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小学一年生の漢字が少しだけ読めるくらいの俺を、藤井家で唯一嫌わずにいてくれたやつが居た。長男の藤井涼架だった。俺の3つ年上で、普段はフラフラしてるのに、勉強や作法は、藤井家で育ったやつそのものだった。
「滉斗くんだよね、兄弟だし、滉斗でいい?」
なんでこいつは、突然やって来た出来損ないにそんなにニコニコと絡んでこれるのか。しかも突然呼び捨てだと?その時の俺がなんと返事をしたかは覚えてないが、いま考えると、くんを付けて呼ばれたのは、あれが最初で最後だ。
「これはねぇ、なんだっけ~あ!貴族の貴だよ」
礼儀作法や漢字に英語。どこだか分からない国の言葉まで。
専属の講師とやっても全く頭に入らないのに、涼架さんとやると、なぜかスッと入ってきた。
「おはようございます、お父様」
たかが10歳だ、なのに同じ空間に父親がいるだけで、20も30も越えた、大人のような振る舞いを見せる。俺はとりあえず頭を下げておいた。そうしたら失礼はないだろう。
「お父様、別荘で暮らさせていただけませんか?」
「そうか、涼架ももう20歳か」
そう俺の隣で父親と交渉をする、涼架さん。俺もここに来てもう10年か。涼兄ぃのお陰か、すっかり藤井家に馴染んだ俺。藤井家の次男として、涼架さんの仕事の補佐をしている。
「滉斗も共によろしいでしょうか。仕事の関係上、共に居ました方が都合がよろしいかと」
他の交渉項目は、さっさと決め、結構妥協したのに、俺も共に別荘で暮らすことに関してだけは、一切の妥協なしで、お父様を説得していた。
「……認めてやろう。しかし他人は一切敷地を踏ませるな」
「承知しました。ありがとうございます、お父様」
数分、いや数十分にわたる説得の末、来週から、俺は涼架さんとここから離れた別荘で暮らすことになった。当時の俺には、なぜ涼架さんが、ここまで俺を連れていきたかったのか分からなかった。
「滉斗~!やっと自由だよ~。といっても条件付きだけどね」
別荘に来て最初の夜、俺は涼架さんの部屋に呼ばれていた。ちょっとだけ本邸に居たときよりもラフな格好をした涼架さんが、グゥーっと伸びをして、こちらを向いた。
「ねぇ滉斗、そろそろ涼架さんってのやめてよ」
やめてよと言われても、一応涼架さんは年上だし、親しく呼んだら、誰になんと言われるか分からないから、ずっとさん付けで呼んでいたが。
「お父様もいないんだし、兄弟だからさ、ほら涼架お兄ちゃんとか良いじゃん、ねぇ」
お菓子がほしくて駄々をこねる子供にしか見えない。とにかく、涼架さんは、俺にお兄ちゃんと呼んでほしいんだな。ただ、俺の性格上、お兄ちゃんと呼ぶのは癪に障る。
……涼兄ぃ
「良いじゃん!涼兄ぃ!やったぁ滉斗にお兄ちゃんって言ってもらえた!」
妥協案として出てきたのが、涼兄ぃだった。目の前で万勉の笑みを浮かべる涼兄ぃは、駄々をこね通して、お菓子が買ってもらえたちびっこだ。
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