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佐久間くんの伏せられた長い睫毛が震えてる。
目尻に僅かに光るものが見えて、それがまるで宝石みたいに思えて顔を近付けた。
顔にかかる陰に気付いて視線を上げると、蓮の端正な顔が思いの外近くにあった。
驚きよりも綺麗だなって見惚れてしまって、ついじっと見つめてしまう。
ーそして同時に、思った。
((……あ、キスしちゃう))
意識した時にはもう唇は重なっていて
数秒柔らかく触れただけで離れた後は、お互い呆然と相手の顔を見ていた。
コンコン
響いたノックの音に同時に肩をびくっと震わせる。
「めめー、佐久間いた?そろそろ時間だけど」
扉からひょっこりと顔を覗かせた深澤の普段通りの声に、はっと我に返った。
「あっ、う、うん。今戻ろうとしてたところ」
「わ、悪いな深澤。すぐ行く!」
「…? ならいいけど」
俺達の様子に深澤が不審そうな顔をしてたけど、正直それを気にする余裕なんてこれっぽっちもなくて。蓮の方を振り向くことも出来ずに急いで部屋を飛び出した。
「何だあいつ。…何かあったのか?」
「…ない、けど…あったかも」
「は?」
二人を置いて部屋を出た俺は、そんな会話が交わされてるなんて知る由もなかった。
何で?どうしてキスなんてしちゃったんだろう?
これまで蓮のことを恋愛対象として意識したことなんてない。蓮からだって、そんな気配を感じたことはないのに。
その場の雰囲気?それにしたって何でキス??
それにしても蓮の唇ちょっとかさついてたな。でも柔らかくて…何か気持ち良かった、かも…?
そうじゃなくて!!
ぐるぐるぐるぐる
もうずーっと思考はループしっ放し。
雑誌のインタビューだって何を聞かれて何を答えたのか全然覚えてない。後でマネージャーに変なこと言ってなかったかチェックして貰おう…。
全員での撮影は終わってたから、一人一人の撮影をして今日は終わり。
この後は仕事も入ってないし、もうとっとと帰ろう!そしてツナとシャチに癒してもらって寝て忘れる。それがいい。絶対。
そう心に決めて、いつもはダラダラと居座る控え室から出ようとして
結果、失敗した。
「れ、蓮…」
「…帰るんなら、一緒に帰ろ佐久間くん」
「あ、いや、え?」
「いいよね?」
扉の前に立ちはだかる蓮は、さながらそり立つ壁だ。
それに何か圧がすごい。
怒ってるとか不機嫌なわけじゃないけど、顔が真剣過ぎてちょっと怖い。
え、何で?
「はいはいお二人さん、出入り口塞いだら邪魔だからね」
何だか真剣な蓮と戸惑ってる俺の間に深澤が入ってきた。
え、何そのニヤけ顔。
「仲良く一緒に帰ればいいだろ? 先輩後輩で風呂友なんだから」
「え、今それ関係あんのか?」
「あるあるある。関係しかない。なー、めめ?」
ニヤニヤしてる深澤に話を振られて、さすがに蓮も困り顔してる。何でこいつこんなに楽しそうなんだよ。
「はいはい、いいから帰った帰った!」
「え、ちょ、おい!!」
「ちょっとふっかさん?」
くいぐいと深澤に背中を押されて控え室から放り出される。
「じゃーな、お疲れ様〜」
にこやかに手を振る深澤が扉をぱたりと閉めて。廊下に取り残された蓮と二人、気まずい沈黙が降りる。
何この空気どうすんだよ。
蓮の方を振り向くことも出来ずにいると、ふーっと息を吐く音が聞こえた。
「佐久間くん、行こ。俺今日車だし送ってくから」
さっきより柔らかい声に思わず顔を上げる。困った顔はさっきと変わらないけど、ちょっと微笑んでもいた。
「…分かった、よろしくな」
車の中は特に会話もなく、お互いに黙ったまま俺の自宅に到着した。俺が蓮といて、こんなに喋らないの初めてじゃないかってくらい。
マンションの前に停まってまだ続く沈黙。
ちらっと蓮の方を見ると目が合って、それが何だかしょぼくれた大型犬みたいに見えた。
もうここまで来たら仕方ないと腹を括る。
「家、上がってくか」