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春。
川沿いの桜並木を私は歩いている。
「ママ、お花が雪みたいだね」
「そうね。綺麗ね」
風に舞う花びらに、小さな手を伸ばす息子。
平石遥(ひらいしはるか)と言う。
私と賢介さんの宝物。
「あっ、パパ」
遥が駆け出した。
「転ぶから、走らないで」
とっさに声をかけたけれど、
ドンッ。
遥は豪快に転んで見せた。
「もー、だから転ぶって言ったのに」
***
平石琴子になって、6年の月日が流れた。
色々あった。
悲しいことも、嬉しいことも、賢介さんと乗り越えた。
「遥、泣くな」
駆け寄ってきた賢介さんが、遥を抱き起こす。
半べそをかき、今にも泣きそうな遥。
「うん。僕、泣かない」
それでも、グッと涙をこらえている。
「よし、偉いぞ」
パパが大好きな遥。
最近では生意気になって、私の言うことに反抗したりもするけれど、賢介さんの言うことはきく。
もう、3歳だもんね。
自我が芽生えたって当然。
「ママ。アイスクリーム食べたい」
「ええっ、アイス?」
私はちょっと渋い顔になってしまった。
***
「昨日までおなかを壊していたのに、あまり冷たいものはよくないわよ」
つい止めてしまう。
事情があって1000グラム足らずで生まれた遥は、3歳の今でも同じ年の子より体が小さいし、よく病気もする。
寒くなると熱を出し、熱くなると食べられなくなる。
喘息も持っているし、病院とも縁が切れることがない。
「大丈夫だもん」
プーッと、頬を膨らませた。
「よし、アイス買いに行こう」
優しいパパは、アイスにOKを出した。
もー、甘いんだから。
「この後食事に行くんだから、食べ過ぎないでよ」
賢介さんに念を押す。
「はいはい。分かってます」
「分かってます」
2人の声が重なった。
***
お花見をした後、私達3人は郊外の霊園へと向かった。
お花と線香を用意して、駐車場からの坂道を3人で歩く。
いくつものお墓が並ぶ中を進んでいくと、一番奥に洋風のおしゃれな墓石。
相変わらず、目を引くわ。
亡くなってからも、目立ってる。
すでにお墓は掃除も終わり、お花もたくさん供えられている。
今日の命日のために、おばさま達が掃除をしていたようだ。
「遥、お母さんにこんにちはしなさい」
賢介さんの言葉で、遥が墓前に手を合わせる。
私達もそれに続いた。
ウウッ。
私は我慢できずに泣き出した。
***
30分ほど墓前で過ごした。
今の遥にどこまで理解できているのかは分からない。
でもけじめとして、私たちは毎年ここに来ている。
「琴子、俺たち先に車に戻ってるから」
賢介さんが声をかけた。
「うん。ありがとう」
私はもう一度線香を立て、しゃがんで手を合わせる。
目の前に眠るのは、私の親友。
立花麗。
誰よりも強くて、誰よりも綺麗な人。
「麗・・・」
なぜ、死んでしまったの?
まだまだ、一緒にいたかったのに・・・
私は、ボロボロと泣いた。
***
麗は3年前に癌で亡くなった。
まだ、25歳の若さだった。
病気が分かったとき、麗は妊娠していた。
もちろん、周囲は中絶を進めた。
でも、麗は子供を産むことを選んだ。
妊娠中は治療が出来ないため、子供を産むことは麗が死ぬことを意味していると承知の上で。
段々体の状態が悪くなる中で、
「子供は琴子と賢兄に育ててもらいたい」
と言った。
もちろん驚いたけれど、嬉しかった。
なぜなら、一度目の子供を死産してしまった私には子供が出来なくなっていたから。
辛い不妊治療を続けて、それでも子供を授かれずにいた頃だった。
「2人の子として、私の生きた証として、育てて欲しい」
そう頼まれた。
その後、お父様やお母様、麗のご両親も交えて話し合い、麗の希望に添うこととした。
***
「お待たせしました」
車に戻ると、遥は眠っていた。
「ちょうどお昼寝の時間だから、寝かせておきましょう」
「そうだな」
今日は夕方から遥の誕生日祝い。
麗のご両親も来てくださる予定。
あと何年かしたら、遥は悩んだろうね。
自分の誕生日がお母さんの命日何て、辛すぎる。
でもね、
遥にはお母さんとパパとママと、おじいさんとおばあさんが2人づつ。
みんながあなたを愛している。