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俺と先輩は、美輝ちゃんを見たという人全員に、話を聞いて回った。美輝ちゃんの見た目を言って、情報を集めたのだ。
美輝ちゃんを最後に見たという人たちは、美輝ちゃんと赤茶色の髪に二つ結びの、赤い目をした小さな女の子と一緒に居たと言っている。
「ここの町、全然防犯カメラとかねぇからなぁ……」
先輩は面倒くさそうに目を細めて、町の人の情報が書いてあるメモを見つめた。
「あ、そうだ」
先輩はそう言って紙から目を離し、俺の方を向き、体勢を整えた。
「春香の力、借りるか」
「…………っは?」
俺は先輩に、俺と春香さんが住んでいる家まで案内した。正直、先輩の意見には反対だった。
春香さんを巻き込んでしまうし、先輩を春香さんに会わせたくなかった。先輩は春香さんの元カレだ。でも、先輩は春香さんに暴力を振るっていたから。
でも、先輩には町の平和のためだと、町が平和になると、春香さんが安全になると言われ、仕方がなく案内することにした。本当に仕方がなく、仕方がなくだ。
そして今、俺と先輩で、春香さんに協力をお願いしている。
でも、春香さんは先輩の方をキョロキョロと見て、随分と警戒しているようだった。
「……お前、めっちゃ警戒してるな」
先輩は春香さんの視線に気が付き、呆れたようにため息をついた。また怒られると思ったのか、春香さんはビクッと肩を揺らした。
「まぁ、そんなのはいいとして…今話した見た目の小さい女の子を見つけたら、俺らに話してくれ。行動するのは危険だからな多分」
美輝ちゃんと一緒に居ると思われる女の子の特徴を言って、協力して欲しいことを言い終わると先輩は、じゃ、とだけ言って家から出て行った。
「…こっ、怖かっ……たああああああー…!?」
春香さんは大きな声でそう言うと、へなへなと女の子座りで腰を抜かした。
「ちょっ、大丈夫ですか…?」
「あははは………。…もう怪我させられることも、何もないのにね…」
黒く綺麗な長い髪を触りながら、そう言って苦笑いしている。笑顔で言っているけれど、トラウマになって、辛い出来事を思い出してしまって怖いんだろう。
俺はそんな春香さんを抱きしめて言った。
「大丈夫です。大丈夫ですから…。春香さんは絶対に、俺が守りますから………」
俺はそう言って腕を離すと、春香さんは豆鉄砲を食らったような顔をしていた。俺がそんな春香さんを真剣に見つめていると、急に春香さんがくすくすと笑い始めた。
「あははっ!青也くんは頼もしいなあ……うん…。青也くんのこと、信じてる。でも!私も私に出来る限りの協力はするから!遠慮せずに、じゃんじゃん言っちゃって!」
そうやってさっきと違い、明るく言う春香さんに、自然と笑みがこぼれる。ああ、幸せだと、改めてそう感じる。
春香さんが大好きだ。一目惚れだった。そんな大好きな春香さんを守るために、赤い目の女の子を見つけるんだ。
悠真に美香、玖字が消えたこと、何かの手がかりになるかもしれないし、何より、その子が色んな人を殺した、殺人犯なのかもしれないのだから。
私はお姉さんを殺した後、お姉さんのスマホを持って美輝ちゃんのいる部屋まで行った。お姉さんの部屋はちゃんと鍵をして出て行った。泥棒が入って血だらけのキッチンを見られたら大変だ。
私は忙しさがなくなり、美輝ちゃんと沢山話せるようになった。些細な世間話というか、話せていなかった分の日常を話してくれたり、あとは、美輝ちゃんの苗字などだ。元々、美輝ちゃんの親がいた家の机に置いてあった紙に、美月奈々、美月尊、と書いてあった。ななとたけるだ。
それを美輝ちゃんに伝えると、美輝ちゃんはぱあっと笑顔を見せて言った。
「みづき!わたしの名前、かっこいい!」
凄く綺麗な青い瞳を輝かせて言った。
ああ、そうだ。私は元々、美輝ちゃんの瞳を守りたいと思っていたんだ。
その綺麗な瞳が濁ったら、美輝ちゃんが嫌な気持ちになっていると、辛さで私を見てくれないかもしれないから。
美輝ちゃんは、人生で初めて、私をはっきりと見てくれた人だ。それで好きになったんだ。
だから私は、警察なんかに負けない。美輝ちゃんは誰にも渡さないし、渡したくない。
私だけが美輝ちゃんと居ればいい。私だけが、美輝ちゃんを愛せばいい。私だけで充分、美輝ちゃんを幸せにできる。
だって、私は美輝ちゃんを愛しているから。
私と美輝ちゃんの将来のためにも、これは譲れない。
例え怪しまれようとも、美輝ちゃんとずっといるんだ。誰にも渡さないんだ。
「きふちちゃん?どうしたの?」
私が神妙な顔で考えていると、美輝ちゃんが私の顔を覗いて心配してくれる。
「ううん。改めて、美輝ちゃんのこと大好きだなあって思って」
私がそう愛を伝えると、美輝ちゃんは嬉しそうに、綺麗な白い紙を揺らした。
すると、急にお姉さんのスマホから電話が来た。画面を見ると、佐藤旭陽、という名前が映っていた。この名前はお姉さんのお父さんだろう。お姉さんから前に聞いた。旭陽は、あきはる、と読むらしい。
「美輝ちゃん、ちょっとごめんね」
私がそう言うと、美輝ちゃんは寂しそうな顔をした。だから、私は美輝ちゃんの頭を優しく撫で、元々お姉さんの居た今は何もない空き部屋に入って、電話に出た。
「もしもし、すみれ」
この電話越しでも伝わる、低くても爽やかな声はお姉さんのお父さんの声だ。
「お姉さんのお父さんですか?」
私がそう言うと、お姉さんのお父さんはもしかして、と言って私に質問した。
「奇縁ちゃんか?すみれと住んでいる…すみれはどうした?」
そう言って疑問を抱く旭陽さんに、私は少し悩んだ嘘を言った。
「…お姉さん、海外に行ったみたいです。一年間は居るって言ってました!なのでスマホだけ預けると…」
私が子供とは思えないほどすらすら話すと、疑った様子もないように旭陽さんは、そうか、とだけ言って話した。
「いやな、電話は来週にしようと思ったんだが、思ったよりも感心してしまってな。すみれの仕事について母さんとも話をしたんだ。それで改めて考えて凄い仕事だなと……すみれがあんなに本気の目で話したのも初めてだからな。
それで…怒ったことを謝りたいんだ。まあ、帰ってきた時に奇縁ちゃんがすみれに伝えてくれ。ああ、電気代やスマホ代とか、生活費はこちらで出しているから、問題ないよ」
子供に話しかけるように旭陽さんは言った。まあ実際、私は子供だけど。
もう、お姉さんに会えることもないのに。後悔しないように、早く伝えとけばよかったのに。お姉さんの瞳の本気さを、今気づくなんて。愚かにも程がある。
人は永遠じゃないのに。
お姉さんは私が特別に特別にしてあげた。特別は特別なんだ。誰もが特別になれるわけがない。もし有名になってきた漫画家が消えたとなれば、みんな自殺だと思うだろう。寿命で死ぬよりも話題になるに違いない。ほら、これは特別なんだ。
私は美輝ちゃんのいるリビングに戻り、美輝ちゃんに笑顔で言った。
「今日の夜ご飯、サンドイッチだよ」