テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
最初は、本当にただの情報交換だった。
新しい脆弱性。
最近流行している侵入手法。
検知回避の研究。
ハッカー同士が知識を共有すること自体は珍しくない。
セブンにとっても、それは仕事の延長線上だった。
相手はそこそこ有名な技術者だった。
腕も立つ。
知識もある。
話していて退屈しない。
ただ、それだけ。
本当に、それだけだった。
⸻
「最近さ」
通話越しの男が笑う。
『君のコード見たけど面白かったよ』
「そうか」
『あの発想は好きだな』
セブンは画面を眺めながら適当に返事をする。
何時間も話していた。
技術の話は尽きない。
それなりに有意義な時間だった。
しかし。
その頃。
別の場所では。
Noliが黙ってその通話ログを見ていた。
一言も発さず。
ただ静かに。
画面を見つめていた。
⸻
翌日。
事件は起きた。
そのハッカーのアカウントが全滅した。
バックアップ消失。
サーバー崩壊。
保管データ消去。
所有していた開発環境まで破壊。
まるで存在そのものを削除するみたいに。
徹底的だった。
容赦がなかった。
技術的にも異常だった。
普通なら不可能なレベルで。
セブンはログを見た瞬間に分かった。
「あいつか」
嫌な予感しかしない。
⸻
その夜。
Noliはいつものように部屋にいた。
ソファに寝転がりながらゲームをしている。
機嫌も良さそうだった。
「Noli」
「んー?」
「お前やっただろ」
沈黙。
ゲームの音だけが流れる。
数秒後。
Noliはコントローラーを置いた。
「何のこと?」
「とぼけるな」
セブンはログを投げる。
ゆゆゆゆ
172
ゆゆゆゆ
381
#Nosferatu
ゆゆゆゆ
951
証拠は十分だった。
Noliは画面を見て。
そして笑った。
否定もしない。
「綺麗だった?」
「何がだ」
「壊れる瞬間」
セブンは眉間を押さえる。
頭痛がした。
「なんでやった」
「邪魔だったから」
あまりにも自然な口調だった。
まるで机の上のゴミを捨てたと言うみたいに。
「ただそれだけ」
「ただそれだけで潰したのか?」
「うん」
Noliは頷く。
悪びれる様子はない。
「意味が分からん」
「簡単だよ」
Noliは立ち上がる。
ゆっくりと近付いてくる。
その表情から笑みが消えていた。
代わりに現れたのは冷たい顔だった。
普段の大袈裟で騒がしいNoliではない。
本気で機嫌が悪い時の顔。
「君さ」
静かな声。
「最近あいつと話しすぎじゃない?」
「情報交換だ」
「知ってる」
「じゃあ――」
「だから嫌だった」
即答だった。
セブンは言葉を失う。
Noliは続ける。
「面白くなかった」
「何が」
「君が楽しそうだった」
その声には怒りもあった。
苛立ちも。
子供じみた独占欲も。
全部混ざっていた。
「技術の話で盛り上がって」
「新しい発見を共有して」
「笑って」
Noliは目を細める。
「それ、僕の役目だろ」
「役目?」
「そう」
一歩近付く。
「君の隣に立つのは僕だけでいい」
部屋の空気が静まる。
Noliはモニターに映る壊滅したデータを見た。
そして鼻で笑う。
「僕のステージに」
冷たい声だった。
ぞっとするほど。
「あんな大根役者はいらない」
セブンは呆れる。
「お前な……」
「だってそうだろ?」
Noliは肩を竦める。
「技術はあったかもしれない」
「でも君を理解してない」
「君の発想も」
「君の狂気も」
「君の面白さも」
淡々と続ける。
「そんな奴が隣に立てるわけないじゃないか」
セブンは深くため息を吐いた。
怒るべきだった。
実際怒っていた。
勝手なことをした。
被害も出た。
理屈ならいくらでもある。
だが。
目の前のNoliは本気だった。
本気で嫉妬して。
本気で排除した。
それが分かるから余計に厄介だった。
「馬鹿だな」
セブンが言う。
Noliは少しだけ笑う。
「知ってる」
「重症だぞ」
「もっと知ってる」
そして最後に。
いつもの調子で笑った。
「でもさ」
「なんだ」
「君も結局、僕のところに戻ってきた」
セブンは黙る。
Noliは満足そうだった。
まるで勝利宣言みたいに。
「ほらね」
その笑顔を見て。
セブンは再びため息を吐くしかなかった。
昔からそうだった。
Noliは世界中の誰より面倒で。
世界中の誰より厄介で。
そしてなぜか。
完全には切り捨てられない相棒だった。