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Eliminator~エリミネ-タ-

23 - 第23話 三の罪状⑩ 絶対零度

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2025年05月25日

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「くくく……あははは! やっぱ俺の方が強ぇ」



液晶を見てとった時雨は、雫との差に勝ち誇っている。



数値上でその差は僅か。それでも時雨は雫との間に、僅かでも優位にある事を確認出来た事に嘲笑っているのだ。



「お前は馬鹿か? レベルだけが全ての判断材料だと思っているとはな……」



だが雫は時雨の優越感を一笑に伏す。



レベルが10も100も開いているなら、その差は埋められるものではないが、臨界突破レベル200超同士の、しかもその領域に在る者達にとっては、各々の戦略や相性が勝敗の鍵を握るといっても過言では無い。



「ムカつくお前……。やっぱ一回死ねよ」



「お前がな」



最早二人の激突は避けられそうもなかった。互いに仕事とは全く関係無い、完全なる私闘。



“やべぇ!”



本気の二人を見てとったジュウベエが、その俊敏な動作で二人の間から大幅に距離を取る。巻き込まれない為だ。



“二つの特異能がぶつかり合ったら……”



此処等一帯が消し飛びかねない程――



「散れや!!」



先に動いたのは時雨だ。周りの水球が圧縮されていくのか、空間が歪んでいく。



先程の、数十名を一瞬で破裂霧散させたのと同じ――



“ブラッディ・レールガンズ・ブレイジング ~超弾道血壊痕”



――時雨の周りが一瞬だけ光った刹那、辺り全域の空気が震撼する。



『ちょっ! オレまで殺す気か!?』



大幅に離れてるはずが、それでも危険と判断したのか、ジュウベエは後ろ見ながら一目散に駆け出していた。



第二宇宙速度で放たれる、この超圧縮された水の弾丸は――



「幸人ぉぉぉっ!!」



大気圏内重力下に於いて、地殻変動災害級の威力を有する。



その想像を絶する威力の前に生身等、原子構造はおろか分子レベルで破壊されかねない。



直撃の間近、微動だにしない雫の姿。



これには時雨も怪訝そうだったが――



「――っ!?」



その理由(わけ)に思わず目を見開いていた。



雫に直撃するはずだった水の弾丸は、まるで決して引き合わない対極の磁石の様に軌道を反らし、辺りに拡散していくのを。



「ちっ!」



何事も無く立ちはだかる雫。その前面に張り巡らされていた、蒼白い膜の様なもの――



“ミラージュ・リフレクト・ゼロ ~極零鏡面反射”



拡散した水の弾丸は、雫の後方の森林を薙ぎ倒していき、山々へ着弾。



響き渡り伝わる、唸る様な轟音。



「うぉっ!!」



その衝撃の余波からか、地響きが起きる程の。



「なんっちゅう破壊力だ! 確かにあんなん喰らったら、人間なんて欠片も残らんわ!!」



その破壊力を目の当たりにしたジュウベエは、遠く離れた物陰から高らか叫び声を上げる。



それにしても雫だ。



あれ程の威力の弾丸を反らす等――



“超伝導か!?”



ジュウベエは雫の力の全て知り尽くしている訳ではないが、すぐにその原理がピンときた、というより、それ以外有り得ない事に――



“あの瞬間、幸人は絶対零度を発生させて、その余波で生じるマイナス電磁波で空間ごと歪めて、あの軌道を反らしたのか……”



雫の前面に見えた蒼白い膜の様なものは、即ち絶対零度発生による超流動現象。



「それにしても幸人が絶対零度を使うとは……」



それは逆に裏を返せば『-273.15』度の最低温度を発生させなければ、時雨の力を防げなかったとも取れる。



“つまりはどちらも化物級――”



「ってアイツラ何処行った!?」



そんなジュウベエの僅かな思考中の合間には、既に二人の姿は何処にも見当たらなかった。



“上か!?”



普通に考えても、二人が“居なくなる”訳が無い。



反射的にジュウベエは夜空を見上げる。



「ったく、何時の間に――」



其処には満月を背に対峙する二人の姿が。



今、正に空中で激突せんとする真っ只中であった。



「にしても、なんちゅう跳躍力だよ……」



“オレはあんなに跳べないわ”



ジュウベエは感心した様に呟くが、問題はそこではない。



両者共、明らかに人間離れした跳躍力。



それどころか――



「動くか!?」



重力に逆らうかの様に、空中で静止してさえいた。



ジュウベエの声を皮切りに、其処が見えない足場同然に、御互いへ向けて二人が空を切る。



蹴り上げた両者の右脚が交差した刹那、空気が連鎖的に破裂――震動していく。



それは点滅的に、だが御互いに蹴りを一撃のみ、放っただけにしか見えない。



「凄ぇ!!」



“御互い、あのたった一撃に、二十以上もの打撃をオプションで組み込んでいやがる!”



震動が断続的に伝わったのは、一撃に見えて実は何十もの攻撃を一瞬で繰り出していた為。



音速を超えたそれらは、勿論ジュウベエが視覚確認出来たまでの打数。



実際は――



「分からねぇ! どうなっちまうんだよアイツラ!?」



少なくとも、現状は全くの互角と云えた。



二人はまだ空中を停滞し、弾ける様に再び御互い距離を取る。



「くくく!」



雫の力を見てとったのか、時雨が含み笑いを浮かべながら両手を交差し――



「なんじゃありゃ!?」



朧ながらジュウベエにも見えた。



時雨の両手から、赤い水状の“何か”が渦巻きながら伸びていくのを――



“ブラッディ・ブレイド・シャムシエール ~血腫双刃鞭”



※水はその存在自体が奇跡とも云える魔法の液体だ。



あらゆる命の源であり、液体から固体・気体と容易にその姿を変える。



故に水は万能。そして――



“死海血”



己の血液さえも自在に操れる時雨の血液は、その特異さゆえ死海血と称され、その濃度は常人のそれを遥かに凌駕する。



血液凝固作用と水を組み合わせたそれの強度と切れ味は、金剛石(ダイヤモンド)をも分断し、更には伸縮自在。



************



「オラ! バラバラになって死ねや!!」



時雨の両手から伸びるモノ。



それは紅き双鞭。不規則に時雨の周りを渦巻いている。



「お前がな!」



それに対し、右手を掲げた雫。



“アレを出す気か!?”



その動作に、下で見上げていたジュウベエが思わず目を見張った程の――



“アブソリュートゼロ”



氷点最低温度――絶対零度。特異点、SS級エリミネーター雫の、ある意味象徴とも云える力。



夜空に現れた蒼白い幾多もの粒子、それはまるで美しくも冷たい牡丹雪。その粒子全てが雫の右手に集約していく。



それを見たジュウベエが、この闘いが次で終わりかねない事まで確信する。



だがどちらが勝つか迄は、分からなかった。



「くくくっ! 面白ぇじゃねえか!!」



その力を目の当たりにし、時雨は一層の雄叫びを上げた。嬉しいのだ。どっちが強いのかが此処で分かる事が。



そしてそれは御互い共、己であるという事に――



“リュートゼロ・ゴッドクラッシャー・ハンドレット ~絶対零度:終焉雪 蒼掌極煌”



その右手に輝く、神々しい迄の蒼き煌めき。通称『神殺し』の掌。



絶対零度は全ての原子運動が停止し、分子結合が崩壊してあらゆる物質が塵となる――



「死ねや!!」



「極零に散れ」



両者空中で二段加速。



時雨のうねる様な曲線を描く紅き双鞭に対し、雫の直線的に突き出される蒼掌――



『!!!!!!!!』



両者が交差した刹那、中心点が発光。



「ちょっ!!」



その衝撃で大気が震撼し、地表にもその余波で突風が吹き荒れた。



「もう少し遠慮しろやぁあぁぁぁ!!」



吹き飛ばされない様に、物陰でしがみつくジュウベエだったが、両爪だけを食い込ませて、まるで洗濯物状態だ。



“――って、どうなった!?”



広範囲に拡がった突風は数秒後には過ぎ去り、体勢を整えたジュウベエは、改めて辺りを見回す。



「居た――って、あれだけの事をやっといて、二人共無傷かよ!?」



周りの木々がなぎ倒された地表に、既に二人は降り立っていた。



ジュウベエが驚愕していたのは、極限の力が衝突し合って尚、何事も無く対峙している二人を目の当たりにしたからだ。



御互い全くの互角。



勝負の行方が全く分からない――



「ぐっ!」



そう思った矢先の事。



「ゆっ……幸人ぉ!!」



突然の異変。その光景に思わずジュウベエも叫ぶ。



何故なら雫の身体からは無数の血飛沫が吹き上がり、拮抗が崩れるかの様に時雨の前で膝を着いていたからだ。

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