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アルフレッドside
菊との出会いは、ただのヒーローごっこの一環に過ぎなかった。
中学生の頃、ずっと学校に来ない子がいた。俺はその子にプリントを届けるついでにヒーローごっこの演出で助けようとしたのだ。
お城に囚われているお姫様を魔王を倒してヒーローが助けに行く。長年憧れたシーンだった。
チャイムを何回も鳴らす。すると家の中から「うるせぇあるよ!何回も鳴らすなある!」と、魔王の声が聞こえた。鍵を開け、ドアをが開いたらストーリーの始まりだ。その魔王に蹴りを一発入れ、階段まで駆け上がり、それっぽい部屋のドアを勢いよく開けた。
だが、そこに居たのはお姫様ではなく、女の子でもなく、暗い部屋で布団を深く被った黒髪の男の子だった。そいつは俺より小柄な体型で、こっちを見るなりビクビクと怯えていた。
「もう大丈夫!ヒーローが助けに来たんだぞ!」なんて憧れのセリフを言ったら、もっと怯えられたのを覚えている。
「だ、誰ですか…?」
怯えてる中振り絞ったのからだろう。声を震えながら彼は俺に問いかけた。
「俺はアルフレッド!君のヒーローなんだぞ」
「は、はぁ、」
「ところで、君の名前は何て言うんだい?」
「菊……、本田菊……。」
「キク!もしかして花の名前かい?」
「う、うん。」
「綺麗な名前だね!お姫様にぴったりなんだぞ!」
そう。君は俺のお姫様。一目惚れだったんだ。こんな小さい頃から君に恋心を抱いていた。だからこの時の俺は、自分が菊の一番最初の友達だと確信していた。俺だけの菊。
こんな歳で俺に独占欲という欲を生み出した菊は本当に罪な男だと思う。
「あの……私男で…」
「あいやー!お前我の菊に何してるあるかぁ!!」
そんな会話をしている内に、倒したはずの魔王が復活してきた。小さい頃だったし、不法侵入した罪悪感も無かったので何とも思わなかったが、今考えると少しやりすぎたかな。なんて反省している。
ヒーローはお姫様を助けるのが定番中の定番だ。それからと言うもの、菊が学校に行けるようになるため、少しずつ外に出る手伝いをした。
ある時は家で学校で楽しかったことを教えたり、
ある時は外に出て軽いスポーツをしてみたり、
ある時は家で菊とずっとゲームを楽しんだ日もあった。
初めは嫌な顔をして俺を追い出そうとしていた魔王(耀)も、なんだかんだ菊に友達ができた事が嬉しく思ったのだろう。行くたびに態度が柔らかくなって、今では「よく来たあるな」なんて歓迎される程度にまで気に入られた。
そんな彼に、高校生になった今でも片思いし続けている。
だが、逆に仲良くなり過ぎたのがいけなかったのた。彼は俺のことを友達でしか思っていなかった。友達以上、恋人未満と言うのだろうか。どんなにアピールしたって友達のノリだと流された。
だから、今日は菊に俺のことを意識してもらえるようにする日だ。
イメトレはばっちり。
今日こそ菊を意識させてやるんだぞ!
本田side
私は中学まで引きこもりだった。
理由は至ってシンプル。地味で目立たなかった自分は暇つぶしにいじめられたからだ。
それからというもの、毎回部屋でゲームして食べて寝ての繰り返しの生活を送っていた。
耀さんに迷惑をかけてたのも分かっていたし、学校に行きたくないって言うときは心臓の音しか耳に入らなかったほど緊張した。
だけど耀さんは私を優しく受け止めてくれた。抱きしめてくれた。今思えば、その優しさに甘えてしまっていたのかもしれない。
ある日、家のチャイムがやたらと鳴らされているのに気付いた。変な人じゃないかと怖かった。そしたら耀さんがしびれを切らして「うるせぇあるよ!何回も鳴らすなある!」なんて怒鳴る。何か問題に鳴るんじゃないかと気にしていたら、バコンッという鋭い音と共に、誰かが凄いスピードで階段を駆け上がってくる音が聞こえた。
もしかしたら不審者かもしれない、足音が私の恐怖心を煽った。布団にくるまり、震えていたら、部屋のドアが勢いよく開いた。
だが、そこに居たのは金髪のメガネをかけた私と同じぐらいの歳の子供だった。
いきなりのことだった。怖くてどうすればいいか分からなくて、布団に包まりながら彼を見ていたら、急に「もう大丈夫!ヒーローが助けに来たんだぞ!」なんて意味の分からない事を言い出すから、もっと怯えたのを覚えている。
でも、そのキラキラ輝いた目から悪い人ではないと思い、私は怯えながら声を振り絞った。
「だ、誰ですか…?」
彼は少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐ笑顔に戻り、私の問いに答えてくれた。
「俺はアルフレッド!君のヒーローなんだぞ」
「は、はぁ、」
やっぱり意味の分からなかった。私は子供をあやすように何も言わず、彼の言葉を受け止めた。
「ところで、君の名前は何て言うんだい?」
「菊……、本田菊……。」
「キク!もしかして花の名前かい?」
「う、うん。」
「綺麗な名前だね!お姫様にぴったりなんだぞ!」
「あの……私男で…」
私が言いかけた時、階段を駆け上がる音がまた家中に響いた。
「あいやー!お前我の菊に何してるあるかぁ!!」
最初は意味が分からない言動ばかりだったが、あれから彼は耀さんを押しのけては私のところへ来ては、私の遊び相手になってくれた。
彼の話は一方的だったから、私にしてみれば居心地は良かった。私は基本的に受け身な性格だから。
彼は私に外のことも沢山話してくれた。
席替えが当たりだったこととか、
給食が美味しかったこととか、
兄の愚痴なんかも聞いたりした。
そんな些細な会話が私にとっては救いだった。楽しかった。友達が出来たみたいだったから。
それを察してくれたのか、はたまた私と同じ気持ちだったからなのか、耀さんもアルフレッドさんを追い出すことは無くなった。本当に耀さんには頭が上がらない。
だから、強引にでも私に外の世界へ連れ出してくれたアルフレッドさんに感謝している。私の甘えを吹っ飛ばしてくれたから。
高校まで関係が続いてるのは奇跡だろう。会う機会は減ってしまったものの、彼は変わらない笑顔で私と接してくれる。大切な友達なんです。