テラーノベル
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志摩のスマホに映る映像を、俺は食い入るように見つめた。
無機質な監視カメラのノイズの向こうで
拓海は少し緊張した面持ちで、親父……榊原組長の隣を歩いている。
親父はいつものように慈父のような笑みを湛え、拓海の肩を叩いていた。
その数時間後、拓海は顔を潰された死体になった。
「……これが、証拠だってのか」
俺の声は、自分でも驚くほど冷え切っていた。
「証拠とまではいかないが、状況は真っ黒だ。あの夜、組長が本部を出た記録はない。だが拓海は二度と出てこなかった。裏口から運び出されたと見るのが自然だろう」
志摩はスマホをポケットにしまい、同情を含んだ視線を俺に投げた。
「黒嵜、お前はもう『榊原組の黒嵜和貴』じゃいられない。あの中にいれば、次は確実にお前の番だ」
「うるせえ……」
俺は志摩を突き放し、夜の街へと歩き出した。
頭の中では、松田の放った銃声と
親父の「静かに送ってやれ」という声が、歪んだレコードのように繰り返される。
気づけば、俺は組の本部ビルの前に立っていた。
要塞のような重厚な門構え。
かつてはここが、俺の帰るべき唯一の場所だった。
だが今は、巨大な墓標にしか見えない。
「若頭!お戻りですか」
入り口にいた若い衆が慌てて頭を下げる。
俺はそれを無視して、最上階にある組長室へと向かった。
長い廊下を歩く足音が、やけに大きく響く。
重い扉を叩くこともせず、俺は静かに部屋へ入った。
部屋の奥、大きな机に座った親父は、老眼鏡を外してゆっくりと顔を上げた。
「和貴か。松田から連絡があったぞ。……しくじったようだな」
その言葉に、わずかに残っていた希望の火が消えた。
親父は、俺を消そうとしたことを隠そうともしなかった。
「親父……。拓海は、あんたにとって何だったんですか。俺たちは、あんたの何だったんだ」
「和貴。組織というのはな、巨大な生き物だ。壊死しかけた細胞があれば、早めに切り捨てねばならん。それがたとえ、愛着のある部位だとしてもだ」
親父は立ち上がり、窓の外を見つめた。
「あいつは余計なものを見た。この組織を維持するために、触れてはならん闇にな」
「……その闇のために、弟を殺したのか」
俺はドスの柄を握りしめた。
拳が、怒りと悲しみで激しく震える。
「お前もだ、和貴。お前は優秀すぎた。そして、情に厚すぎた」
親父が振り返る。
その目は、かつて俺を拾った時の慈愛に満ちたものではなく、冷徹な捕食者のそれだった。
「今日をもって、黒嵜和貴を破門とする。……生きてこのビルを出られると思うなよ?」
親父が卓上のベルを鳴らすと同時に、左右の隠し扉から数人の男たちが飛び出してきた。
全員、俺が手取り足取り教えてきた部下たちだ。
俺は笑った。
口の端から、乾いた笑いが漏れた。
俺はドスを抜き放ち、かつての「家族」へと踏み込んだ。
復讐の火が、俺の理性を焼き尽くしていく。
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