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#成り上がり
28
店を出て、あえて人通りの少ない裏路地を選んで歩く。
背後に張り付く気配は消えていない。
一定の距離を保ち、殺意を隠そうともしない不躾な視線。
志摩の言葉を待つまでもなく、俺の肌が「敵」の存在を叫んでいた。
「……出てこいよ」
立ち止まり、声をかける。
街灯のオレンジ色が届かない闇の奥から、男が一人、ゆっくりと姿を現した。
「流石ですね、勘の良さは相変わらずだ」
現れたのは、組の若衆の一人、松田だった。
拓海ほどではないが、俺が目をかけていた男だ。
だが、その手に握られているのは、鈍く光るトカレフだった。
「松田……。何の意味だ、これは。お前、親に黙って何をやってる」
「親父の命令ですよ、和貴さん。あんた、動きすぎだ。拓海のことは事故。それで終わった話だというのに」
松田の目が泳いでいる。
引き金を引く指がわずかに震えている。
だが、だからこそ危うい。
何より、絶望したのはその言葉だ。
――親父の、命令。
「親父が、俺を消せと言ったのか?」
「……組織の和を乱す奴は、たとえ若頭でも切り捨てる。それが榊原組の掟です」
松田が叫ぶと同時に、銃口が跳ねた。
乾いた破裂音が路地に響く。
俺は反射的に横へ飛び込み、濡れたゴミ袋の陰に身を隠した。
一発、二発。
弾丸がアスファルトを削り、火花が散る。
「クソが……ッ!」
俺は懐からドスを引き抜いた。
銃に対して刃物で挑むのは自殺行為だ。
だが、この距離なら勝機はある。
松田が三発目を撃とうとした瞬間、俺は迷わず突っ込んだ。
「……っ、!」
怯んだ松田の腕を掴み、捻り上げる。
銃が地面に落ち、高い金属音を立てた。
そのまま喉元に刃を突き立て、壁に押し付ける。
「吐け。どこまで知ってる。拓海を殺したのは、お前か?」
「し、知らない…俺はただ、あんたを足止めしろって……」
「嘘をつくな!」
ドスの先を、松田の皮膚に数ミリ食い込ませる。
赤い筋が、奴の青白い首を伝った。
その時、路地の入り口に一台の車が急停車した。
志摩だ。
「そこまでにしろ、黒嵜!」
志摩の声に一瞬、意識が削がれた。
その隙を突き、松田は俺を突き飛ばして闇の中へと逃げ去っていった。
追おうとした俺の肩を、志摩が強く掴む。
「追っても無駄だ。それより見ろ、これがお前の言う『家族』の正体だ」
志摩が見せたスマホの画面には、死ぬ数時間前の拓海が、榊原組の本部ビルに入っていく映像が映っていた。
そして、その隣を歩いていたのは――。
「……嘘だろ」
映像の中で拓海と親しげに話していたのは、他でもない
俺が実の父のように慕ってきた組長、榊原だった。
心臓が、嫌な音を立てて脈打つ。
俺の中の「信頼」という名の城壁が、音を立てて崩れ落ちていく。
俺が守ってきたものは、全部、幻だったのか。
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