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#ロマンスファンタジー
花月夜れん
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#王道
涙乃
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#ご本人様には関係ありません
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<<クーン城・貴賓室>>
窓から差し込む陽光が床に美しい木漏れ日の模様を描き出す、晴れ晴れとした午後だった。あまりの天気の良さに、アデール女王がふと目を細めて呟く。
「こんなに良いお天気ですもの、室内にこもっているのは勿体ないですわね」
その一言で、一同は開放的なテラス席へと案内されることになった。女王の一声を聞くや否や、控えていた侍女たちがテキパキと無駄のない動きで準備を始める。白いテーブルを挟んで向かい合う頃には、何とも言えない芳醇で極上の茶葉の香りが、柔らかなそよ風に乗って鼻腔をくすぐった。
「ご馳走になります」
まだ緊張が抜けきっていなかったルワンダは、特に何も期待せずに一口お茶を啜り、そのあまりの味わいに目を見張った。
(何よこれ……信じられないくらいの超高級品じゃない。この甘み、癖になりそう……)
極上の旨味と、凝縮されたような優しい甘味がじんわりと舌の上いっぱいに広がっていく。豊かで深い味わいが口内を満たし、喉を過ぎる頃には、先ほどまで彼女の心を支配していた強張りが嘘のように霧散していた。
「ルドルフ准将も差別が無く、中々立派な人ね」
至高の一杯のおかげで、ようやくホッと人心地ついたルワンダを見て、アデールは話題をこれからの生活のことよりも、まずは互いの身内の「人となり」へと移していった。
「ありがとうございます。……主人は、バカ真面目なだけですけれど」
ルワンダははにかみながらも、夫への信頼を口にする。その様子を見ながら、アーレイは心の中で(言わずとして分かってるみたいだな。後は任せよう)と、アデールの手腕にすべてを委ねることにした。
アーレイ自身はあえて口にしていないが、アデールは今回の件が、優秀な軍人であるルドルフをこちら側へ引き入れるための前段階であることをちゃんと察している。それを理解した上で、アデールは楽しげに目を細めた。
「アーレイ少佐とは、良いコンビが組めそうですわよ?」
「何となく分かります。真面目と不真面目の、丁度いいバランスになりそうですね」「おい、フローレンス。絞めるぞ」
我が身を振り返って「不真面目」と切り捨てられたアーレイがジト目で睨みつけるが、フローレンスはどこ吹く風で、悪びれもせずに言葉を続ける。
「だって、ルドルフ准将はいかにも『真面目な軍人さん』って感じがしますもの」
そんな賑やかなやり取りを微笑ましく見守っていたアデールだったが、ふと、思い出したように表情を改めた。少しだけ真剣な、しかし気遣わしげな声音で問いかける。
「――ルワンダさん。貴女は『獣人』のことは気になりませんか?」
クーンという惑星で暮らす上で、獣人との付き合いは絶対に避けては通れない。遠路はるばる来てもらった手前、少々無躾な問いだという自覚はあった。相手に差別心が無いと分かってはいても、いまだ根強く残る人間至上主義の国民を預かる身としては、女王として必ず確認しておかねばならない問題なのだ。アデールの瞳に、一瞬だけ鋭い「女王」の光が宿る。しかし、ルワンダは迷うことなく、穏やかな笑みを浮かべて首を振った。
「ええ、全然大丈夫です。子供たちも私と同じで、少しも気にしていませんから」
「そうですか。それなら、ここでの生活もきっと問題ありませんね」
ルワンダの偏見のない、そして淀みのない言葉に満足したのか、アデールは嬉しそうに頷いた。先ほどの鋭さは消え去り、いつもの柔らかな表情が戻る。
「お部屋は本邸から少し離れた『離れ』を用意させました。専属の侍女を一人付けますので、分からないことや困ったことがあれば、何でも遠慮なく聞いてちょうだいね」
「有難うございます。……そこまで至れり尽くせりしていただいて、本当に申し訳ないくらいです」
身を寄せるだけのつもりだった自分たちに対する破格の待遇に、ルワンダは恐縮して深く頭を下げるのだった。数十分後。終始和やかな雰囲気のまま進んだお茶会は、滞りなく幕を閉じた。
「それでは、生活が落ち着いた頃にまた城へ来てくださいな」
「畏まりました、アデール様。本当に……何とお礼を申し上げてよいか、言葉も見つかりません」
このわずかな時間のうちに、ルワンダは城の秘書として働くことが決まり、子供たちも無用なトラブルを避けるために王族の通う「王立学校」への編入が認められた。身を寄せる身としては、これ以上ない至高の待遇といえた。
「アーレイ少佐、貴方は今日はどうされるのですか?」
ルワンダ一家の処遇がひと段落すると、アデールの視線は自然とアーレイへ向けられた。問われたアーレイは、手元のカップを置いて淡々と答える。
「そうですね。一度、孤島の収容所を確認しておきたいと考えています。それが済み次第、夕方にはデルタへ戻る予定ですが……」
「泊まるナノ!」
アーレイの言葉を遮るように、ポコの元気な声が響いた。すかさず割り込んできたその愛らしい提案に、その場はどっと活気づく。アデールも楽しげに、鈴を転がすような声で微笑んだ。
「ふふ、そうね少佐。今晩はワンダさんの歓迎を兼ねた食事会を開きますから。ぜひ、このまま泊まっていきなさいな」
「……わかりました。そこまで言っていただけるのなら、お言葉に甘えて今夜は一宿一飯の恩義に預からせていただきます」
アーレイが観念したように頷くと、隣に控えていたフローレンスが、待ってましたとばかりに端末を高速で操作し始めた。
「アーレイ様、作戦本部への定期連絡は私から入れておきますね」
急遽、外交上の都合により明日帰還する――。
「これでよろしいですね?」
お泊まりが決まれば、残っている細かな作業をすべて片付け、あとはゆっくりと羽を伸ばすだけだ。それが彼女の信条でもあった。どこか期待に胸を膨らませるフローレンスは、隠しきれないやる気を瞳に宿し、なんとも晴れやかな表情でアーレイを見つめるのだった。
<<孤島の収容所、上空>>
キーンと戦闘機特有の甲高い音を響かせながら、ベクスターの高度が下がっていく。人影が視認できる距離に近づくと、捕虜たちが住まう住居を観察していた。地上の捕虜たちは相変わらずダラダラとしており、生産的な活動を一切放棄したかのように、まるでゾンビのように蠢いていた。
「ラー所長に聞いたけど、農作業とかの労働は絶対にしないんだってさ」
「ほんと最低ですね」
窓の外の光景を見下ろしながら、眉をひそめ、嫌悪感を露わにするフローレンス。そんな彼女の様子に、アーレイは小さく肩をすくめてみせる。
「現状を鑑みず文句ばっかり言っているらしい。間違いなく傲慢の塊だね」
「彼らには反省という言葉はないのでしょうか、見捨てましょうか?」
少女の口から淡々と紡がれた容赦のない一言に、アーレイは小さく息を吐いた。
「それは流石に立場上できない。けど、色々頼まれてね。もう彼を放棄したいんだってさ」
「はぁ……自業自得ですよね」
「そうだね。もう限界を超えているから、現状を認識させるよ。君はどうする?惨状になるけど?」
「はい、もちろんお供します」
ギューンと機体を傾け、ベクスターは孤島への着陸を開始した。
――バン!捕虜たちが生活している薄汚れた小屋の前に立ち、アーレイはその扉を乱暴に蹴り開けた。後ろにはフローレンスと、お守りのピンキーが続いている。室内にはカビと汗の混じった嫌な臭いが充満していた。
「なんだ、飯でも持ってきたか」
床に寝そべっていた士官の一人が、不躾に首をもたげた。1ミリも反省せずに文句しか言わないその態度、まさにラー所長の事前報告通りだ。顔を顰めたアーレイは、彼らに冷酷な現実を突きつけるべく、手に持ったタブレットを掲げた。
「おい、お前らよく聞け。今日から一切の食事を提供しないことになった」
「はぁ? 何だそりゃ。デルタら俺たちを誰だと思っているんだ!」
怒号が飛び交う中、アーレイは冷徹な眼差しで彼らを見下ろす。
「残念ながら、君たちは本国に見捨てられたぞ(笑」
それは『ディスティア・ジャーナルWEB版』の閲覧制限を外せば、このクーンでも問題なく見られる情報なので、アーレイは戒めようと最新の見出しを見せてみた。
『<速報> 捕虜の上級士官、帰還は絶望的』
『現地収容所での問題行動が多く、高額な身代金に対する世論が反発。政府は国籍破棄の方向で調整に入った――』
「嘘だ嘘だ、捏造記事だ!」
「おーい誰かログインしてみてくれ(笑」
まあ敵地で見せられても信じはしないだろう。アーレイは、ログインすれば本物だと分かると考え、手を挙げた男にタブレットを放り渡してみた。
「ま、間違いありません……!」
渡された士官のひとりは、お気に入りや、フォローユーザーの画面を見て確信する。さらに、画面の隅にある一般ユーザーからのメッセージが目に飛び込んできた。
『生きて帰れよ、待っているから』
という、かつての国民からの励ましが、今や皮肉な遺言のように響く。
「ま、まさか……本当、なのか……?」
見捨てられた事が判明すると、流石に堪えたのか、男たちはガックリと肩を落とした。ちなみに、ここを抜ける条件として身代金の金額を改めて提示すると、到底払えない額であることに皆が顔を青ざめさせ、何とも言えない諦めの空気が室内に流れた。
「君たちの態度のせいじゃないのか? 俺は散々忠告したぞ」
アーレイの言葉に、一人の士官が逆上したように顔を真っ赤にして立ち上がった。
「いや、なんで俺たちが、あんな動物どもの――」
「レン撃て!」
――バシュウウッ!
「ウギャァァァア!」
恐怖に引き攣るフローレンスが放った実弾が士官の胸に吸い込まれる。もちろん、非殺のスタンモードだ。撃たれたそいつは激しく痙攣して床に倒れ込む。
「 全てにおいてこいつらに再教育が必要だな」
「ふ、ふざけるな……っ!」
別の士官が歯を剥き出しにする。アーレイは銃口をそちらへ向けた。
「お前、なんか言ってみろ」
「俺たちは将校だ! 野蛮なこの国に抗議――」
――バシュッ!
「ウゲェェーッ!」
アーレイは言葉の意味を理解していない者から、即座に容赦なく銃撃していく。
「はい、次」
「…………」
静まり返る室内。先ほどまでの傲慢さはどこへやら、一人の士官がガタガタと震えながら手を挙げた。
「わ、わたしは、アーレイ少佐に従います……!」
「そうか。それなら命乞いをしたらどうだ? やらないと飯は出ないぞ」
「そんなこと、できるか……獣の飼い主め!」
誇りにしがみつく男の言葉が終わる前に、アーレイは引き金を引いた。言ってきかないので衝撃モードに切り替えた一撃が、男の腕の骨を容赦なくへし折った。
腹部に衝撃弾がめり込み、男は前屈みのまま、白目を剥いて失神した。容赦のない暴力の嵐に、部屋の空気は完全に凍りつく。
「土下座しろ。そうしたら特別に飯を出してやろう。どうだホレ、早くしろ、早く」
グググ、と屈辱に歯を鳴らし、顔を真っ赤に染めてアーレイを睨みつける士官たち。
「もういいよ帰ろう。ポコ、離陸準備だ」
結局、更生は不可能と判断したアーレイは、問題行動を起こす士官たちをルドルフが来るまで完全放置することを決め、城に引き上げることにした。
キーン……と甲高い金属音を響かせ、ベクスターはゆっくりと上昇していく。窓外には、生き残った捕虜たちが恨めしげにこちらを見上げていた。
「自業自得さ。……なぁフローレンス、人を初めて撃った気分はどうだい? 気持ちの良いものじゃないだろう」
「はい……とても嫌な気分です」
「それが普通の反応だよ。試すような真似をして悪かった。君の覚悟を見極めたかったんだ」
「いえ、私はアーレイ様の補佐ですから、試されて当然です」
健気な横顔を見つめ、アーレイは真剣な声を重ねる。
「これからは必要なら躊躇せず撃て。少しの判断ミスが命取りになる。どういうわけか、俺は昔から騒動に巻き込まれやすいからね」
「ふふ、危機は自分で判断して切り抜けろ、ということですね」
少しだけ和らいだ空気の中、フローレンスが真剣な顔で本題を切り出した。
「あの捕虜たちは、このまま見捨てますか?」
「更生の見込みがあればルドルフに繋ぐつもりだったけど、あのザマじゃ無理だ。この惨状をそのまま報告するよ。彼が引き取ったとしても、本国に着く前に裏で処理されるんじゃないかな」
「マジですか……?」
驚愕する彼女に、アーレイはディスティア帝国の歪んだ実態を語り出す。本国では下士官の解放ばかりが歓迎され、傲慢な士官たちの救出は世論も望んでいないのだという。
「階級差別だよ。あの国は士官になった途端に手のひらを返す」
「デルタでは考えられません。アーレイ様が良い例です。私、陛下に対する不遜な態度が面白くて、そこから意識するようになったのですから!」
「……それ、日頃の行いが悪いって言われてる?」
手厳しい本音に苦笑しつつ、アーレイは遠い目をしながら言葉を続けた。
「今の皇帝セオドールになってから、国籍破棄や階級差別が過激化した。彼は自分の求心力を高めるために、住居や食堂の席順にいたるまで、士官の待遇だけを露骨に良くしたんだ。あいつらの傲慢さは、そうやって植え付けられたものさ」
「ルワンダさんが言っていた、教会が跋扈しているという話にも繋がりますね」
「そう、あれも悪意の塊だ。おそらく教会もセオドールが裏で操っている。……まあ、これからの処分については、またルドルフに会った時にでも聞いてみるよ」
眼下に広がる青い海とは対照的な、割り切れない苦味を胸に抱いたまま、二人は夕暮れの迫るクーン城へと帰路につくのだった。
コメント
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うわあ第101話、読み終わったよ〜!😭✨ まずお茶会シーンがめっちゃほっこりした…!ルワンダさんの緊張が極上の紅茶でほどけていく描写とか、アデール女王の気遣いとか、優しい空気が伝わってきてこっちまで安心したよ🥺💕 フローレンスとアーレイの軽口の叩き合いもいいよね、ああいう空気感好き! 後半の収容所は一転して重かった…「土下座しろ」ってアーレイの圧、怖かったけど、ちゃんと理由があってのことだからなあ。フローレンスが初めて人を撃った後の会話がすごく刺さった。「試すような真似をして悪かった。君の覚悟を見極めたかったんだ」って言葉にアーレイの想いが詰まってて…。ディスティアの闇も語られて、世界観の深みが増した回だったね!🔥✨