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店を出て、あえて人通りの少ない裏路地を選んで歩く。
背後に張り付く気配は消えていない。
一定の距離を保ち、殺意を隠そうともしない不躾な視線。
志摩の言葉を待つまでもなく、俺の肌が「敵」の存在を叫んでいた。
「……出てこいよ」
立ち止まり、声をかける。
街灯のオレンジ色が届かない闇の奥から、男が一人、ゆっくりと姿を現した。
「流石ですね、勘の良さは相変わらずだ」
現れたのは、組の若衆の一人、松田だった。
拓海ほどではないが、俺が目をかけていた男だ。
だが、その手に握られているのは、鈍く光るトカレフだった。
「松田……。何の意味だ、これは。お前、親に黙って何をやってる」
「親父の命令ですよ、和貴さん。あんた、動きすぎだ。拓海のことは事故。それで終わった話だというのに」
松田の目が泳いでいる。
引き金を引く指がわずかに震えている。
だが、だからこそ危うい。
何より、絶望したのはその言葉だ。
――親父の、命令。
「親父が、俺を消せと言ったのか?」
「……組織の和を乱す奴は、たとえ若頭でも切り捨てる。それが榊原組の掟です」
松田が叫ぶと同時に、銃口が跳ねた。
乾いた破裂音が路地に響く。
俺は反射的に横へ飛び込み、濡れたゴミ袋の陰に身を隠した。
一発、二発。
弾丸がアスファルトを削り、火花が散る。
「クソが……ッ!」
俺は懐からドスを引き抜いた。
銃に対して刃物で挑むのは自殺行為だ。
だが、この距離なら勝機はある。
松田が三発目を撃とうとした瞬間、俺は迷わず突っ込んだ。
「……っ、!」
怯んだ松田の腕を掴み、捻り上げる。
銃が地面に落ち、高い金属音を立てた。
そのまま喉元に刃を突き立て、壁に押し付ける。
「吐け。どこまで知ってる。拓海を殺したのは、お前か?」
「し、知らない…俺はただ、あんたを足止めしろって……」
「嘘をつくな!」
ドスの先を、松田の皮膚に数ミリ食い込ませる。
赤い筋が、奴の青白い首を伝った。
その時、路地の入り口に一台の車が急停車した。
志摩だ。
「そこまでにしろ、黒嵜!」
志摩の声に一瞬、意識が削がれた。
その隙を突き、松田は俺を突き飛ばして闇の中へと逃げ去っていった。
追おうとした俺の肩を、志摩が強く掴む。
「追っても無駄だ。それより見ろ、これがお前の言う『家族』の正体だ」
志摩が見せたスマホの画面には、死ぬ数時間前の拓海が、榊原組の本部ビルに入っていく映像が映っていた。
そして、その隣を歩いていたのは――。
「……嘘だろ」
映像の中で拓海と親しげに話していたのは、他でもない
俺が実の父のように慕ってきた組長、榊原だった。
心臓が、嫌な音を立てて脈打つ。
俺の中の「信頼」という名の城壁が、音を立てて崩れ落ちていく。
俺が守ってきたものは、全部、幻だったのか。