テラーノベル
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障子が、ゆっくりと開く。
冷たい朝の空気が流れ込み、三人は一瞬で身構えた。
だが。
「……あ?」
入ってきた男は、拍子抜けしたように目を瞬かせた。
旅装束の中年男だった。腰には短刀。だが、武士というより商人に近い。
男の後ろから、さらに二人が顔を覗かせる。
「なんだ、先客か」
「驚かせんなよ」
ロウは刀からそっと手を離した。
同時に、マナも小さく息を吐く。
追手ではない。
だが油断はできない。
男たちの視線が三人を順に見た。
特に、ライの姿で一瞬止まる。
その整いすぎた顔立ちは、どうしても目を引く。
マナは無意識にライの前へ半歩出た。
するとロウが自然に笑う。
「朝から騒がしくて悪いな。妹が慣れない旅で酔ってる」
「妹ぉ?」
男がライを見る。
ロウは平然としていた。
「こっちが姉で、そっちが妹」
「逆じゃねぇか?」
「……」
マナが睨む。
男たちはどっと笑った。
その空気に、少しだけ緊張が解ける。
「お前らも関所越えか?」
「まぁな」
ロウは曖昧に答えた。
男たちは囲炉裏の近くへ座り込む。
荷を見る限り、塩や布を運ぶ行商人らしい。
「最近は面倒だぞ」
男の一人が顔をしかめた。
「関所の見張りが増えてる」
マナの肩が僅かに強張る。
「……何かあったんですか」
ライが静かに尋ねた。
その声は普段より少し高く、女として違和感のない話し方だった。
ロウが感心したように目を細める。
「若様、上手いな」
「今言うな」
マナが小声で肘打ちする。
男たちは気づかず続けた。
「都の偉い貴族の息子が逃げたらしい」
その言葉に、空気が凍る。
「しかも身分違いの男と駆け落ちだと」
「はは、馬鹿な話だ」
「貴族ってのは何考えてるかわからんな」
笑い声。
だがマナは笑えない。
指先が冷えていく。
ライも静かに俯いていた。
その横顔を見て、マナは胸が痛む。
——笑われてる。
ライが捨てたものを。
命懸けで選んだ想いを。
ロウはさりげなく話題を変えた。
「で、関所はどんな感じだ?」
「今日は厳しいな。特に若い男は顔見られる」
「女連れは?」
「多少マシだが、荷まで調べられる」
ロウは頷きながら情報を頭に入れていく。
男たちはしばらく休むと、先に茶屋を出ていった。
馬の足音が遠ざかる。
完全に聞こえなくなった後、ようやく三人は息を吐いた。
「……怖ぇ」
マナが呟く。
「今、心臓止まるかと思った」
「まだ止まるには早い」
ロウは立ち上がった。
「行くぞ。昼になる前に関所へ着きたい」
三人は再び山道を進む。
木々の隙間から差し込む光が眩しい。
だが穏やかな景色とは裏腹に、空気は張り詰めていた。
数刻後。
山を抜けた先に、関所が見えた。
高い木柵。
槍を持った番兵。
旅人たちの列。
マナの喉が乾く。
「……ほんとに行くのか」
「ここ越えなきゃ終わりだ」
ロウは静かに答えた。
「大丈夫。堂々としてろ」
そう言って、ライを見る。
「お前は喋るな。顔で覚えられてる可能性がある」
「わかった」
ライは頷いた。
列へ並ぶ。
少しずつ、関所が近づいてくる。
前にいる旅人が荷を改められていた。
番兵の目は鋭い。
笑っている者など一人もいない。
マナの手が震える。
すると。
そっと指先に温もりが触れた。
隣を見る。
ライだった。
袖の下で、ほんの少しだけ手を重ねている。
見つかれば危険なのに。
それでも。
「……ライ」
小さく呼ぶと、ライは微かに笑った。
“平気だ”
声はなくても、そう伝わる。
マナは息を飲み、ぎゅっとその手を握り返した。
そして。
ついに三人の番が来る。
番兵が鋭い目を向けた。
「……どこへ行く」
ロウが自然に笑う。
「隣国まで。親戚を頼る旅だ」
「その娘たちは?」
「妹だ」
「……」
番兵の視線がライへ向く。
一瞬。
本当に、一瞬だけ。
空気が止まった。
そして番兵が眉をひそめる。
「お前、顔を上げろ」
マナの心臓が跳ねた。
コメント
1件
うわあ、めっちゃ緊張した……!関所の前で心臓バクバクしながら読んだよ。特に「顔を上げろ」って番兵に言われた瞬間、タイミング悪すぎて怖くなった😭 でもライが袖の下でマナの手を握るところ、それだけで二人の絆が伝わってきて胸が熱くなった。しろまるさんの緊張感の出し方、本当にうまいよね🥀 次が気になりすぎるよ〜!
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