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コメント
1件
第103話、読み終わりました。竜馬がアリスに本音を打ち明けるシーン、すごく切なかったです。アリスも実は乗り気じゃなかったっていう告白は意外でしたが、お互いに誠実に向き合おうとする大人の関係って感じがして良かった。最後の「竜馬さんの…バカ…」の台詞がもう…胸が締め付けられます。雨の中、ジェニを助けに行く竜馬の背中がかっこよかったです。次が気になりますね!
【伊藤邸】
・.。. .。.:・
豪雨が降りしきる中・・・竜馬は天井まである伊藤邸の、羽目板式の窓ガラスに信じられない気持ちで寄り掛かたった・・・
今、宗一郎からうけた電話を青ざめて、頭の中で反芻している
―ジェニがどこかの浸水したビルで閉じ込められている?―
その時、ガチャリと大きなドアが開き、居間にアリスが入って来たせいで思考を絶たれた、アリスは見るからに高そうな紅茶のセットとパウンドケーキが乗ったトレーをカチャリとテーブルに置いた
竜馬は黄金に輝いている金のティースプーンをじっと見つめて思った・・・かってはこのケーキひとかけら買うのさえも苦労した事があった・・・そしてこの金のスプーンがまさしく上流階級生まれのアリスを象徴している
「この大雨の中、送っていただいてありがとうございます。アッサムのお紅茶は冷えた体を温めてくれますわ、叔母が先日スリランカに旅行に行ったお土産ですの」
竜馬はアリスが話している意味がわからなかった・・・渡されたカップに入っている熱い紅茶は、陶器越しに指を温めているが、心臓から凍りついているような気がしてならない・・・ジェニがピンチだ!こうしている場合ではない
「アリスさん・・・」
「どうされましたか・竜馬さんお顔の色がすぐれないようにお見受けしますけど・・・」
アリスがまじまじと竜馬を見つめ、それから天井まで届く、大きな窓のほうを見た、重そうなレースのカーテンの奥で窓ガラスに雨が叩きつけられている
「この悪天候の中・・・何かお仕事の都合でも出来ましたか?」
アリスがパウンドケーキを切り分け、竜馬に差し出しながら言う・・・ガタンッと竜馬は立ち上がり、アリスの目の前に来た
「申し訳ないっっ!」
竜馬は驚いているアリスに向かって深々と頭を下げた
「君のお爺様には・・・」
そう言ってため息をついた、唇が麻痺している気がした、アリスがポカンとした顔で竜馬を見つめる
「窮地に陥っていた松下家を救っていただいた恩義は生涯忘れることはありません・・・それ故に・・・僕はあなたを幸せにすることこそが、自分の務めだと思っていました・・・」
アリスが紅茶のカップを置き、口をすぼめると考え込むような顔で竜馬を見た
「しかし・・・僕は大切な事をあなたにお話ししなければいけません、本当にあなたには申し訳―」
「もうよろしいですわ、竜馬さん」
話を切られ、竜馬があっけに取られたような顔でアリスを見た
「元々・・・お爺様がお決めになられた婚約話です。本当はわたくしも、そんなにノリ気ではありませんの」
「え?・・・」
これには竜馬は驚いた、アリスがため息をつく
「だってあなたと来ましたら、堅物で、いつもしかめっ面で、わたくしとはちっとも会いませんもの、近いうちに、わたくしの方から、お爺様にお願いしてお断りしようと思っていましたの」
「そ・・・そうなのかい?」
初めて聞いたアリスの本音に竜馬は驚いて目を向いた、アリスが真っすぐ竜馬を見つめて言う
「あなたは・・・ジェニさんを愛しておられるのね?」
暫くの沈黙の後・・・二人は見つめ合った・・・そしてやがて竜馬がまっすぐアリスを見つめて言った
「心の底から」
アリスが少し笑ってため息をつき、忍耐強さを強調するように手を広げた
「よくわかりました!さぁ、この件に関しては婚約の解消の旨を、私の方からお爺様にお願いしておきますわ、わたくしも、もうこんなしかめっ面で、いつも私の傍にいらしてくれる殿方は、たくさんですわ」
アリスが竜馬に歩み寄った
「これであなたは自由の身です・・・ジェニさんの所へ行ってあげてください」
アリスの瞳にうっすらと涙が溜まったが、「さぁさぁ」といきなり思い立ったかのようにアリスに背中を押され、竜馬は戸口にそして渋々戸口に向かったが、彼はそこで一度立ち止まり・・・振り返った
「アリスさん」
「雨が強いですわ、どうかお気をつけて・・・」
窓辺で外を見ているアリスは振り返えらなかった・・・美しいというより可憐な女性だ、竜馬はアリスの背中に言った
「今までありがとう・・・さようなら」
竜馬は振り向かないアリスを残して、踵を返して出て行った
・.。. .。.:・
雨はまだ激しく降りしきり・・・竜馬は自分の三台目の愛車、白のレンジローバー4WDの、イグニッションキーのリモコンボタンを押した
するとハザードランプを二回灯し、その車は自分の居場所を示した。腰の高さほどタイヤの大きさがあるこの車は、こんな天気にこそ本領を発揮する
座席に滑り込んだ時は随分肩や背中が濡れていた、ぐずぐずしていてジェニに何かあったら、自分を責めても責めきれない
宗一郎に送ってもらったジェニの音声には切羽詰まるものがあった・・・こういう時の国家権力は当てにならない
竜馬はすぐにメビウスのセキュリティチームに連絡し、ジェニが閉じ込められているであろう、ビルの情報位置を共有した
ナビで出向く方法を検索していると、その地域一帯が浸水による通行止めがあちこちに出来ている、急がなければ、ジェニのいるビルに行けなくなる
「無事でいろよ!ジェニ!」
竜馬は車を発進させた
・.。. .。.:・
アリスは窓柱に片手を当てて佇み・・・落胆の思いで、竜馬の車が我が家の敷地から出て行くのを見つめていた・・・
彼女の頬には涙の筋が流れていた
―わたくしの失恋の悲しい心も・・・この雨と一緒に流してくださればいいのに・・・―
・.。. .。.:・
彼の妻になりたかった・・・温かい家庭を作りたかった・・・でも心に決めた女性がいる彼の気持ちを知りながら結婚などできない、そしてジェニさんは良い人だ
アリスはジェニの元へ向かう竜馬の車を目で追い・・・ポツリと呟いた
「竜馬さんの・・・バカ・・・」
・.。. .。.:・