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月とオーロラ、そして星明かりに照らされた渋谷アカリエの屋上庭園。床一面を覆う芝生と、花を咲かせたサツキの木々が風にそよいでいる。
自然の灯火の美しさを、ケイは都会で体験できるとは夢にも思っていなかった。
ベンチに腰掛けて胸に手をあてる。
高鳴る鼓動が治らない。
初めて銃を撃った体験が、身体中の血液の流れを速めている。
隣の安座間が、缶ビールを自慢げに差し出してくれた。
足元の自動小銃に安座間のつま先が当たる度に、カチャカチャとおもちゃみたいな音が鳴る。
ケイはビールを飲み干した。
ゴクリと音がした。
安座間は横目で、上下するケイの喉を眺めながら、
「ケイさんって綺麗な人ですよね。肌も綺麗だし…」
ケイが恥ずかしそうに笑うと、 その首筋に安座間の冷たい指先が触れた。
ケイは短い声を漏らした。
安座間は、ケイの処罰法を考えていた。
細い首を一気に締め上げてしまおうかと躊躇していると、ケイの声が聞こえて我に返った。
「ちょっと、酔ったの? こんなおばさん相手にダメよ」
ケイはそう言ったものの、本心は嬉しかった。
しかし、キスをするのは怖かった。
好意はあっても、現実として受け入れられてしまうのが恐ろしかったのだ。
安座間の声が聞こえる。
「ケイさん、ちょっとこっち来て」
強引に腕を引っ張られて連れて行かれた先は、屋上フェンス扉を越えたパラペットで、安座間はそこにちょこんと腰掛けて足をブラブラさせながら笑った。
「危ないよ、怖いよ」
ケイは、フェンスに背中をつけたままで安座間に言った。
「ええ~、気持ちいいよ。なんか爽快だし」
「ヤダ、行こうよ…危ないから」
「そおかな?」
安座間は立ち上がって、フェンスに寄り掛かかるケイの顔を見つめた。
ケイは恥ずかしそうに顔を伏せた。
その顎先を、安座間の手が持ち上げる。
上空の死のオーロラが瞬く。
重なり合う2人の唇。
ケイの背中に延びる安座間の腕。
互いの身体が入れ代わる。
安座間の両腕がケイの両肩を掴む。
絡み合う舌と吐息。
目を開けたケイの瞳に、安座間の屍人のような黒目が映る。
トツンと押された、ケイの両肩。
身体が空中に舞う。
61階から落下する中で、安座間の顔がはっきりと見えた。
・・・どうして?・・・