テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
凪川 彩絵
#独占欲
「晴永さんは……覚えていらっしゃるってこと、です、よ、ね?」
「……当たり前だ」
さも、忘れるわけがないだろう? と言いたげな口調に、なぜか胸の奥がジクリ……とうずいた。
「……私だけ覚えてないのは、なんだか悔しいな……。フェアじゃないです……」
ぽつりと零れた本音。
その途端、暗闇がわずかに動いた。
マットレスがきしむ音。
次の瞬間、視界の端に影が差す。
起き上がった晴永が瑠璃香の上に覆いかぶさるように両腕をついて、瑠璃香を見下ろしていた。
「あ、あの……っ」
薄暗がりの中、なぜか晴永の視線だけがやたら鮮やかに感じられて、心臓が大きく跳ねる。
「フェアじゃない、か」
晴永が、瑠璃香を見下ろしたままま低く繰り返す。
逃げ道を与えるように、ほんのわずか距離を保ったまま。
「だったら……今度こそ記憶に残るようにしてやろうか?」
きっと瑠璃香が「何を馬鹿なことを言ってるんですか!」と突っぱねれば、すぐにでも晴永は離れてくれるだろう。
だけど……その言葉は、どうしても出てこなかった。
晴永の顔が、ゆっくりと近付いてくる。
別に押さえつけられているわけではない。逃げようと思えば、逃げられた。
それでも瑠璃香は目を閉じて、自ら、その口づけを受け入れた。
***
目が覚めた瞬間、瑠璃香は自分の身体が大きな温もりに包まれていることに気が付いた。
素肌に触れる、確かな体温。
背中に回された、たくましい腕。
目の前で上下する、すべやかな胸。鼻先をくすぐる穏やかで規則正しい寝息。
――確認するまでもなく、二人とも裸だ。
意識した途端、昨夜のことが、一気に蘇って、顔がぶわりと熱くなる。
ギュッと身体を固くしたと同時、瑠璃香を抱きしめる晴永の腕がぴくりと動いた。
思わず見上げた瑠璃香の瞳と、今開いたばかりの晴永の眠たげな視線が、至近距離でぱちりと合う。
次の瞬間、二人ともほぼ同時、はじかれたように身を引いた。
「……」
「……」
気まずい沈黙。
ややして、晴永が無言のままベッドから降り、床に落ちていた服を拾い上げる気配がした。
恥ずかしくて直視できなかったけれど、布団の隙間から、裸のまま背を向けて立ち去る後ろ姿が見えて、瑠璃香の鼓動が急加速する。
瑠璃香は今更のように布団をばふっと頭までかぶった。
布団で視界を閉ざしたからか、音ばかりがやけに鮮明に響いてくる。
ドキドキとうるさいぐらいに感じられる自身の心臓の音の合間、風呂場の折れ戸の開閉する音が聞こえてきて、ほどなくして、シャワーの音が聞こえ始めた。
それに続いて、キッチンの方から
『お湯はりをします。お風呂の栓はしましたか?』
と、無機質な機械音声が響いた。
全て現在進行形で起こっている現実の出来事だ。
昨夜の〝アレ〟だって、もちろん夢なんかじゃない。
ともすると、まだ晴永を自分の中に受け入れているような感覚まで拾ってしまいそうで、瑠璃香は慌ててフルフルと首を振った。
コメント
1件
今度こそ覚えてるかな?🥰