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「アリクルリバーのハシか……あのカワはやっかいだな」
「どうしますか?」
リージョンシーカー本部の総長室で、おやつを食べながら報告を受けたピアーニャは、ロンデルからの報告を聞いて気だるそうにしている。
おやつはクッキーにコーヒーという、ピアーニャ曰く「大人のおやつ」。ただしコーヒーは砂糖とミルクがかなり多めである。
「どうしますかといわれてもな……これはシーカーたちのチョウサとダイクのしごとだろう?」
総長としてのピアーニャは、緊急の報告があるまでは基本的に事務仕事になる。部下となるシーカー達の管理をする為には、自ら動かない事も大事な仕事なのだ。
シーカー達の仕事を取る訳にはいかないと、いつも通り依頼と人員の管理を選ぶ。その顔はちょっと動きたそうにしているのを、ロンデルは知っていた。
しかしそれを気遣う訳ではなく、内心ニヤニヤしながら報告を続ける。
「……現在ラスィーテには、ピアーニャちゃんのお姉さんであるアリエッタさんがいらっしゃいます」
「ゴボフッ!?」
「どうやらパフィさんとクリムさんの里帰りについて行ったようで、場所はムーファンタウン。アリクルリバーを超えた先の小さな町だそうです」
「ごほっげほっ……」
色んな意味で驚いたピアーニャが、ぬるめのコーヒーを零してしまい、所々に黒いシミが出来てしまった。
「総長、どうしますか?」
淡々と零れたコーヒーを拭きながら、意地悪な事にもう一度同じ事を聞くロンデル。
ピアーニャは、部屋の隅に移動して頭を抱えていた。
「なんでアイツがトラブルにまきこまれているのだ! たすけにいったら、またコドモあつかいになるじゃないか!」
「では他の者に任せますか?」
「……そうもいかんだろう。しかしいきたくないなー」
ピアーニャにとって、アリエッタは出来るだけ避けたい相手である。同時に保護対象でもある為、仕事としては放ってはおけない。それに、子供を見捨てるという事が出来るほど、冷酷な性格でもなかった。
「わちがいかなくてもイイようなアイデアはないか?」
「信用出来る実力者を、パフィさん達の護衛とするのはどうでしょうか」
「ゴエイされるシーカーって、なんかイヤだな。わちならことわりたい」
「同感です」
しばらく2人で案を考えてみるが、ピアーニャが川を越える以上の案は出てこない。それは確実にアリエッタに捕まり、ひたすら可愛がられ、数日の仕事が溜まる事が約束される未来しか見えなかった。
と、そこへ………
「何かお困りのようね! ピアーニャ!」
勢いよく扉が開き、入ってきたのは、ミューゼ達の家を訪ねて、留守だった為おとなしく帰る羽目になった黒髪の女性だった。
威勢よく入って来た瞬間に、ピアーニャが心底嫌そうな顔になる。そして、
「ややこしくなるからかえれ!!」
叫びながら、『雲塊』を出し、黒髪の女性にけしかけて、強引に部屋の外どころか、建物の外まで放り出した。
「ちょっとおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「いったいなにしにきたんだ、アイツはっ」
「聞く前に追い出しましたが……」
絶叫を遠くに聞きながら毒づき、再びピアーニャは行くかどうかで悩み続けるのだった。
アリクルリバーから少し離れた平原で、ミューゼは水を飲んでいた。
「んぐっ…んぐっ……ふへぁ~……。あ゛~…だいぶ落ち着いた……」
川の酒気で酔ってしまった為、落ち着ける場所で休んでいるのだ。
一緒に酔ったアリエッタはというと、あっさり回復して、ミューゼの事を心配そうに見ている。
「みゅーぜ?」
「大丈夫よアリエッタ。もう動けそうだから」
(もしかしてお酒に弱いのかな? 僕も酔って変な事しちゃったから、ぱひーの顔を見づらいんだけど)
アリエッタは酔っている間の事を明確に覚えていた。少し寝た後に、パフィの顔を見て真っ赤になり、うっかりクリムに抱きついたりもしている。
「ところでパフィは?」
「橋の現場の様子を見に行ってるし。酒気が強すぎてさっきはゆっくり見れなかったし」
ミューゼの事をクリムに任せ、パフィは川へと向かっていた。
それなりに酒に強いと自負していたが、匂いが強い為、布を口元に当てて川に近づいている。
その目で見た現場の状況に、パフィは絶句していた。
「よぉ~ネエちゃん! 飲んでっかー!」
「ぐがぁ~~~っ! ぐがぁ~~~!」
「うわぁ……これは酷いのよ……」
「貴女も橋の再建に?」
酔っぱらいの大工が転がっているのを離れて眺めていると、横からシーカーの男性が話しかけてくる。
パフィは一応様子を見に来た事、これから山に向かってみる事を説明し、川の状況を大まかに聞き出した。
話によると、一旦大工達を運び出して、離れた場所で作戦会議をするとのこと。それを聞いたパフィは礼を言って、その場を離れた。
「うーん、川の濃度が上がってるのをどうにか出来ないと、結局酔う人が続出なのよ……」
パフィ達は合流し、橋現場の状況説明をした後に、すぐに山へと出発。
すっかり遅くなってしまった為に、開き直ってゆっくりと山へと向かい、ふもとで野宿する予定である。
そういう訳で、川から少し離れて山へと歩を進め、その中でアリエッタはパフィとクリムに両手を繋がれて、ちょっぴり恥ずかしそうに歩いている。
(もしかして旅行しながらピクニックにでも来たのかな? 嬉しいけど、まだパフィの顔を見づらいというか……)
「2人とも嬉しそうねー」
「当然だし。アリエッタ可愛いし」
「そうなのよ」
ミューゼも同意見なので、特に文句は出ない。
何もない所を2日かけてのんびりと進み、何事も無く昼頃に山のふもとへとたどり着いた。
「さて、少しだけ山の様子を見てみるのよ。今日のところは入口だけですぐ戻るのよ」
「おっけー」
4人は意気揚々と山へと足を踏み入れた。その途端、辺りの雰囲気ががらりと変化する。
「!? 暗いのよ!」
「え…なんで急に?」
驚愕する一同。
先程までは明るかった周囲の景色が、一瞬にして真っ暗になっている。
(あ、星空だ……今は昼じゃなかったっけ?)
アリエッタがなんとなく上を見上げると、満点の星空が見えている。手を繋いでいるクリムがその様子に気付き、上を見上げて絶句した。
「パフィ、ミューゼ、絶対おかしいし。今昼のハズなのに、夜になってるし」
「……本当ね。なんなのココは?」
「一旦戻るのよ! アリエッタとクリムの安全が最優先なのよ!」
パフィの指示に従って急いで戻ると、元の昼に戻った。
ミューゼが振り返って山を見るも、山の雰囲気は昼そのもの。先程までの体験が嘘のように思えていた。
あまりの事に、パフィもミューゼも気を落ち着けようと深呼吸。すると、横から人の気配が近づいてきた。
「声がしたと思ったら…お前さん達も調査か?……って、子供まで連れてきてどういう事だ?」
現れたのは、ガタイの良い男性。
「ああ、貴方も調査に来たシーカーなのよ? 私たちは後方支援と伝達係をしに来たのよ。これは一体どういう事なのよ?」
「そうか、そういう事ならありがたいぜ。厄介な山で困っていたところだからな。こっちに来てもらえるか?」
パフィは男の誘いに乗ってついて行くと、そこには10人程のシーカーが野営をしていた。
「ん? おいおい、子守りの追加とか簡便してくれよ?」
「支援と伝達だとさ。2日程行き詰ってるからな、応援を頼むのも悪くないと思うぞ」
「そうよねぇ。前に出ないっていうなら問題ないでしょ」
「それじゃ、早速お仕事するし。パフィちょっと手伝ってほしいし」
到着早々、クリムはパフィと共に全員分の食事を作り始める。ミューゼはその間、大まかに現状を聴いていた。
食事中も状況を把握する為に、ミューゼとパフィで積極的に話を聞いていく。
「山に入るといきなり夜になるんだ。山から出ると昼になるがな」
「ラスィーテでは夜になると悪魔が動き出すっていうからな。ここに悪魔がいるってのは、本当かもしれねぇ」
「アリクルリバーもここら辺からもう濃厚なのよぉ。結局山頂までいかなくちゃいけないわねぇ」
「ところでその可愛い子は何? ……え?言葉が分からない? ……そんな事が……ぐすっ」
「そーかそーか、その子も大変だったんだな。一緒にいるうちは俺達も守ってやるよ」
「おう、メシもうめぇしな! なるほど、店も持ってるのか。シーカーじゃないから迷惑とか思っちまったが、これは助かるぜ」
山の状況を聴いていた筈が、何故か徐々にアリエッタやクリムの話へとシフトしていく。シーカーは素行が悪いと報酬や仕事やピアーニャのオシオキに直結する為、荒っぽい者はいたりするが、誰彼構わず迷惑をかけるような者はいなかった。
「夜になるってなんなのよ?」
「そーいえば現地人のパフィでも知らないんだ?」
「普通の人は、悪魔がいるかもって噂の場所には行かないのよ。ちゃんと立ち入り禁止にもなってるのよ。シーカーになってからは、ラスィーテで仕事することが無かったから知らないのよ」
パフィの説明で一同は納得。クリムの事も、ここにいる間は給仕係として動き、何かあった時はシーカー達には守ってもらうという立場に落ち着いた。
そんな中、アリエッタは山の方を見て、ぼけーっと考え事をしている。
(不思議だなぁ。夜みたいに暗かった。明るくすれば進めるかな?)
何かを思いついたアリエッタは、ミューゼの袖をチョイチョイっと引っ張った。