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「……あのさ、功基。そのココロは?」

「…………邦和が」

「ワンコくんが?」

「……笑ったりとか……近くに来ると……動悸がする」

「…………」

「オレも、まさかと思って……オレも、アイツも、男だし……おかしいってわかってるし。でもなんか、全然おさまんねーし、考えてたら寝れねーし。もう手一杯で」


功基が何を思い出しているのか庸司にはわからなかったが、言葉を紡ぐ度に赤みを帯びていくその耳をみて、鼓舞していた覚悟がすっと失せていくような気がした。

……そこからか。

どうやら事態は思った以上に、面倒かつ面白味のない状態らしい。


「なぁーんだ。てっきり一線越えたのかと思ってたのに、残念」

「いっ!?」


庸司が唇を尖らせると、功基が真っ赤な顔で凝視してくる。

キャパオーバー。そんな言葉がピッタリだ。


「い、っせんって、オレもアイツも、男だぞ!?」

「さっきからそれに拘ってるけどさぁ、功基ってそーゆー『一般論』が大事なタイプだっけ? 同性愛とか、認められない系?」

「いや、そーゆーワケじゃねーけど……オレが、そうなるとは、思ってもなかったし」

「まっ、普通はそうだよねー。だから功基が動揺してんのはわかるけど、それで自分の気持ちを否定すんのはちがくない?」


功基は無言で庸司を見遣る。縋るような目だ。


「よくある常套句だけど、『好きになった相手がたまたま男だった』ってヤツでしょ。この後どーすんのかは功基次第だけど、『好き』って部分はちゃんと認めたらいいんじゃない? もう、なっちゃったんだから」

「…………庸司はさ」

「うん?」

「……こーゆーの、平気なのか。その、オレ、お前のコトは、いい友達だと思ってるし、さ」


おそるおそる呟く功基に、庸司は口角をつり上げた。

どうやら、この件をキッカケに、庸司との友人関係が壊れてしまうのではないかと怯えているらしい。


(……まったく)


純粋に向けられる好意は気持ちのいいものだ。

庸司は片手を伸ばし、きちんとセットされた功基の髪にポスリと乗せた。

途端に功基が驚いたように目を見張るので、庸司はクツクツと笑いながらあやすように頭をなでる。


「功基はさぁ、ほんっとカワイイよね」

「かわっ!? 嬉しくねぇ!」

「俺、功基なら抱いてあげてもいいよ」

「だ……っ!? ふざけんないらねぇ!」

「そう? 残念」


バシリとはらわれた腕を引っ込めながら、庸司は楽しげに笑み続ける。

功基は赤くなったり蒼くなったりと忙しいが、それがまた表情豊かで、見ていて飽きない。


「ったく、こっちは真面目に話したってのに……」

「やだなー、俺だって大真面目だよ?」

「どこがだ。……けど、ありがとな」


(ありがとう、ね)


照れくさそう顔を背けたままの礼に、庸司はこっそり苦笑を浮かべた。

きっと、功基は庸司が気を使って軽い調子で返したと思っているのだろう。これからも『友人関係』に変わりはないと、それとなく伝える為に。

間違いではない。でも、それが100%の本意でもない。

これはわざわざ伝えるつもりはないが。


「……いーえ」


(俺に『告白』されたとは、微塵も思わないんだね)


「……ま、わかってたけど」

「あ?」

「んーん、なーんでも? 相談終わり?」

「……ああ」

「んじゃ、帰ろー」


どちらかと言うと、庇護欲の方が強かった。だからコレを『恋』と呼ぶのか、庸司自身も曖昧だった。

功基と邦和が話している姿を見た時も、嫉妬ではなく、「ああ、そうか」と安堵や諦めが先立っていたのだ。

たぶんそれは、一年以上を共にしても『それ以上』になれなかった自身を、突如現れた邦和がほんの一瞬で飛び越えていったのと、彼が呆れるくらいに功基を『想って』いるのが見て取れたからだ。

だからこそ、功基が邦和を『特別』に想っているのだと気づいた時に、しっかり助けてやらなければと思ったのだ。

かけがえのない最後の砦であり、当たり前のように隣を提供される『友人』というポジションは、存外居心地が良い。

そうやって、功基に抱いた淡い感情は、もう全て飲み込んだと思っていたのに。


(案外諦めの悪い男だねー、俺も)


ツクツクと小さく痛む胸中に零れた苦笑を綺麗に隠し、庸司は『友人』の笑みを浮かべて、隣を歩く功基を見下ろした。


「ね、功基」

「んー?」

「どうせなら、久しぶりにコーヒーでも飲んでかない?」

それでもお前は執事じゃない!

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