きしてから、隣の作務衣を着た男を紹介したのだ。
「彼は、白川流霊枢治療の治療師で白川時雨といいます」
すると旦那が、「れいすうちりょう?」と聞き返したので、宮司が「簡単に言えば、私達のように形式的なお祓いをするのではなく、実質的なお祓いをする人間だと思ってもらえれば良いでしょう」と分かりやすく答えてくれた。
私が、恐る恐る、「お祓いの費用はどれくらいですか?」と訊ねると、「お一人で二万円なので、今回は、お二人分で四万円になります」と治療師が答えたので、私達は驚いて「よ、四万円!」と声が裏返ってしまう。
「ただ、今回はこちらの押し売りなので、お二人が、何の効果も感じないと判断すれば治療費は頂きません。
これなら、詐欺を心配する必要もありませんよね」
こう言われた私達は、とりあえず一安心したのだが、私には、もう一つ大きな懸念が残っていた。
「お祓いが失敗して怪我をしたり、副作用などの心配はないのでしょうか?」
すると若い治療師は微笑みながら、「治療には鍼を用いますが、僕は、はり師ときゅう師の国家資格を持っているので安心してください」と言った。
すると、それまで黙って話を聞いていた巫女が、「白川先生、先程、二人分の治療をするとおっしゃいましたが、奥様以外に誰を治療されるのですか?」と素直な疑問を投げ掛ける。
その言葉に微笑んだ若い治療師は、「旦那さんだよ」と答えてから、「奥さんと同じくらい大量の雨を宿している」と補足したのだ。
そして、それを聞いた宮司も大きく頷いている。
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