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──あたたかい。
まぶたに、頬に、額に、やわらかな熱が降り注ぐ。
「……天国?」
呟いた瞬間、すさまじい力で肩をつかまれて振り起こされた。
「ヤだわ! この子、こんな所で寝て!」
状況を理解するより先に視界に飛び込んできたのは、真っ赤な服を着た小太りのオバチャンだった。
ものすごい量の荷物を抱えながら、アタシの肩を揺すっている。
「痛ッ、痛ッ痛ッ!」
カバンの角が当たるたびにアタシは悲鳴をあげた。
この痛み──間違いない。現世だ。
このオバチャンも天使なんかじゃない。
太陽の光の下、不気味さは完全に消えているが、ここは夕べ侵入した学校にほかならない。
少し落ち着きを取り戻して見回せば、玄関前のコンクリートの上で寝転んでいると分かる。
つまり、ブッ倒れた位置から1ミリたりとも移動させられることなく転がされていたってことだ。
キョロキョロと周囲を見渡すが、隣りの2人の姿なんて見つかるはずもない。
信じらんねぇ! ヤツら、あの状態で倒れたアタシを放ったらかして家に帰りやがったのか。
アクの強いオバチャンは、アタシを酔っ払いか何かだと勘違いしたのだろう。
「困るのよ? カルチャースクールの朝活書道に来てみれば、アナタこんな所で寝転がって。イヤだわ、酔っぱらって学校に入り込んだのね」
「いや、ちが……」
オバチャン、アタシの話なんて聞いちゃくれない。
ワラワラと集まってくる朝活書道のオバチャンたちがアタシを取り囲む。
「イヤねぇ」
「ほんと、世も末ねぇ」
「この町も物騒になったわ」
なんて言いながら、ゾロゾロと校舎の中に入っていってしまった。
呆然と見送るアタシ。
「ハッ……ハックショーーーン!」
大きなクシャミをしながら、トボトボとアパートに帰ったアタシは、その後3日間カゼで寝込むことになる。
家には大量の「たけのこの里」しかなく、それを食ってカゼをやり過ごした。
元気になってから、念のため「怨念チャンネル」を検索してみたけど、それらしいのはなかった。
幾ヶ瀬よ、せめてアップしろよ。
あんなに苦労して取材したじゃないか…。
せめてものお詫び(?)として、イチャついてほしい隣りの部屋なんだが、深夜アニメに興奮した有夏チャンが主題歌を熱唱する大声が聞こえてくるだけだ。
次回こそはきっと……。
幾ヶ瀬Present’s愛と笑いの怨念チャンネル【完】
「『閲覧履歴に基づくおすすめ商品』は人物の内面を完全に晒す」につづく
※ずいぶん長くなっちゃったけど、読んでくださってありがとうございました。
次のお話は、週末からスタートします。
よかったらみてね。