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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第103話 〚教師が作ったものじゃない網〛
― 担任視点 ―
最近、
教室の空気が変わった。
騒がしくなったわけじゃない。
逆に、
落ち着いている。
――不自然なくらいに。
朝の出席確認。
澪は、
いつも通り席にいる。
表情も、
特別変わらない。
でも、
周囲の配置が
少しだけ違う。
偶然にしては、
整いすぎている。
休み時間。
澪が席を立つ。
その瞬間、
二、三人が
同じタイミングで動く。
近づかない。
声もかけない。
でも、
距離だけは
絶妙に保たれている。
(……誰かが指示した?)
そう思ったが、
違うとすぐ分かった。
指示された動きじゃない。
もっと、
自然だ。
廊下。
澪が通る。
少し先に、
見慣れない男子が二人。
後ろには、
海翔。
その横に、
湊。
全員、
視線の向きが違う。
同じ一点を
見ていない。
でも――
逃げ道だけは
塞がれていない。
(……これは)
私は、
息を整えた。
これは
教師が配置した
「管理」じゃない。
昼休み。
私は職員室の窓から、
校内を眺めていた。
澪が、
友達と話している。
その少し外側。
・立っているだけの生徒
・別の話題で笑っている生徒
・スマホを見ているふりの生徒
関係なさそうに見える。
でも、
全部、
“繋がっている”。
(網だ)
囲い込む檻じゃない。
守るための壁でもない。
逃げられる隙間を
ちゃんと残した
安全網。
私は、
ある生徒の顔を思い出す。
――海翔。
一人で
背負いすぎるタイプ。
でも、
最近は違う。
一人で立っていない。
周囲に、
自然と人がいる。
放課後。
澪が下校する。
見送る生徒。
少し離れて歩く生徒。
同じ方向に向かう生徒。
誰も、
「守っている」とは
言わない。
でも、
誰も
一人にしない。
私は、
職員室の椅子に
深く座り直した。
(これは……
止めるべきじゃない)
むしろ、
大人が壊してはいけない。
教師が前に出すぎれば、
この網は
すぐに崩れる。
必要なのは、
介入じゃない。
見守る判断。
生徒同士で
ここまで辿り着いた。
それは、
危うさでもあるが――
同時に、
信頼でもある。
私は、
名簿の澪の名前を
そっと見た。
彼女は今、
一人で立っていない。
それを作ったのは、
教師ではない。
生徒たち自身だ。
(……しばらくは)
(この網を、
壊さないようにしよう)
私は、
そう決めた。