深夜の学校。玄関前。
死にかけのヘンタイメガネと取り残され、アタシはパニくった。
「ど、どうしたら……」
放っておくわけにはいかない。
それはさすがにマズイ。人として。
ノゾキで捕まるのもイタいが、死体遺棄(いや、まだ死体にはなってないんだが)は、ガチモンの犯罪だ。
アタシが巻き込まれただけの被害者なのは確実だが、その言い訳が果たして法廷で通用するものか……。
いや、待って?
ノゾキで捕まるより、死体遺棄のほうがダメージ少なくないか?
なんていうか、精神的なダメージってやつが。
「グゥーッ、グゥーッ」
「はっ!」
ひときわ大きなイビキ。
アタシは我に返った。
ダメだ。ノゾキでも死体遺棄でも、どっちに転んでもアタシの未来は「法廷の被告人」だ。
ならば、この場で幾ヶ瀬の死体を何とかするまでだ。
何故なら、死体が誰にも見つからなかったら、少なくとも「死体遺棄」事件は成立しない。
「フッ、この学校の怪談が『八不思議』になってしまうな」
なんてニヒルに呟きながら、メガネの肩を抱えたときだ。
「ハックショーーーン!」
大きなクシャミとともに、幾ヶ瀬が起き上がったのだ。
「ヒィィ……」
ビ、ビックリした……。
腰から、そして全身から力が抜ける。
ヘンタイメガネと入れ替わるように、アタシの身体はコンクリ地面に倒れ込んだ。
キョロキョロしながら幾ヶ瀬のヤツ、アタシを見下ろす。
「あれ、有夏は?」
「し、深夜アニメを……」
いまわの際の言葉だが、メガネは「ああ、そっか」と気楽に頷いただけだった。
次いで「ありかぁぁーー」と叫びながら校門の方へ走り出す。
「ありかぁぁ、そのアニメは俺が録画しといたよぉぉ」
薄れゆく意識の中、アタシは隣りの薄情な2人の後姿を見送る。
まぶたがピクピクと痙攣し、視界が徐々に狭くなるのが分かった。
喉の奥で「グーッ」と地響きのような音が鳴り響く。
えっ、アタシ死ぬの?
アタシの、いまわの際の言葉「し、深夜アニメを」かよ。
勘弁してくれよ。
目の前が暗くなる。
ああ、神様……生まれ変わったら推しカプの家の壁に、そして天井になりたいです。
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