TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
からふるシーカーズ

一覧ページ

「からふるシーカーズ」のメインビジュアル

からふるシーカーズ

38 - リエージュのカクテル「Day&Night・フロート」

2024年01月31日

シェアするシェアする
報告する

「アリクルリバーのハシか……あのカワはやっかいだな」

「どうしますか?」


リージョンシーカー本部の総長室で、おやつを食べながら報告を受けたピアーニャは、ロンデルからの報告を聞いて気だるそうにしている。

おやつはクッキーにコーヒーという、ピアーニャ曰く「大人のおやつ」。ただしコーヒーは砂糖とミルクがかなり多めである。


「どうしますかといわれてもな……これはシーカーたちのチョウサとダイクのしごとだろう?」


総長としてのピアーニャは、緊急の報告があるまでは基本的に事務仕事になる。部下となるシーカー達の管理をする為には、自ら動かない事も大事な仕事なのだ。

シーカー達の仕事を取る訳にはいかないと、いつも通り依頼と人員の管理を選ぶ。その顔はちょっと動きたそうにしているのを、ロンデルは知っていた。

しかしそれを気遣う訳ではなく、内心ニヤニヤしながら報告を続ける。


「……現在ラスィーテには、ピアーニャちゃんのお姉さんであるアリエッタさんがいらっしゃいます」

「ゴボフッ!?」

「どうやらパフィさんとクリムさんの里帰りについて行ったようで、場所はムーファンタウン。アリクルリバーを超えた先の小さな町だそうです」

「ごほっげほっ……」


色んな意味で驚いたピアーニャが、ぬるめのコーヒーを零してしまい、所々に黒いシミが出来てしまった。


「総長、どうしますか?」


淡々と零れたコーヒーを拭きながら、意地悪な事にもう一度同じ事を聞くロンデル。

ピアーニャは、部屋の隅に移動して頭を抱えていた。


「なんでアイツがトラブルにまきこまれているのだ! たすけにいったら、またコドモあつかいになるじゃないか!」

「では他の者に任せますか?」

「……そうもいかんだろう。しかしいきたくないなー」


ピアーニャにとって、アリエッタは出来るだけ避けたい相手である。同時に保護対象でもある為、仕事としては放ってはおけない。それに、子供を見捨てるという事が出来るほど、冷酷な性格でもなかった。


「わちがいかなくてもイイようなアイデアはないか?」

「信用出来る実力者を、パフィさん達の護衛とするのはどうでしょうか」

「ゴエイされるシーカーって、なんかイヤだな。わちならことわりたい」

「同感です」


しばらく2人で案を考えてみるが、ピアーニャが川を越える以上の案は出てこない。それは確実にアリエッタに捕まり、ひたすら可愛がられ、数日の仕事が溜まる事が約束される未来しか見えなかった。

と、そこへ………


「何かお困りのようね! ピアーニャ!」


勢いよく扉が開き、入ってきたのは、ミューゼ達の家を訪ねて、留守だった為おとなしく帰る羽目になった黒髪の女性だった。

威勢よく入って来た瞬間に、ピアーニャが心底嫌そうな顔になる。そして、


「ややこしくなるからかえれ!!」


叫びながら、『雲塊シルキークレイ』を出し、黒髪の女性にけしかけて、強引に部屋の外どころか、建物の外まで放り出した。


「ちょっとおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「いったいなにしにきたんだ、アイツはっ」

「聞く前に追い出しましたが……」


絶叫を遠くに聞きながら毒づき、再びピアーニャは行くかどうかで悩み続けるのだった。




アリクルリバーから少し離れた平原で、ミューゼは水を飲んでいた。


「んぐっ…んぐっ……ふへぁ~……。あ゛~…だいぶ落ち着いた……」


川の酒気で酔ってしまった為、落ち着ける場所で休んでいるのだ。

一緒に酔ったアリエッタはというと、あっさり回復して、ミューゼの事を心配そうに見ている。


「みゅーぜ?」

「大丈夫よアリエッタ。もう動けそうだから」

(もしかしてお酒に弱いのかな? 僕も酔って変な事しちゃったから、ぱひーの顔を見づらいんだけど)


アリエッタは酔っている間の事を明確に覚えていた。少し寝た後に、パフィの顔を見て真っ赤になり、うっかりクリムに抱きついたりもしている。


「ところでパフィは?」

「橋の現場の様子を見に行ってるし。酒気が強すぎてさっきはゆっくり見れなかったし」


ミューゼの事をクリムに任せ、パフィは川へと向かっていた。

それなりに酒に強いと自負していたが、匂いが強い為、布を口元に当てて川に近づいている。

その目で見た現場の状況に、パフィは絶句していた。


「よぉ~ネエちゃん! 飲んでっかー!」

「ぐがぁ~~~っ! ぐがぁ~~~!」


「うわぁ……これは酷いのよ……」

「貴女も橋の再建に?」


酔っぱらいの大工が転がっているのを離れて眺めていると、横からシーカーの男性が話しかけてくる。

パフィは一応様子を見に来た事、これから山に向かってみる事を説明し、川の状況を大まかに聞き出した。

話によると、一旦大工達を運び出して、離れた場所で作戦会議をするとのこと。それを聞いたパフィは礼を言って、その場を離れた。


「うーん、川の濃度が上がってるのをどうにか出来ないと、結局酔う人が続出なのよ……」




パフィ達は合流し、橋現場の状況説明をした後に、すぐに山へと出発。

すっかり遅くなってしまった為に、開き直ってゆっくりと山へと向かい、ふもとで野宿する予定である。

そういう訳で、川から少し離れて山へと歩を進め、その中でアリエッタはパフィとクリムに両手を繋がれて、ちょっぴり恥ずかしそうに歩いている。


(もしかして旅行しながらピクニックにでも来たのかな? 嬉しいけど、まだパフィの顔を見づらいというか……)

「2人とも嬉しそうねー」

「当然だし。アリエッタ可愛いし」

「そうなのよ」


ミューゼも同意見なので、特に文句は出ない。

何もない所を2日かけてのんびりと進み、何事も無く昼頃に山のふもとへとたどり着いた。


「さて、少しだけ山の様子を見てみるのよ。今日のところは入口だけですぐ戻るのよ」

「おっけー」


4人は意気揚々と山へと足を踏み入れた。その途端、辺りの雰囲気ががらりと変化する。


「!? 暗いのよ!」

「え…なんで急に?」


驚愕する一同。

先程までは明るかった周囲の景色が、一瞬にして真っ暗になっている。


(あ、星空だ……今は昼じゃなかったっけ?)


アリエッタがなんとなく上を見上げると、満点の星空が見えている。手を繋いでいるクリムがその様子に気付き、上を見上げて絶句した。


「パフィ、ミューゼ、絶対おかしいし。今昼のハズなのに、夜になってるし」

「……本当ね。なんなのココは?」

「一旦戻るのよ! アリエッタとクリムの安全が最優先なのよ!」


パフィの指示に従って急いで戻ると、元の昼に戻った。

ミューゼが振り返って山を見るも、山の雰囲気は昼そのもの。先程までの体験が嘘のように思えていた。

あまりの事に、パフィもミューゼも気を落ち着けようと深呼吸。すると、横から人の気配が近づいてきた。


「声がしたと思ったら…お前さん達も調査か?……って、子供まで連れてきてどういう事だ?」


現れたのは、ガタイの良い男性。


「ああ、貴方も調査に来たシーカーなのよ? 私たちは後方支援と伝達係をしに来たのよ。これは一体どういう事なのよ?」

「そうか、そういう事ならありがたいぜ。厄介な山で困っていたところだからな。こっちに来てもらえるか?」


パフィは男の誘いに乗ってついて行くと、そこには10人程のシーカーが野営をしていた。


「ん? おいおい、子守りの追加とか簡便してくれよ?」

「支援と伝達だとさ。2日程行き詰ってるからな、応援を頼むのも悪くないと思うぞ」

「そうよねぇ。前に出ないっていうなら問題ないでしょ」

「それじゃ、早速お仕事するし。パフィちょっと手伝ってほしいし」


到着早々、クリムはパフィと共に全員分の食事を作り始める。ミューゼはその間、大まかに現状を聴いていた。

食事中も状況を把握する為に、ミューゼとパフィで積極的に話を聞いていく。


「山に入るといきなり夜になるんだ。山から出ると昼になるがな」

「ラスィーテでは夜になると悪魔が動き出すっていうからな。ここに悪魔がいるってのは、本当かもしれねぇ」

「アリクルリバーもここら辺からもう濃厚なのよぉ。結局山頂までいかなくちゃいけないわねぇ」

「ところでその可愛い子は何? ……え?言葉が分からない? ……そんな事が……ぐすっ」

「そーかそーか、その子も大変だったんだな。一緒にいるうちは俺達も守ってやるよ」

「おう、メシもうめぇしな! なるほど、店も持ってるのか。シーカーじゃないから迷惑とか思っちまったが、これは助かるぜ」


山の状況を聴いていた筈が、何故か徐々にアリエッタやクリムの話へとシフトしていく。シーカーは素行が悪いと報酬や仕事やピアーニャのオシオキに直結する為、荒っぽい者はいたりするが、誰彼構わず迷惑をかけるような者はいなかった。


「夜になるってなんなのよ?」

「そーいえば現地人のパフィでも知らないんだ?」

「普通の人は、悪魔がいるかもって噂の場所には行かないのよ。ちゃんと立ち入り禁止にもなってるのよ。シーカーになってからは、ラスィーテじもとで仕事することが無かったから知らないのよ」


パフィの説明で一同は納得。クリムの事も、ここにいる間は給仕係として動き、何かあった時はシーカー達には守ってもらうという立場に落ち着いた。

そんな中、アリエッタは山の方を見て、ぼけーっと考え事をしている。


(不思議だなぁ。夜みたいに暗かった。明るくすれば進めるかな?)


何かを思いついたアリエッタは、ミューゼの袖をチョイチョイっと引っ張った。

からふるシーカーズ

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚