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凪川 彩絵
#独占欲
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晴永くん、えらいなー。、
もぞもぞと布団の中からベッド下へ手を伸ばすと、脱ぎ散らかした服をかき集めて、身につけていく。
指先がうまく動かない。これは、布団の中ですべてを済まそうとしているからだけじゃないだろう。
やっと着替えが終わった頃、寝室の扉が控えめにノックされる。
「瑠璃香、入っていいか……?」
「は、はいっ」
慌ててベッドの上に身を起して髪の毛を手櫛で整えながら答えたら、晴永がゆっくりと扉を開いた。
髪を軽く拭きながら、瑠璃香に近付いてきた晴永が、
「風呂、溜めたから入ってこい」
どこかぶっきらぼうに言う。
けれど、耳が真っ赤になっているところを見ると、照れ隠しなのかもしれない。
「はっ、晴永さんは……っ」
晴永が風呂上りなのは明白なのに、そんなことを聞いてしまったところをみると、自分も相当テンパっているらしい。
「俺か? 見ての通り、先にシャワーを浴びた」
「で、ですねっ」
瑠璃香が慌てて肯定したら、晴永がわざとらしく肩を竦めてみせる。
「なんだ瑠璃香。もしかして、一緒に入りたかったのか?」
「なっ……!」
ほぼ無意識。枕を掴んで思いきり投げ付けていた。
「晴永さんのエッチ!」
顔を真っ赤にしたまま、瑠璃香は寝室を飛び出した。
自分はこんなにも照れまくっているというのに、晴永がすぐさま通常運転みたいになったことが、なんだか悔しかった。
だが、瑠璃香は知らない。
残された晴永が、枕を受け止めたまま天井を仰いで、
「やばい……可愛すぎてどうにかなるかと思った……」
とつぶやいたことを――。
***
瑠璃香が風呂から上がると、キッチンには味噌の匂いと、魚の焼ける香ばしいかおりが漂っていた。
晴永はすでにスーツ姿で、エプロンだけが場違いに見える格好のままコンロ前に立っている。
テーブルには炊きたてのご飯。
皿の上では、皮が破れてちょっぴり形を崩した焼き鮭。
小鉢に盛られているのは――巻こうとして諦めたらしいスクランブル状の卵焼き(?)。
晴永がお玉でかき回している鍋の中の味噌汁は……見た目は普通だ。
「……すごい。晴永さん、料理苦手って言ってらしたけど……作ってくださったんですね」
思わず呟くと、晴永は照れ臭そうに視線を逸らした。
「お前が毎日してくれてるのを……真似てみただけだ」
この家に居候させてもらうようになって、朝昼晩……できるだけ食事は瑠璃香が作るようにしていた。
家賃は要らないと頑なに言い張る晴永へ、せめて家事くらいは……と譲歩してもらった結果だった。
「瑠璃香……、味噌汁……。見た目は遜色ない感じにできたんだが……その……、味が、な……」
ごにょごにょと言いよどむ晴永に、瑠璃香が「味見、してみてもいいですか?」と助け船を出す。
「頼む……」
言われてお玉から鍋の中身をほんの少し移された小皿を受け取った瑠璃香は一口飲むなりすぐに分かった。