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仰向けに寝たまま息を整えてチラと勇斗に目を向けると、しばらく座ったままで居たが不意に俺に目をやった。
顔を見て、身体を見る。
その表情の中は読めない、ただ少し苦しげで何故か悲壮感があった。
「…はや、と?」
何も言わない勇斗と、その表情に段々と意識がはっきりしてくる。
…なんだろう、この感じ。
さっきまでの幸福な余韻が一気に消えていくようだった。
こっち、来てよ。
身体が寒いよ。
もう一度抱きしめて欲しい。
「…ッ」
「…タオル、取ってくる」
俺がなにか言おうとした瞬間勇斗が目を逸らした。
そしてそのままバスルームに向かって消えた。
「……」
なんで?
小さな違和感が少しずつ大きくなって胸に広がる。
「…ハイ」
「…ありがと」
上半身を起こした俺に、戻ってきた勇斗が温かいタオルを手渡した。
「…」
「…」
目を見ようとしても合わせてくれない。
どうして?
「…勇斗」
「…なに」
「…ど、したの」
「…なにが?」
「……なんでも、ない」
疲れた?眠たい?終わったあとだから?
……俺の事、今どう思ってる?
思っても聞けなかった。
なんだか面倒くさい存在になりそうで。
ここに来た事が良くなかった?
さっきまで確かに抱き合って今まで経験したことがないほどの幸福を感じたのに。
「……」
ただ黙って身体を拭いていた…。
勇斗は目もくれない。
脱ぎ捨てられた服を軽く羽織って、背中を向けて座っている。
なんだろう…この気持ちは。
こんなにも虚しく寂しい。
本当は抱きしめて欲しかった。
もう一度、抱きしめて、愛してると言って欲しかった。
そうしたら俺も、もう一度言えるのに……。
あらかた身体を綺麗にしたあと、いつの間にか剥ぎ取られていた服を拾った。
そこにある抜け殻のようなそれが、さっきまでの行為が嘘なんかじゃないって突きつけているようだった。
「…」
勇斗に借りたTシャツを拾おうとした時、手が止まった。
このままここに居ていいのだろうか。
…というより、自分はこの気まずい空間に耐えられる?
勇斗がなにを考えているかわからなかった。
後悔をしてるのか、欲を吐き出せた後はもう俺の事なんてどうでもいいのか…
愛してるなんて、言ったことを後悔してる?
しばらく迷ったあと、後ろの勇斗がずっと黙っていることに耐えきれずにその手を止めた。
「…俺…帰る…」
振り返ってそう告げるとハッとした様子の勇斗が振り返って俺を見た。
その表情は読めない。
だけどもう、探りたいとは思わなかった。
なにも聞きたくない。
知りたくない。
スっと立ち上がると身体の奥にまだあった勇斗が吐き出したもうぬるくなったソレが少し伝ってくる感覚があった。
「…っ」
気付かれたくなくて、平気なフリをして寝室を出た。
そこにあった自分の服を手早く着ると、置いていた荷物を持ち無言で立ち去った。
部屋を出る時、勇斗がこちらへ来るような気配を感じたけど気付かないフリをして玄関を開いて、閉じた…。
…………
サァ────
外に出ると雨が降っていた。
ずっと降ってたんだ…。
勇斗の熱に浮かされて、窓の外にある冷たい雨音にも気が付かなかった。
さっきまでの幸福を洗い流すような雨のシャワーを肌に受けていた。
じんわりと服が濡れていく。
髪が、肌が、冷たい雨を受け入れて何もかも洗い流す。
「…」
勇斗のマンションのエントランスを出て空を見上げると、真っ暗な空に暗い雨雲が掛かっていて…何故かほっとした。
雨は嫌いだったはずなのに。
こんな日に星空なんて見上げたら願ってしまう。
もう一度、勇斗のぬくもりが欲しいと願ってしまう。
そのまま雨に打たれていると段々と打ち付ける雨粒に慣れて、部屋に残された勇斗の事を考えそうになる。
あんなに嫌いだった雨なのに、今はこんな情けない自分にお似合いだと思った。
「…アホみたい」
センチメンタルな自分に気付いて独り呟いた。
自嘲することで誤魔化した。
そのままゆっくりとその場を離れた。
雨はまだ強いけど、ここまで濡れてしまったのならもう手遅れだ。
扉を開いたのは勇斗だった。
自分でも知らない気持ち。
…自覚のなかった想い。
知らない方が良かった、なんて…
今更思ってもしょうがない。
気付かないフリをしていた。
特別な感情に名前を付けることは無かった。
俺は明らかに勇斗を特別に見ていた。
でもそれが恋心だなんて、気付きもしなかった。
ただそこにいるのが当たり前で、勇斗が弱っていたら助けたくて。
…勇斗が俺を求めるなら応えたかった。
そして応えた。
絶対に無理だと思った時内心とても焦った。
勇斗が俺を求めている。
なのに身体は俺のままで。
…女性のようにされることに抵抗はなかった。
だから勇斗を受け入れることが出来た時この上ない幸福があった。
その感情がなんなのか、今の俺はもう知っていた。
俺は勇斗のことが好きだったんだ。
愛してると言われた時、体の奥底からゾクゾクとした多幸感が訪れた。
俺だけを見て、俺を求めて、俺以外を頼ったりしないで──。
感情の波が押し寄せた時に全てを悟った。
もう戻れない。
戻れないけど、変わらない日常はやってくる。
俺たちを…俺だけを置き去りにして、いつもの日々がやってくる。
俺は普段通りに振る舞えるんだろうか?
こんなにも自覚してしまった気持ちを、なかったことに出来る…?
今日はもう考えるのをやめよう。
この雨が覆ってくれる。
まるで救いの雨だった。
寂しいのに、現実感を薄くしてくれる暗い暗い雨。
とぼとぼと歩いた。
どこまで歩くのか、そんなことも考えなかった。
歩みを進めることで忘れていく。
忘れたい…。
今だけは、なかったことにしたい。
心が痛くて…
以前のふたりに戻りたかった…。
―――