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「ぎゃは! 見ろよ、あのポカーンとした面、ウケるぅ!」
大勢の時雨が幸人達に向けて馬鹿笑い。声まで重なり合って聞こえる。
「おっと……原型は残すんだったな……だってよ!」
更には皆が腹を抱えて笑い出す。
これには誰もが、文字通り唖然だ。
どういう原理なのだろうか? 其々が異なる動作までしていた。
「何なんだアイツ……」
ジュウベエも唖然と固まってる中、幸人だけは呆れてものが言えない様子。
「ああそうそう、おぉい忠告だ」
時雨はふと思い出したかの様に、立ち竦む黒服達に向けて指差す。
「気持ちは分かるが、何時までも突っ立てないでさっさと逃げないと――」
指差す其々の時雨が、悪魔的に陽気な笑顔を見せる。
「“ミンチ”になっちゃうよ?」
それが何を意味するのか、彼等に理解出来る筈はない。
ただただ眼前の理解不能な現象に、心奪われたかの様に立ち竦んでいた。
再度射撃を行うか、迷いの境界線。その瞬間――
「まあ、逃げられる訳ないんだけどね」
時雨達の周りの空間が歪み、圧縮されていく。
何やら肌付く空気の震動が伝わった刹那の事。
「――っ!!!!!!!」
弾ける音響。
三十余名程居た、黒服達全員の五体が一瞬で破裂霧散。
この間僅かコンマ領域世界の出来事。視覚確認出来る訳がない。
それはさながら、膨大なエネルギー運動が衝突する、痛ましい人身列車事故の様な――
「なっ……」
夜空を彩る、美しくも刹那的な――
“何が起きたんだ?”
真っ赤な花火の様でもあった。
辺り一面惨劇の場。優雅な庭園が、飛沫残す朱に染まっていた。
だが形だった、欠片らしきモノは見当たらない。
代わりに息も詰まる程の、鉄の臭気が充満していた。
「ゴミはゴミ箱へ、てか? いや土に帰すだな」
冗談交じりに笑う時雨。そして十数もの彼等は、役目が終わったかの様に音も無く消え、一人の時雨が立ち誇っていた。
あれだけの人数を一瞬で肉塊ならぬ、血の海へ変えたその力。
「一体何だったんだ?」
起きた事が信じ難い、言語を絶する現象に、ジュウベエはただただ戸惑うしかない。
“死んだはずの時雨”
“それから現れた十数もの時雨”
“そして一瞬で敵滅殺”
理解しろと言うのが、俄然無理な事。
「――水装師団射手陣。あの一人一人が“水”で造られた、時雨の分身そのものだ」
「水……だと?」
戸惑うジュウベエに説明する訳でもないだろうが、幸人が先程の現象の原理を呟き始める。
一人一人が水そのもの。しかし水であれ程精巧な動きと形を司る等と――
「時雨は世に存在する、あらゆる水分を自在に操る特異能、“獄水”を持つエリミネーター。殺られたと見せたのは、色まで再現した水の人形による、趣味の悪い戯れの一環だよ」
“特異能……やはり”
ジュウベエの疑惑が確信に変わった。
あの姿形から勘付いてはいたが、時雨は幸人と同じ特異点で在るという事。
しかも氷と水。お互い近くも等しい存在。
「超圧縮された水の弾丸を、第二宇宙速度(11.2km/s)で放たれれば反応はおろか、生身等欠片すら残らんだろうな……」
あの瞬時に全員が破裂した恐るべき現象理論を、驚く事もなく淡々と語る幸人も幸人だ。
それが事実なら、何が起きたのか視覚出来ないのも当然である。
「どうよ? 久々に俺の力を見てビビっちゃったかな?」
幸人の言葉を聞いていたのか、時雨が御満悦な表情で二人の下へ歩み寄って来る。
「笑わせる……。お前の力はただ殺しを楽しむ為だけのもの。怯懦する道理は無い」
幸人の返した答。それは明らかに挑発の類。
「幸人?」
“らしくない”
それがジュウベエが真っ先に感じた事。
二人の仲が宜しく無い事は、仲介所のやり取りで分かっていた事だが、それにしても珍しく感情が先走っていると。
“この二人の間に一体何が?”
「あ? 仕事は楽しくやるのが長続きのコツだろうが? 同じ穴のムジナ同士、楽しく殺ろうぜ」
時雨はその陽気な声とは裏腹に、顔が笑ってない。
「一緒にするなよ」
「この偽善者が……」
それは幸人も、御互いに同じ。
対峙する二人の間に、肌に張り付く様な緊張感、もとい亀裂が走る――
「あ! 良い事思い付いた。介添え役、同行中に敵の不意打ちにより死亡、て頭良いな俺」
時雨が不意に恐ろしい事を、さらりと言いのける。
それが頭良いかはともかく――
「俺も似た様な事を考えてた。執行者、執行中に油断から死亡。本部にはそう届けといてやる」
幸人も全くの同感。明らかに両者共に殺る気満々。御互いを――
「おっ……おい幸人!?」
危険を察知したのか、ジュウベエが急ぎ幸人の左肩から飛び降りたのは、その眼鏡を外していたからだ。
依頼以外の事で、その真の力を解放する等――
「上等上等、いい機会だ。お前とはいつかケリつけねぇと、と思ってたからな」
まるで、この時を待ってたかの様に嘲笑う時雨。
突如その身体の周りには、幾多ものテニスボール程の水球が現れ、不規則に渦巻いている。
限りなく透明で視覚も朧だが、先程と同様それは超圧縮された水の塊、正に水の集合体だ。
「昔から気に食わなかったんだよ。自分は他とは違う、っていうその勘違いっぷりがな!」
そう吐き捨てた時雨の表情に、既に笑みは無い。切れの長い蒼き瞳は冷酷そのもの。
「それは俺も同じだ。いい加減お前が目障りで仕方無い」
煌めく銀髪へと変わった幸人もまた同じ。
氷と水。等しい様で全てに於いて対極にある二人。
御互いがぶつかり合うのは、遥か昔から定められていたのかが如く、この対峙は必然だったのかも知れない。
そして完全に幸人から雫へと移行した瞬間――
“level99.99%over”
※※※※EMERGENCY※※※※
鳴り響く警告音は時雨から。
「くっくっく」
この状況に昂りを隠せず、自然と高揚の笑みが溢れる。
※レベル臨界突破計測確認――
CODE:0990100よりモード反転――
スタビライザー解除:裏コード移行――
※※※※EMERGENCY※※※※
※本機はこれより モード:エクストリームへ突入します――
地殻変動及び空間断裂の危険性大――
速やかな退避を推奨します――
※※※※EMERGENCY※※※※
時雨は微笑しながら、己がサーモの液晶画面を確認していた。
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※裏コード~臨界突破
※第二マックスオーバー
※モード:エクストリーム
対象level 201.96%
※危険度判定 SS
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