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そんな苦々しい思い出の、見渡しの良い広大なオフィスを目にしたケイは、喉奥が詰まる感覚に襲われた。
磨りガラスのパーテーションと、白いブラインド。
観葉植物を仕入れたのも自分だった。
後輩のゆみと麻耶と一緒に、カタログを見ながら騒いだ記憶がチラつく。
そのふたりも、副業はしていたはずなのに未だに在籍しているのだろう。
ケイは悔しくて、 その場から動けなくなった。
惨めだった。
安座間が近付いて、ケイの涙をそっと拭った。
ケイは思いっ切り泣いた。
生まれて初めて男の前で泣いた。
安座間の腕が、優しく包み込んでくれた。
耳元で聞こえる安座間の声と息遣い。
頭を撫でられるのが、こんなに心地良いものかと50代で知った。
それだけ、我慢しながら生きて来た。
安座間の声が聞こえる。
「ケイさん。過去をぶち壊してやろうよ」
ケイの背後に安座間が立つと、 自動小銃をオフィスへ向けた。
ケイの腕が、背後から伸びる安座間の腕へと重なる。
引き金を引く。
火薬の匂いと共に、ケイの身体は後退した。
それを、受け止める安座間の腕は逞しく、男くさくて色気もあった。
銃弾で、粉々に弾け飛ぶデスクやパソコン。
観葉植物も、パーテーションも砕け散った。
ブラインドが、吹き飛ばされた窓ガラスと共に夜空へと舞い上がる。
風が吹き込む。
ケイの思い出全てが消えていった。